今日も穏やかに晴れた。散歩するにはちょうど良い。
新潮日本古典集成の『御伽草子集』を借りてきて、少しづつ読んでいる。「俵藤太物語」では将門が五体悉く金属でできていて左目に眸が二つあり、二メートルを越える巨大な姿で七体になって登場する。当時の人の身長が五尺程度の所七尺というのはかなりでかい。
五体が金(かね)というのは、それだけの物理攻撃耐性をもっているということで、眸が二つというのは何らかの特殊効果のある邪眼を持っているということか。幻術を使って残像を六体作るというのは今のラノベでもよくあるパターン。『オーバーロード』のサキュロントのマルチプルビジョンのようなものか。
あと、こやん源氏の『関屋』が短いので読み終わり、明石・澪標・蓬生・関屋を一まとめにしてアップし直したのでよろしく。
それでは「松の花」の巻の続き。
十三句目。
石なき川を木萱流れて
連立て旅せば寝なと鳫の声
前句を「枕流漱石」とする。夏目漱石のペンネームの由来として有名な言葉で、コトバンクの「四字熟語を知る辞典「漱石枕流」の解説」に、
「このことばは、慣用句として使うよりも、故事の一部として紹介されることが多いようです。上の例文にも出てくる故事ですが、改めて説明します。中国の南北朝時代の「世説新語」や、唐代の「晋書」にある話です。
政治家の孫子荊(孫楚)は若い頃、隠遁して「枕石漱流」の生活をしたいと考えました。石を枕に寝て、川の流れに漱ぐ(うがいする)という生活です。
ところが、友人の王武子にこの話をする時、誤って「漱石枕流」と言ってしまいました。「石に漱ぎ、流れに枕す」とは何のことだ、と王武子にからかわれます。孫子荊は負けずに「流れを枕に寝て耳を洗うのだ。石を口に含んで歯を磨くのだ」とこじつけて答えました。」
とある。
この故事から石と川の流れに旅を付け、「枕石漱流」の生活とし、雁の声を添える。石に枕しようにも木萱しかないが、流木の方が枕には良さそうだ。
「連立て」は仲間がいるとも取れるし、雁と連れ立ってという意味にも取れる。次の展開を考えてのことだろう。
十四句目。
連立て旅せば寝なと鳫の声
月にくろむをいとふ面ぶり
「くろむ」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「黒」の解説」に、
「① 黒くなる。古びたり、よごれたり、日に焼けたりして黒みを帯びる。
※聖語蔵本願経四分律平安初期点(810頃)「風に飃(ふか)れ、日に暴(さら)され、形体は黒(クロミ)廋(く)け、剥げ裂け仏の所(みもと)に往詣して」
② (「身がくろむ」の形で) 暮らしが立つ。何とか生活ができるようになる。
※浮世草子・西鶴織留(1694)六「夫婦の人の心さへ変らずは、互に身のくろみて後、又ひとつの寄相ひ成事」
③ (「座がくろむ」などの形で) その座がうまくとりつくろわれる。また、安泰になる。
※葉隠(1716頃)一「身を擲(なげうち)て居る御家来は無二他事一者也。一、三人あれば、御所労黒むもの也」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒くろめる(黒)」
とある。
前句を旅の芝居役者の集団とし、舞台に立つ都合上、日焼けで顔が黒くなるのを嫌がる、とする。
十五句目。
月にくろむをいとふ面ぶり
斯迄の妬ミは君が御あやまり
「斯迄」は「かくまで」。
旅に出ていた夫が日焼けして黒くなって帰って来たのを見て、またあの女の所へ行っていたのかと焼きもちを焼く。
『伊勢物語』筒井筒を踏まえる。反省して通うのをやめる。
十六句目。
斯迄の妬ミは君が御あやまり
こころの水にそそぐ筆垢
浮気を咎められ、罪を認め、悔い改めた清い心の水で筆の汚れを落とす、というのが表向きの意味だが、筆の汚れを落とす、筆を洗うという表現は、恋の文脈だと「筆おろし」のような色ごとの比喩とも取れる。
こうしたあたりが芭蕉らしくないという判断を生んだのかもしれない。
十七句目。
こころの水にそそぐ筆垢
花あれば狭きを常の住ミ所
吉野の花の下で隠棲する西行法師の俤とする。筆垢を洗う水は「とくとくの清水」だろうか。『野ざらし紀行』の、
露とくとく心みに浮世すすがばや 芭蕉
の句が思い浮かぶ。
十八句目。
花あれば狭きを常の住ミ所
蝶舞へとてかとり残す芝
前句を桜を伐りたくないがために家を狭く立てたとし、蝶のために芝も刈り込まずに残す。
二表、十九句目。
蝶舞へとてかとり残す芝
陽炎の移るも細き雛の友
雰囲気的に哀傷(無常)であろう。陽炎は死者の霊の暗示で、蝶は胡蝶の夢で、死して胡蝶になったという連想を誘う。芝もまた「折たく柴」の連想を誘う。
娘を失った哀傷の句か。
ニ十句目。
陽炎の移るも細き雛の友
几帳にもたれいまそかりけり
「[一]いまそかり」は「いますがり」に同じ。uとoの交替。weblio古語辞典の「学研全訳古語辞典」に、
[一]自動詞ラ行変格活用
活用{ら/り/り/る/れ/れ}
いらっしゃる。「いましがり」「いますかり」「いまそがり」とも。▽「あり」の尊敬語。
出典大和物語 一五九
「染殿(そめどの)の内侍(ないし)といふいますがりけり」
[訳] 染殿の内侍という方がいらっしゃった。
[二]補助動詞ラ行変格活用
活用{ら/り/り/る/れ/れ}
〔用言の連用形、および断定の助動詞「なり」の連用形「に」(さらに助詞の「て」が加わることもある)に付いて〕…て(で)いらっしゃる。「いますかり」「いまそがり」とも。
出典大鏡 道長下
「なにがしのぬしの、蔵人(くらうど)にていますがりし時」
[訳] なんとかいう方が蔵人でいらっしゃったとき。
参考ラ変動詞は「あり」「をり」「はべり」と「いますがり」と、その異型および「みまそがり」だけ。」
とある。
雛遊び好きな『源氏物語』の若紫であろう。
二十一句目。
几帳にもたれいまそかりけり
得いわぬは位にふるへたる懐にて
「懐」は「おもひ」とルビがある。
几帳にもたれて何も言わないのは、通ってきた男の位に高さに震えていたからとする。
『源氏物語』蓬生巻の末摘花に転じての逃げか。
二十二句目。
得いわぬは位にふるへたる懐にて
文を宿世に結ぶ色なし
身分違いの恋に辞退する心とする。
二十三句目。
文を宿世に結ぶ色なし
憂き身とて討手の勢交られず
他本には「勢に」とあり「に」の欠落と思われる。
『曽我物語』の虎御前か。仇討に同行することを許されず、後に出家する。
二十四句目。
憂き身とて討手の勢交られず
泣々山を追下ロす兒
「追下ロす」は「おひおろす」。
愛する稚児を巻き込みたくないというので、討手のメンバーから外し、稚児を山から追払う。僧の挙兵は古い時代にはよくあることだった。
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