2022年5月14日土曜日

 昨日言った「でんでんコンバーター」を使って、Kindle Direct Publishingに挑戦しようと思った。とりあえず「こやん源氏」で作ってみた。
 ただ、手続きの方となると、こういうの苦手だから、口座登録でどうすれば半角カタカナになるのか知らなくて、F8を押せばよかったのね。あとTINがわからなくて、マイナンバーのことだったんだね。
 そんなことでバタバタしているうちにあっという間に時間が過ぎて行った。
 でも、昔『野ざらし紀行─異界への旅─』という本を自費出版して、金も時間もかかって売れたのは百冊なんて頃にくらべると、時代は変わったもんだ。
 何のかんの言って一日で本ができたんだから、これなら何度でもチャレンジできる。前は大赤字だったが、今度は小遣い銭くらい稼げるといいな。

 それでは「ほととぎす(待)」の巻の続き。

 二表、十九句目。

   かけがねかけよ看経の中
 ただ人となりて着物うちはをり  野水

 「ただひと」は多義で、コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「徒人・只人・直人・常人」の解説」に、

 「① 神仏、また、その化身などに対して、ふつうの人間。また、特別の能力や才能を持っている人に対して、あたりまえの人間。つねの人。ただのひと。多く、打消の表現を伴って、すぐれていること、ただの人間でないことなどを評価していう。
  ※書紀(720)神代下(兼方本訓)「顔(かほ)色、甚だ美(よ)く、容貌(かたち)且閑(みやび)たり。殆に常之人(タタヒト)に非(あら)す」
  ※平家(13C前)六「凡はさい後の所労のありさまこそうたてけれ共、まことにはただ人ともおぼえぬ事共おほかりけり」
  ② 天皇・皇族などに対して、臣下の人。
  ※伊勢物語(10C前)三「二条の后のまだ帝にも仕うまつり給はで、ただ人にておはしましける時」
  ③ 身分ある人に対して、身分・地位の低い人。なみの身分の人。摂政・関白に対して、それ以下の人、上達部(かんだちめ)・殿上人(てんじょうびと)などに対して、それ以下の人など、場合により異なる。
  ※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「土庶(タダヒト)の百千万なるい 亦王に随ひて城を出でぬ」
  ※徒然草(1331頃)一「一の人の御有様はさらなり、ただ人も、舎人など給はるきははゆゆしと見ゆ」
  ④ 僧侶に対して、俗人をいう。
  ※書紀(720)推古三二年四月(岩崎本平安中期訓)「夫れ道(おこなひする)人も尚法を犯す。何を以て俗(タタ)人を誨(をし)へむ」

とある。
 前句の看経からすると、④で還俗したということであろう。財産に執着するようになって、鍵をかける習慣を付ける。
 二十句目。

   ただ人となりて着物うちはをり
 夕せはしき酒ついでやる     荷兮

 還俗したということで、酒を断つ必要もなく、まあ一杯。
 二十一句目。

   夕せはしき酒ついでやる
 駒のやど昨日は信濃けふは甲斐  野水

 馬で旅する人で宿に着いてもいろいろやることはあるが、それでもまあ一杯。
 二十二句目。

   駒のやど昨日は信濃けふは甲斐
 秋のあらしに昔浄瑠璃      荷兮

 古浄瑠璃を語る琵琶法師とする。この時代にはかなり珍しくなっていたか。陸奥にはまだいて、芭蕉が『奥の細道』の旅で遭遇している。
 二十三句目。

   秋のあらしに昔浄瑠璃
 めでたくもよばれにけらし生身魄 野水

 生身魄は「いきみたま」。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「生御霊・生身魂」の解説」に、

 「〘名〙 両親のそろった者が、盆に親をもてなす作法。また、そのときの食物や贈り物。他出した息子や嫁した娘も集まり、親に食物をすすめる。精進料理でなく、贈り物にも刺鯖(さしさば)を使うことが多い。近代、東京でも、老いた親のある者が、盆中に魚を捕り、調理して親にすすめる風習があった。これは生きたみたまも盆に拝む風習があったためといわれる。生盆(いきぼん)。《季・秋》
  ※建内記‐嘉吉元年(1441)七月一〇日「五辻来、面々張行、聊表二祝著一之儀、毎年之儀也。世俗号二生見玉一」
  ※俳諧・花摘(1690)下「生霊(イキミタマ)酒のさがらぬ祖父かな〈其角〉」
  [語誌](1)「生きている尊親の霊」の意で、死者の霊ばかりでなく、生きている尊者の霊を拝むという気持から始まった。
  (2)「盂蘭盆経」に「願使三現在父母、寿命百年、無レ病無二一切苦悩之患一」とあるのに基づくものか。」

とある。
 お盆の時にまだ健在な両親への孝行として、琵琶法師を呼ぶ。
 二十四句目。

   めでたくもよばれにけらし生身魄
 八日の月のすきといるまで    荷兮

 「すきと」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「すきと」の解説」に、

 「① 少しも残るところがないさま、また、ある状態に完全になるさまを表わす語。すっかり。
  ※史記抄(1477)四「秦使相国呂不韋誅之、此ですきと滅たぞ」
  ※評判記・色道大鏡(1678)一五「帰国の事をすきとわすれつつ、二ケ月ばかり京にとどまりてかよひ」
  ② (下に打消を伴って) その事すべてにわたって否定するさまを表わす語。全然。まるで。すっかり。
  ※箚録(1706)「其れほど又海殊外(ことのほか)遠くして海魚の分すきと無レ之」
  ※談義本・水灌論(1753)三「われらすきと合点まいらず」

とある。今の「すっきり」と「すっかり」に相当する。
 八日の月は上弦の月で、夜中に沈む。お盆には少し早いが七夕の後という微妙な日付だ。十五日の死者を迎えるお盆と区別して、少し早く生身魄を行っていたか。
 二十五句目。

   八日の月のすきといるまで
 山の端に松と樅とのかすかなる  野水

 暗い半月だから、山の端の松と樅もはっきりとは見えない。
 二十六句目。

   山の端に松と樅とのかすかなる
 きつきたばこにくらくらとする  荷兮

 景色がはっきり見えないのを、きつい煙草のせいとする。
 二十七句目。

   きつきたばこにくらくらとする
 暑き日や腹かけばかり引結び   荷兮

 ただでさえ暑さでくらくらしそうな時に、腹掛け一つのほとんど裸でタバコを吸う。
 二十八句目。

   暑き日や腹かけばかり引結び
 太皷たたきに階子のぼるか    野水

 夏祭りの情景か。

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