今日は薄曇りだが暖かかった。柳は芽吹いて細い玉の糸になり、桃や白木蓮も咲き出した。川では鴨が遊び鯉が泳ぐ。
さて、旧暦の方でも年が改まり、もう二十一日になる。まずは正月の歌仙ということで「衣装して」の巻を選んでみた。
『校本芭蕉全集 第四巻』(小宮豐隆監修、宮本三郎校注、一九六四、角川書店)によれば、明和三年刊『真向翁』の巻頭に掲げられた一巻だという。年次ははっきりしないが、曾良、路通、前川が新春に揃うとすれば元禄二年しかないという。
前川は同じ大垣の千川と紛らわしいが、『奥の細道』の大垣の所に「前川子・荊口父子、其外したしき人々日夜とぶらひて」とあるから、荊口の息子の三人兄弟の一人の千川とは別人だということが分かる。
同じ元禄二年春の「水仙は」の巻に泉川というのがいるが、本によっては千川になっているという。前川、千川、泉川、とにかく紛らわしい。
それでは発句。
衣装して梅改むる匂ひかな 曾良
「衣装して」というのは着衣始(きそはじめ)のことだろう。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 江戸時代、正月三が日のうち吉日を選んで、新しい着物を着始めること。また、その儀式。《季・春》
※俳諧・犬子集(1633)一「きそ初してやいははん信濃柿」
とある。
干鮭にかえてやゑぞがきぞ始 許六
の句はだいぶ後になる。許六の『俳諧問答』にある。
新しい着物を着て梅の匂いもして年が改まったのを実感する。
脇は大垣の前川が付ける。
衣装して梅改むる匂ひかな
蝶めづらしき入口の松 前川
発句の年賀の挨拶に、入口の門松に珍しい蝶がやってきたと、来客を歓迎する体で受ける。前川の江戸の藩邸での興行だったか。
第三。
蝶めづらしき入口の松
掃よせて消る雪をやこかふ覧 路通
入口の門松の風景として、雪掻きをして雪の山ができていたので、そこだけ囲われたみたいに雪が残っている。
四句目。
掃よせて消る雪をやこかふ覧
石の窪みに墨を摺りけり 芭蕉
雪のなくなった石の窪みに溶けた雪の水が溜まれば、硯のようでもある。ならば墨でも摺って何か書きつけようか。
五句目。
石の窪みに墨を摺りけり
月移る臺の薄を踏敷て 前川
「臺(だい)」はここではうてなのことではなく、高台のことであろう。小高い丘のススキを踏み分けて、ススキの向こうに移り行く月を見ながら、墨を摺り歌か発句を書き付けようか。
六句目
月移る臺の薄を踏敷て
のた打猪の帰芋畑 路通
夜興引(よごひき)のことであろう。前句の「薄を踏敷て」を猪のこととする。コトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、
「《「よごひき」とも》冬の夜間、山中で猟をすること。また、その人。よこうひき。《季 冬》「―や犬心得て山の路/子規」
とある。『去来抄』に、
猪のねに行かたや明の月 去来
の句がある。
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