日本の終身雇用制度が日本特有の様々な問題の元になっていることは、これまでもいろいろと指摘されてきたが、未だに改善されないのは労使双方にそれを守ろうという圧力があるからだ。
雇う方は会社であれ役所であれ、一生一つの組織に縛り付けることで生殺与奪権を握れるし、無理な要求も解雇された後の再就職が難しければ通し易くなる。
働いている方も、有休もとれない、サービス残業青天井などの不満はあっても、とりあえず我慢していれば一生安泰というのがあって、むしろそれを奪われるのを恐れている。
生涯に渡る運命共同体を作ることで、職場は村社会と化して、仕事の効率も上がらないから賃金も上がらない。
日本の官僚の問題は、省庁をいくら再編したって解決されない。どのように再編しようと、そこにいる人間は一緒だからだ。
経団連と癒着した政府自民党も、労働組合の票の欲しい左翼政党も、終身雇用制には手を付けたがらない。国際競争力にまで目の行く一部の経営者の意識には、終身雇用制に何とか風穴を開けたいという欲求はあるのだろう。
リーマンショックで多くの非正規雇用が生じた時が、終身雇用制を壊して行く一つのチャンスだったが、左翼連中は一致して非正規雇用を解消して、全員が終身雇用されることを要求した。
前にも述べたが、日本の政治の貧困も終身雇用制に原因がある。人材の流動性がほとんどない所で政治家を志す人間は、終身雇用からはみ出たアウトローにすぎない。つまり優秀な人材が企業や官庁に囲い込まれてしまい、政治の世界で力を発揮することができない。官僚から政治家になる人はいるが、官僚の利害の代表するだけなら意味がない。
人材が流動的でなく、有能な人間が組織に生涯拘束され、飼殺されている。だから日本には有能な人間はたくさんいる。ただ、組織ではそれが生かされないため、オタクになるしかない。
終身雇用が続く限り、日本の企業の生産性が大きく伸びることはない。生産性が伸びなければ賃金も上がらない。賃金が上がらないから購入能力がないので、慢性的なデフレから抜け出せない。国がいくら金をばら撒いても、終身雇用による長時間低賃金労働の地獄から抜け出せないなら、金は消費に回らない。
あれだけ華やかな財政出動の金がどこに消えたかと言えば、おそらく海外の投資家だ。株価が上がったのだから、日本人が株を買っていれば、十分その恩恵が受けられた。日本人の投資への参加を妨害しているのは誰だったか。
根本的な問題は、どこまでも終身雇用を守ろうとする労使両方の勢力にある。終身雇用のまま日本が社会主義化したら、もっと悲惨なことになるのは目に見えている。
せっかくの「新しい資本主義」も、終身雇用制に風穴を開けるだけの勇気があるかどうか、そこが問われている。
それでは引き続き冬の俳諧を。
継は知足編の『千鳥掛』から、知足・路通両吟歌仙の「から風や」の巻を見て行こうと思う。
発句は、
から風や吹ほど吹て霜白し 知足
意味はそのまんまの意味で、空っ風が連日吹いて、今日も真っ白に霜が降りる寒い日ですね、という季候の挨拶になる。名古屋近辺は伊吹颪と呼ばれる空っ風が吹く。
脇は、
から風や吹ほど吹て霜白し
すくんだやうな冬の簑鷺 路通
簑鷺は蓑毛の生えた鷺という意味だろう。首の下の所から長くのびる羽を蓑毛(蓑羽)という。
寒そうに首をすくめているサギは、どこか簑を着た人間のように見える。
発句の季候に水辺の景を付ける。
第三。
すくんだやうな冬の簑鷺
生魚のすくなひ折は客の来て 路通
生魚は「いきうを」か。干物に対しての鮮魚であろう。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「生魚」の解説」にはいろいろな読み方が載っている。
「いけ‐うお ‥うを【生魚】
〘名〙 (「いけ」は生かしておく意の「いける」から) 食用のために生簀(いけす)などで飼ってある魚。いきうお。
※摂津名所図会(1796‐98)八「兵庫生洲〈略〉諸魚を多く放生(はなちいけ)て常に貯ふ、これを兵庫の生魚(イケウヲ)と云ふ」
せい‐ぎょ【生魚】
〘名〙
① 生きている魚。
※名語記(1275)六「生魚等にもゆひたりといへる詞ある歟」 〔荀子‐礼論〕
② 新鮮な魚。なまざかな。鮮魚。
