2021年3月29日月曜日

  今日は如月の望月で桜も満開。望月や花の下にてまだ死なん、なんちゃって。まあ、命なりけりだね。
 いつもの年ならどんちゃん騒ぎやっている公園も今夜は静かだった。もちろんお散歩花見で、飲食せずに帰った。
 あと、延宝六年の「色付や」の巻をアップしたのでよろしく。

 さて、『三冊子』の方はまた一休みして、俳諧の方を読んでみようと思う。
 今回は芭蕉の参加していない『春の日』の歌仙で、『芭蕉七部集』(中村俊定校注、一九六六、岩波文庫)から、まず貞享三年二月十八日の「春めくや」の巻。

   曙見んと、人々の戸扣きあひて、熱田の
   かたにゆきぬ。渡し舟さはがしくなりゆく
   比、幷松のかたも見えわたりて、いとのど
   かなり、重五が枝折をける竹墻ほどちかさ
   にたちより、けさのけしきをおもひ出侍る
   二月十八日
 春めくや人さまざまの伊勢まいり 荷兮

 熱田の宮宿は七里の渡しの乗り場でもあり、朝早く京や伊勢へと旅立つ人が渡し場に押し寄せる。「曙見んと」はそんな夜明けをわざわざ見に行ったか。
 春ともなると、伊勢参りの人も多く、身分も様々でそれをそのまま発句にして、重五の家に集まり、今回の興行となったのだろう。
 そういうわけで、脇は重五になる。

   春めくや人さまざまの伊勢まいり
 櫻ちる中馬ながく連       重五

 「連」は「つれ」と読む。
 二月十八日で桜は早い気もする。この年の二月十八日は新暦の三月十二日になる。伊勢参りに賑わいで街道を延々と馬が連なり、そこに花が散れば、まさにこの世の春爛漫という感じがする。
 第三。

   櫻ちる中馬ながく連
 山かすむ月一時に館立て     雨桐

 「一時」は「いちどき」か。「館」はここでは「イエ」と読ませている。かなり大きな武家屋敷であろう。馬を連ねて明け方に花見に出発する。
 四句目。

   山かすむ月一時に館立て
 鎧ながらの火にあたる也     李風

 前句の「館」を砦の館として、出陣風景とした。朝はまだ寒いので焚き火をして暖を取っている。
 五句目。

   鎧ながらの火にあたる也
 しほ風によくよく聞ば鷗なく   昌圭

 海辺での野営とする。

 海暮れて鴨の声ほのかに白し   芭蕉

という貞享元年の熱田での句を思い起こさせる。
 六句目。

   しほ風によくよく聞ば鷗なく
 くもりに沖の岩黒く見え     執筆

 鷗の声に海辺の景を軽く付ける。連衆の一巡したところで執筆が一句詠む。

 初裏。
 七句目。

   くもりに沖の岩黒く見え
 須磨寺に汗の帷子脱かへむ    重五

 海辺の景色なので、名所を出す。帷子は一重の着物で、夏に転じる。
 八句目。

   須磨寺に汗の帷子脱かへむ
 をのをのなみだ笛を戴く     荷兮

 須磨寺は一ノ谷の戦いの時の義経の陣があった所と言われている。敦盛遺愛の笛が残されている。平家物語に描かれた敦盛の悲劇は謡曲や幸若舞となってよく知られていた。
 九句目

   をのをのなみだ笛を戴く
 文王のはやしにけふも土つりて  李風

 『芭蕉七部集』の中村注に、

 「文王─中国周の天子。かつて王が霊囿台を造ろうとすると、民は王の徳に感じて喜んで協力したので忽ち成就したという故事による。」

とある。「霊囿(れいゆう)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「(「霊」は神聖の意、「囿」は園内に一定の区域を定めて禽獣を養うところ) 周の文王が禽獣を放し飼いにした園。
  ※太平記(14C後)一二「周の文王の霊囿に准へ」 〔詩経‐大雅・霊台〕

とある。
 出典は『詩経』「大雅」の文王之什の「靈臺」という詩で、

 経始靈臺 經之營之
 庶民攻之 不日成之

 經始勿亟 庶民子來
 王在霊囿 麀鹿攸伏

 麀鹿濯濯 白鳥翯翯
 王在靈沼 於牣魚躍

 虡業維樅 賁鼓維鏞
 於論鼓鍾 於樂辟廱

 於論鼓鍾 於樂辟廱
 鼉鼓逢逢 矇瞍奏公

(物見台を作りはじめ、作りそして営む
 庶民の働きで、あっという間に出来上がる
 急がなくてもいいと言っても、庶民は親を慕う子の如く
 文王が動物園にいれば、雌鹿が安らう
 雌鹿はふくふくとして、白鳥はきらめく
 文王が沼で魚を飼えば、たくさんの魚が躍る
 編鐘を吊れば橦木があり、太鼓があれば撥がある
 鐘と太鼓を並べれば、何て楽しい礼楽堂
 鐘と太鼓を並べれば、何て楽しい礼楽堂
 火炎太鼓がごうごうと、盲目の楽士の名演奏)

 ほぼこの出典の通り、周の文王が囃し立てれば、庶民は次々と土を運び、やがてうれし涙に笛を吹く。
 十句目。

   文王のはやしにけふも土つりて
 雨の雫の角のなき草       雨桐

 前句の「はやし」を林として、そに土を運び込み、雨が降って柔らかな草が生えてくる。
 十一句目。

   雨の雫の角のなき草
 肌寒み一度は骨をほどく世に   荷兮

 前句を墳墓として、肌寒い中、故人を偲ぶ。
 十二句目。

   肌寒み一度は骨をほどく世に
 傾城乳をかくす晨明       昌圭

 「晨明」は「あけぼの」と読む。
 前句の「骨をほどく」を骨を休めるの意味として、緊張感鳴く乳を露出させていた遊女も、後朝の時にはきちんと身なりを整える。

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