2020年6月8日月曜日

 バンクシーには今までそんなに興味がなかったが、まあ、作品という意味ではいろいろな解釈が可能なので、一つ遊んでみようかと思う。
 Banksy - On racism and Black Lives Matter (June 6, 2020)というyoutubeで公開されたテキストによるが、正直この作品のタイトルでもありアメリカでのデモのスローガンでもあるBlack Lives MatterのMatterのニュアンスがわからない。Matterというと思い浮かぶのは、「What's the matter with you?」でまあ、どうしたの?(問題は何なの?)ということなのか。黒人の死活問題ということなのか。
 日本のメディアは「黒人の命も大切だ」と訳していて、これは「すべての人の命が大切だ」ではなく黒人の命だけが軽んじられているから問題だというニュアンスで用いられている。
 アメリカの黒人問題に限定するなら、「黒人の命も大切だ」ということでいいのだろう。ただ、差別は世界中にある。白人がほとんどの国では白人同士で差別があり、黒人がほとんどの国では黒人同士で差別があり、黄人がほとんどの国では、日本も含めて、黄人同士で差別がある。
 だから、外国人(アメリカ以外の人)がこの暴動を見たとき、それはアメリカの特殊な問題ではなく自分たちの問題でもあると認識するのは自然なことだろう。バンクシーも、

At first I thought I should just shut up and listen to black people about this issue. But why would I do that? It's not their problem. It's mine,

と言っている。
 ただ、我々と違うのは、バンクシーはイギリスの白人であるため、おそらくイギリス国内での黒人差別のことを思い浮かべているのだろう。

People of colour are being failed by the system. The white system. Like a broken pipe flooding the apartment of the people living downstairs. The faulty system is making their life a misery, but it's not their job to fix it. They can't, no one will let them in the apartment upstairs.
This is a white problem. And if white people don't fix it, someone will have to come upstairs and kick the door in,

 問題は白人のシステムであり、それを配水管に喩えて二階の配水管が壊れると一階が水浸しになるように、白人のシステムの欠陥が黒人の生活を悲惨なものにしているというわけだ。だったら、一階の住人は二階へ押しかけ、ドアを蹴破ることになる。それが今回の暴動だというわけだ。
 問題は、白人のシステムのどこに穴があるかだ。それについては言及されてない。でも難しいのは結局そこだろう。それは白人自身も自覚していないし、何をしていいかもわからない。バンクシーも言及しない。
 作品は二つの映像で構成されている。
 最初のは肩から上の黒い人物の輪郭と白い二つの眼で、黒人を連想させようというのだろうがリアルに描いてはいない。ともすると何か悪霊のようにすら見える。その横に白い花があり、この花が何を意味するのかイギリス人にはわかるのかもしれない。その横には蝋燭がある。まあ、一般的に見れば簡素な形で遺影を祭っているということなのだろう。
 二つ目の映像は、その上部が付け加わり、蝋燭の炎の先が星条旗の裾を燃やしている。まあ、イギリス人にとって星条旗は他国の国旗だから、ここは不快感を感じる所ではないのだろう。(ここでユニオンジャックを燃やしていたらどうなるのかは気になる所だが。)
 この星条旗は何を象徴しているのだろうか。アメリカ合衆国という国家だろうか、それともアメリカの白人社会に限定されるのだろうか。いわゆる白人のシステム(The white system)のことなのだろうか。
 ともするとこの白人のシステムは資本主義と同一視され、社会主義革命に結び付けようとする人たちによって利用されることになる。ただ、黒人差別が資本主義の疎外(仲間はずれ)の問題だとしても、飢餓と粛清の地獄と化した過去の計画経済と富の再分配を再現するのは危険だ。
 疎外(仲間はずれ)の問題は仲間に加える、つまり黒人の企業を容易にし、黒人の企業が沢山生じ、黒人市場が市場全体に大きな影響力を持つことで解消する事は可能であろう。これは他の差別についても言える。LGBTもまた起業し、LGBT市場を作り出すという解決策がある。
 資本主義は日本にも韓国にもあるし、アフリカ諸国が成長すれば黒人の資本主義も世界を席巻する日が来るかもしれない。資本主義は当然白人限定のものではなく、誰もが参加可能だ。
 そうなると、黒人を水浸しの一階に閉じ込めているシステムは資本主義とはまた別にあるのだろう。
 あの絵はたとえば黒人を資本主義から疎外された哀れな被害者として、その怒りの炎が資本主義の象徴であるアメリカ国旗を焼いているという解釈も可能だろう。世界中の左翼は多分そう解していると思う。まあ、多分そのあとは灰になった星条旗の場所に中国国旗が掲げられ、黄色い連中があの遺影を蹴っ飛ばしてゆくのだろう。
 だが、別の解釈もできる。あの遺影は黒人ではない。黒く塗られ、悪霊化された人間にすぎない。それはどの人種というわけでもない。そして彼は早く火を消すように心の中で叫んでいる。あるいは火を消そうとして念じている。蝋燭は彼の意に反してあの位置に置かれ、星条旗を燃やす罪を擦り付けられたのだ。
 誰がそのような魔法を掛けたのか、それが本当の問題なのかもしれない。だから彼に聞いてみることができるなら聞いてみたい。What's the matter with you?
 愚案ずるに、白人のシステム(The white system)というのは古代ギリシャ以来続いてきた、理性の支配ではないかと思う。理性を持たぬものは肉体の奴隷であり、元から肉体の奴隷なら奴隷にしてもいいという思想だ。その理性は万人の理性ではなく、あくまでヨーロッパの形而上学に他ならない。
 こうして奴隷の労働の上に自由人が君臨する。これは古代ギリシャ以来変わっていない。