※春日社記録‐中臣祐賢記・弘安三年(1280)五月一九日「凡当庄神人致二生魚売買之業一」
なま‐うお ‥うを【生魚】
〘名〙 なまの魚。煮たり焼いたりなどしていない魚。なまいお。なまざかな。
※源平盛衰記(14C前)一〇「僧形として、生魚(ナマウヲ)を手に把たる心うさよ」
いき‐うお ‥うを【生魚】
〘名〙
① 生きている魚。
※俳諧・西鶴大句数(1677)二「生魚を我手にかけてまな板に 四五人つかへと役にたたすしや」
② =いけうお(生魚)
なま‐いお ‥いを【生魚】
〘名〙 =なまうお(生魚)
※御伽草子・二十四孝(室町末)「なまいをの鱠(なます)をほしく思へり」
いき‐ざかな【生魚】
〘名〙 =いきうお(生魚)」
お客さんが来ても新鮮な魚でもてなすことができないくらい困窮していて、部屋で簑鷺のように首をすくめて、僅かな火に暖を取っている。
四句目。
生魚のすくなひ折は客の来て
小ぐらい月を無機嫌でみる 知足
コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「不機嫌」の解説」に、
「〘名〙 (形動) (「ぶきげん」とも。その場合「無機嫌」とも表記) 機嫌の悪いこと。また、そのさま。
※玉塵抄(1563)三八「帝のぶきげんにいらをむたぞ」
とあるから、この場合の無機嫌は「ぶきげん」であろう。
月も薄雲がかかって暗く、それに鮮魚もなければ客も不機嫌になる。
五句目。
小ぐらい月を無機嫌でみる
新綿を蒲団にいるる下リ前 知足
「下り前」はよくわからない。布団を目下の人に下げる前に、綿を入れ直すということか。
六句目。
新綿を蒲団にいるる下リ前
碪をもつと遠う聞たき 路通
布団の綿を自分の家で入れるような家だから、砧もいつも自分の家で打つのがすぐそばで聞こえる。遠くから聞えて来る砧なら漢詩や和歌の風情もあるが。
初裏、七句目。
碪をもつと遠う聞たき
色艶もつけぬ浮世の楽をする 路通
貧しければ貧しいなりに、質素な生活をすれば楽ができる。前句の砧を遠くで聞きたいというのを、旅への思いとする。
八句目。
色艶もつけぬ浮世の楽をする
山の中でもはやる念仏 知足
前句を山の中での僧の隠棲とする。念仏を広めている。
九句目。
山の中でもはやる念仏
しら雲の下に芳し花樗 知足
樗(あうち)はセンダンの古名。
念仏の有難さにセンダンの薫りを添える。
十句目。
しら雲の下に芳し花樗
きめよき顔に薄化粧する 路通
「きめ」は「きめ細かい」という時の「きめ」で、「きめよき」は肌がすべすべして状態の良いことを言う。地肌が良ければ厚化粧する必要もない。
前句の「芳し花樗」を美女の比喩とする。
十一句目。
きめよき顔に薄化粧する
哀さをためて書たる文の来る 路通
「哀さをためて」は悲しみを募らせという意味だろう。
美人は美人でいろいろな止むこともある。
十二句目。
哀さをためて書たる文の来る
あくたもくたのせまる物前 知足
「あくたもくた」は役に立たないもののこと。「物前」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「物前・武前」の解説」に、
「① いくさのはじまる直前。
※上杉年譜‐四九・元和四年(1618)七月一三日・上杉景勝条書「於二武前(モノマヘ)一御用相達候様、不断稽古肝要之事」
※三河物語(1626頃)一「小軍が大軍にかさを被レ懸、其に寎(おどろき)て武ば、物前(ものマヱ)にてせいがぬくる者成」
② 正月・盆・節供などの前。物日の前。節季の前。行事の準備や掛買の支払・決算などの時期に当たる。
※俳諧・独吟一日千句(1675)第二「三分一とてとるこがね川 物前や水のごとくにすますらん」
※滑稽本・麻疹戯言(1803)麻疹与海鹿之弁「節前(モノマヘ)の心機(やりくり)も、なく子と病に勝れねど」
③ 江戸時代、遊郭の紋日の前。
※評判記・色道大鏡(1678)二「物前(モノマヘ)ちかくなりて口舌する事なかれ」
とある。恋の句の文脈なら③の意味であろう。
紋日の前になるとろくでもない男たちが群がってきて、何とか本命に来てもらいたいと文を書く。
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