2020年6月30日火曜日

 今年の上半期が終る。年の初めはゴーンさんだったが、もうみんな忘れているのでは。そのあとはとにかくコロナに明け暮れた。
 コロナでとにかくたくさんの人の命が奪われていった。世界では五十万人を越え、日本でも千人に迫っている。
 報道では数字ばかりだが、亡くなった人の無念、残された人の悲しみははかりしれない。
 アマビエ巻九十九句目。

   蝶の羽にも時間よ戻れ
 疫病に涙も果てぬこの世界

 それでは「早苗舟」の巻の続き。さすがに「子は裸」の巻ではちょっとという所で「早苗舟」の巻と呼称することにした。

 五句目。

   与力町よりむかふ西かぜ
 竿竹に茶色の紬たぐりよせ     野坡

 紬(つむぎ)は紬糸で織った絹織物で、紬糸はウィキペディアに、

 「絹糸は繭の繊維を引き出して作られるが、生糸を引き出せない品質のくず繭をつぶして真綿にし、真綿より糸を紡ぎだしたものが紬糸である。 くず繭には、玉繭、穴あき繭、汚染繭が含まれ、玉繭とは、2頭以上の蚕が一つの繭を作ったものをいう。」

とある。
 江戸時代にはたびたび奢侈禁止令が出され、庶民が絹を着ることを禁じられていたが、裕福な商人は一見木綿に見える紬を好んで着たという説もある。
 紬の色としては目立たない茶や鼠が用いられた。
 句は表向きは西風で竿に掛けた紬が片方に寄ったというものだが、与力が岡っ引きを引き連れてやってくるというので、あわてて干してあった紬を取り込んだとも取れる。
 六句目。

   竿竹に茶色の紬たぐりよせ
 馬が離れてわめく人声       孤屋

 荷物を運ぶ馬であろう。繋いであった馬がいつの間に綱が解けて勝手に歩き出してしまったので、みんな抑えようと大騒ぎになる。
 どさくさに紛れて干してあった紬を失敬しようということか。
 七句目。

   馬が離れてわめく人声
 暮の月干葉の茹汁わるくさし    利牛

 「干葉(ひば)」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、

 「1 枯れて乾燥した葉。
  2 ダイコンの茎や葉を干したもの。飯に炊き込んだり汁の実にしたりする。」

とある。
 「わるくさい」はweblio辞書の「三省堂 大辞林 第三版」に、

 「( 形 ) [文] ク わるくさ・し
  〔「わるぐさい」とも〕
  いやなにおいがする。 「近く寄つたら-・い匂が紛(ぷん)としさうな/平凡 四迷」

とある。
 前句を馬子の家でのこととし、馬子の位で貧しい干葉の汁物を付けたのであろう。
 干した大根の葉の匂いは嗅いだことないからよくわからないが、ネットで見ると干葉を入浴剤に使う人が結構いるようで、それによると大根の葉には硫化イオンが含まれているので硫黄の匂いがするという。
 暮の月で時刻は秋の夕暮れ時。
 八句目。

   暮の月干葉の茹汁わるくさし
 掃ば跡から檀ちる也        野坡

 臭みのある干葉の汁を食う人を隠遁者としたか。寒山拾得ではないが、庭を掃き清めていると、そこにまた檀(まゆみ)の葉が落ちてくる。
 香木の栴檀、白檀などの檀ではなく、ここではニシキギ科のマユミのことであろう。秋には紅葉する。

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