『異世界転生者殺し』というタイトルを聞いた時にすぐに浮かんだのが有象利路さんの『賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求』だった。
まあ、何でも逆の立場で考えてみようというのはNHKの子供番組でもやっていることで、人間の勇者が魔王を倒すドラクエ的な物語も魔王の側からすれば人間の方が侵略者で、魔王の治める国は実は多種多様な種族の共存する多様性社会なのに対し、人間の国は人間中心主義でレイシズムなのではないか、ということにもなる。
だから、最近では勇者をパロディーにする物語も多いし、人間による獣人族の虐殺と戦うというのも定番化してきている。「re:ゼロ」だってハーフエルフ差別と戦っているし、異世界物のほとんどは多種族共存の側に立って書かれている。
『異世界転生者殺し』が間違ったのは、こうした転生者のヒーローをレイシズムを暗示させる側に立たせてしまったからではないか。全部オリジナルキャラなら「賢勇者シコルスキ」といっしょでアリだと思う。
それにしても『異世界かるてっと』で一人だけハブられたカズマって‥‥。あと『異世界食堂』のアレッタは転生者ではなく魔族。
それでは「三味線に」の巻の続き。
十三句目。
うき世めぐりて跡はしら雲
孫八に聞けば秩父も息才に 風叩
孫八は秩父の本間孫八か。横瀬町のホームページの「札所五番語歌堂」のところに、
「小川山語歌堂(臨済宗)といい、本尊は准胝観音である。本間孫八が慈覚大師作と伝えられる准胝観音を安置するために建立した。また、孫八は詩歌の道を極めようと精進していたが、ある日、旅僧が観音堂を参拝に訪れ、二人で夜を徹して和歌の道を語り合い、明け方近くになって遂に和歌の奥義を体得したという。これにより、語歌堂と名付けたといわれている。」
とある。前句をこの僧のこととしたか。
十四句目。
孫八に聞けば秩父も息才に
とろろ数奇かとおもふ出来相 先放
出来相(合)はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「出来合」の解説」に、
「① 注文を受けて作るのでなく、すでにできているもの。既製のもの。あつらえに対していう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※浄瑠璃・三浦大助紅梅靮(1730)一「誂へなりと出来合なと、いざ召ませい」
とある。よほどとろろが好きなのか、いつでも食べられるように作りだめしてある。
十五句目。
とろろ数奇かとおもふ出来相
惣々が御輿おがみに打明て 主筆
「惣々」はその場にいるすべて。「打明」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「打明・打開」の解説」に、
「[1] 〘他カ下一〙 うちあ・く 〘他カ下二〙 (「うち」は接頭語)
① 閉じてあるものを開く。あける。
※平家(13C前)八「人の倉をうちあけて」
② 中のものを出して空にする。容器にはいっているもの、または持っているものを全部出す。
※虎明本狂言・煎物(室町末‐近世初)「水をうちあくるまねする」
③ 家を留守にして外出する。
※浄瑠璃・心中二つ腹帯(1722)三「市の側(かは)から打ちあけて、参る程にける程に」
④ 心のうちなどを包み隠さないで話す。隠すところなくすっかり語る。
※浮世草子・好色敗毒散(1703)五「打明けたる女の底に俄に隔てを入れらるる事、縁の切れ時か」
祭りで神輿を見に来た人がみな家を留守にして、みんな作ってあったとろろを食って鍋を空にする。②と③を掛けている。
十六句目。
惣々が御輿おがみに打明て
河原ばたけのあるる麦の葉 素行
河原の麦畑が御輿が来たので踏み荒らされてしまう。
十七句目。
河原ばたけのあるる麦の葉
鵯も鳩も寝による藪のはな 支考
河原に籔で、河原者の集落を連想させる。藪の中にも桜の花がさいているが、鵯や葉との塒になっている。「其場也」であろう。「鵯も鳩も寝による」に一工夫ある。
十八句目。
鵯も鳩も寝による藪のはな
春の小雨の座敷鞠ける 去来
鵯や鳩が塒にいるのを雨のせいとして、雨だから座敷の中で蹴鞠の練習をする。まあ、今でいうリフティングだ。
蹴鞠は江戸時代前半の一時期、庶民の間でも流行した。ウィキペディアには、
「江戸時代前半に、中世に盛んだった技芸のいくつかが町人の間で復活したが、蹴鞠もその中に含まれる。公家文化に触れることの多い上方で盛んであり、井原西鶴は『西鶴織留』で町民の蹴鞠熱を揶揄している。」
とある。元禄三年刊之道編の『江鮭子(あめこ)』に、
椑柿や鞠のかゝりの見ゆる家 珍碩
の句がある。
二表。
十九句目。
春の小雨の座敷鞠ける
よその子の覗に来たる雛飾り 卯七
雛飾りを見に来ながらも、結局毬を蹴って遊ぶ。男の子が雛をひっくり返したりする。
二十句目。
よその子の覗に来たる雛飾り
うそ八百に咄す商人 風叩
雛飾りを売りに来た商人か。子供相手にホラ話をする。
二十一句目。
うそ八百に咄す商人
幸とおぶくいただく昼さがり 素民
「おぶく」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「御仏供」の解説」に、
「〘名〙 (「お」は接頭語) 仏前にあげる供物(くもつ)。御仏飯(おぶっぱん)。おぶっく。
※虎明本狂言・福の神(室町末‐近世初)「われらがやうなる福殿に、いかにもおぶくを結構して」
とある。供え物のご飯をちょうど下げる所に商人がやってきたか。
二十二句目。
幸とおぶくいただく昼さがり
榎の木に陰る門のほし物 支考
榎の影になったので門の辺りに干した洗濯物を移動させようとすると、偶然にも「おぶく」をいただく。これも其場也。
二十三句目。
榎の木に陰る門のほし物
おか様はいなせてかのに嶋ざらし 先放
「おか様」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「おか様」の解説」に、
「〘名〙 (「おかさま」の変化した語)
① 「おかさま(━様)」のややくだけた言い方。また、江戸吉原などで茶屋や揚屋などの女主人を敬って呼ぶ語。
※雑俳・軽口頓作(1709)「たりませぬ・おかさん起てにぎらしゃれ」
② 「おかあさん(御母様)」の変化した語。
※わらべうた・ずいずいずっころばし(1890頃か)「お父(と)さんが呼んでも お母(カ)さんが呼んでも 行きっこなァしよ」
とある。
「嶋ざらし」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「縞晒・島晒」の解説」に、
「〘名〙 縞のあるさらし布。また、島でさらして製した布ともいう。
※俳諧・懐子(1660)三「えりうらはほのぼのとあかし嶋さらし〈重頼〉」
とある。手下(てか)のための衣か。
二十四句目。
おか様はいなせてかのに嶋ざらし
鐘木の恋を見習ふてやる 卯七
鐘木は「しゅもく」。鐘木の恋は不明。何か出典があるのか。
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