   空には昼の月が霞んで
 今日もまた仕事ないまま花を見る

 それでは「応仁二年冬心敬等何人百韻」の続き。

 名残表。
 七十九句目。

   つとむるかねを寿ともきけ
 杯をめぐらすまどひ惜しき夜に   長敏

 還暦か喜寿か、そういった長寿の祝いの席だろう。夜通し飲み交わし、夜明けの鐘を聞けば、それも長寿をことほいでいるのだと聞くことになる。
 八十句目。

   杯をめぐらすまどひ惜しき夜に
 琴の音のこるあり明の空      宗祇

 明け方の琴は『源氏物語』橋姫巻の薫が宇治八の宮を尋ねる場面か。
 八十一句目。

   琴の音のこるあり明の空
 消えもせぬ身をうき人の秋深けて  幾弘

 金子金次郎は、

 わび人の住むべき宿と見るなへに
     嘆きくははる琴の音ぞする
            良岑宗貞(古今集)

の歌を引いている。本歌による付け。
 八十二句目。

   消えもせぬ身をうき人の秋深けて
 雲きりいく重すめる山里      宗悦

 前句の「消えもせぬ」を「雲きり」で受ける。これによって「消えもせぬ」は身の消えぬと雲霧の消えぬとの二重の意味を持つことになる。
 八十三句目。

   雲きりいく重すめる山里
 五月雨は水の音せぬ谷もなし    心敬

 これは心敬の得意なパターンと言うか、水の音はするが水の姿は見えない谷があるということを逆説的に述べたもの。そこで前句の雲霧幾重に繋がる。
 八十四句目。

   五月雨は水の音せぬ谷もなし
 ながれの末にうかぶむもれ木    宝泉

 五月雨の増水に、埋もれ木も浮かんでしまう。
 「うもれぎ」はweblio古語辞典の「学研全訳古語辞典」に、

 「①木の幹が、長い間水や土の中に埋もれていて炭化したもの。細工物に用いる。仙台に近い名取(なとり)川のものが有名。
  ②世間から捨てられて、顧みられない身の上のたとえ。◆中古以降は多く「むもれぎ」と表記。」

とある。名取川のものは長く川底に沈んでいた流木で、数百年数千年腐らず、鉄分などを吸収し黒色化したものをいう。それが時折河原に打ち上げられ採取され、細工に用いられる。
 みちのくの名取川の埋もれ木は、

 名取川せせの埋れ木あらはれは
     いかにせむとか逢見そめけむ
           よみ人しらず(古今集)

など歌に詠まれている。

 みちのくにありてふ川の埋れ木の
     いつあらはれてうき名とりけん
           源時清(続古今)

の歌ではあれはれては「浮き」と掛けて用いられている。

0 件のコメント:

コメントを投稿