2021年10月8日金曜日

 今日は晴れた。
 さて、『次韻』へ行く前に、この『次韻』を巻くきっかけになった延宝九年刊信徳編の『俳諧七百五十韻』の最後の五十韻、「八人や」の巻を読んでみようかと思う。
 これを読むことで、『次韻』が当時どのようなものだったか、少しはわかるのではないかと思う。
 芭蕉は京で出版されたこの『俳諧七百五十韻』をテキストとして読んで、それに答えようと企画されたのが『俳諧次韻』で、テキストとして信徳や春澄といったかつての仲間に届けたかった、そこから『俳諧次韻』がこれまでにない画期的な蕉風確立の書になったのではないかと思う。
 テキストは『普及版俳書大系15 談林俳諧後集上巻』(一九二九、春秋社)による。例によって注釈がない。
 発句は、

 八人や俳諧うたふ里神楽     如泉

で、八人による八巻の最後ということで、八人で俳諧を唄うとする。
 「里神楽」という冬の季語を選んでいるのは、八巻が春二巻、夏二巻、秋二巻、冬二巻となっていて、その最後だから必然的に冬になる。これも、発句は当座の季を読むというのを無視した、テキストとしての俳諧を狙ったものになっている。
 脇。

   八人や俳諧うたふ里神楽
 かざしの豆腐玉串の霜      信徳

 神楽は幣束や榊を手に持って舞うことが多い。まあ、玉串のようなものと見ていい。
 ここはあくまで俳諧の里神楽だから、玉串の代わりに豆腐の串をかざして舞う。当時の豆腐は今の豆腐よりも堅くて、串に刺せたのではないかと思う。
 第三。

   かざしの豆腐玉串の霜
 釣薬缶千枝の真杉片折て     如風

 前句の豆腐を酒の肴とし、釣り薬缶で酒を熱燗にする。「千枝の真杉片折て」は普通に薪をくべることを前句に合わせて、神事っぽく呼んだものであろう。
 四句目。

   釣薬缶千枝の真杉片折て
 風にひびきのなをし釘けり    春澄

 「釘けり」の読み方はわからない。薬缶の修理で焼釘を打つということか。
 五句目。

   風にひびきのなをし釘けり
 假緘の雲かさなりて白妙に    政定

 假緘は「カリトヂ」とルビがふってある。仮綴だと、コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「仮綴」の解説」に、

 「〘名〙 仮に綴じておくこと。本式にではなく間に合わせに本に仕立てておくこと。仮製本。⇔本綴。
  ※実隆公記‐文明一八年(1486)一〇月一日「自二親王御方一新写源氏物語料紙仮閇事被レ仰レ之」
  ※浮世草子・男色大鑑(1687)五「かりとぢにして、手日記此上書に初枕としるせり」

とある。
 句は「白妙に假緘の雲かさなりて」の倒置で、重なる雲を紙に見立てて本のように仮綴じにする。閉じる際に釘を打ち付けて綴じるための穴をあけるということか。
 六句目。

   假緘の雲かさなりて白妙に
 青物使あけぼのの鴈       仙菴

 空が青い空に白い雲があるように、曙の頃に捕らえられた鴈は青物(野菜)と一緒に鍋になる。
 七句目。

   青物使あけぼのの鴈
 久堅の中間男影出で       常定

 中間は「ちゅうげん」でコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「中間」の解説」に、

 「① 時間的・空間的に二つの物事のあいだ。両者のあいだに位置すること。なかほど。ちゅうかん。
  ※菅家文草(900頃)五・夏日餞渤海大使帰「送迎毎レ度長青眼、離会中間共白鬚」 〔色葉字類抄(1177‐81)〕
  ② 事の最中、途中。行事や会議などの進行中。
  ※性霊集‐四(835頃)奉為国家請修法表「望二於其中間一、不レ出二住処一不レ被二余妨一」
  ※枕(10C終)八「ちゅうげんなるをりに」
  ③ (形動) どっちつかずであること。また、そのさま。
  ※源氏(1001‐14頃)真木柱「いと事の外なることどもの、もし聞えあらば、ちうけんになりぬべき身なめり」
  ④ 仏語。二つのものの間にあるもの、間に考えられるもの。有と無の間(非有非無)、内空と外空の間(内外空)、前仏と後仏の間(無仏の時)などといったことに用いる。
  ※発心集(1216頃か)五「二仏の中間(チウゲン)やみふかく、闘諍堅固のおそれはなはだし」 〔観経疏‐散善義〕
  ⑤ (「仲間」とも) 昔、公家・寺院などに召使われた男。身分は侍と小者の間に位する。中間男。
  ※古今著聞集(1254)一二「『おのれめしつかふべきなり』とて、〈略〉御中間になされにけり」
  ⑥ (「仲間」とも) 江戸時代、武士に仕えて雑務に従った者の称。→小者④。
  ※仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)下「女の仕事したむ無さうに見えければ、中間なりける男の詠みて遣りける」
  ⑦ 江戸幕府の職名。三組合わせて五百数十人おり、中間頭の下に長屋門番などを命ぜられた。
  ※吏徴(1845)下「御中間五百五十人 十五俵一人扶持」

とある。江戸時代だと大体⑥か⑦の意味になる。雁を捕まえてきて料理するのも役目の一つ。
 ところで、久堅というと光だとか天だとかに掛る枕詞だが、何で中間に掛るのだろうか。それに七句目だからここは月の定座になる。前句に「鴈」という秋の季語があり、この後の句に「薄」という秋の季語がある。つまりここに「月」の字が抜けていることになる。
 あるいは中間は中元(七月十五日)ということで月の代わりとしたか。
 八句目。

   久堅の中間男影出で
 薄がもとの乞食斬らむ      正長

 中間は荒くれ者のイメージがあり、乞食とかを相手に辻斬りとかやってそうだ。

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