昨日のオリンピックのネット観戦は、まずスノーボード女子ビッグエア予選、午後は男子ビッグエア予選を見た。とにかくすごい、メダルレベルではエイティーンハンドレッドが標準なのか。
夜はスキージャンプ男子団体決勝を見た。まあ、お疲れ様です。そろそろ夕方の更新に戻ろうかな。
ワリエワは参加は認めるが表彰式はしないというのが妥協点なのかな。あとでこそっと渡せばいいということか。日本のメダルも巻き添え食っているが。後日郵送されてくるのかな。
今まで仕事であまりオリンピックって見れなかったけど、去年の東京、今年の北京とまあまあ楽しめた。どちらかというとオリンピックは子供の頃の記憶が大きいね。コロナが明けたらもっと楽しくなるかな。
スポーツでも音楽でも、大勢の人が心を一つにする瞬間って、コロナが明けたらまた戻ってくると良いね。陰険に足を引っ張りあい、罵り合いが繰り返された日々が終わるなら、きっと世界はまた素晴らしいものになるよ。
さて、次も同じ『武蔵曲』から。編者千春の独吟歌仙を。
発句には長い漢文の前書きが付いている。
武城之春在乎寛永寺之花
来看者突逢推合不啻雷轟
湯沸也顔付否而目遣怪合
點不行者烏論衝乎其間而
剪巾着取鼻帋嚢物勃込長鞘
引掛破笠者盖浮世士也歟
不下尻掲不設敷物群居于
堂陰打敲珍露利以撼滑歌
信亦無餘念也夫美而艶者
如何名主之妻耶圍裙幄藉
猩緋與七八腰本歡笑諧々
焉窺之者莫不目迷心慌矣
乃賦 蘇鉄林 千春
酒の衛士花木隠レや女守
前書きの部分を書き下し文にすると、
武城の春は寛永寺の花に在り。
来たり看る者の突き逢ひ推し合ひ、ただ雷轟湯沸のみにあらずなり。
顔付いなやに目遣ひ怪しく、合點行かざる者の烏論衝(うろつ)いて、その間に巾着を剪り、鼻帋嚢を取る。
長鞘を勃込(ぼっこ)み破笠を引っ掛けたる者は、けだし浮世士なるか。
尻掲(しりからげ)を下ろさず、敷物を設けず、堂の陰に群れゐて、珍露利(ちろり)を打ち敲き、以て滑歌(なめりうた)を撼(かん)するまことに餘念無きなり。
かの美にして艶なる者はいかなる名主の妻ぞや。
裙幄を圍み、猩緋を藉き、七八の腰本と歡笑諧々たり。
これを窺ふは目迷ひ心慌といふことなし。
乃ち賦し、
となる。
浮世士は浮世を享楽的に生きる遊び人のことか。
珍露利(ちろり)はコトバンクの「日本大百科全書(ニッポニカ)「ちろり」の解説」に、
「酒を燗(かん)するための容器で、酒器の一種。注(つ)ぎ口、取っ手のついた筒形で、下方がやや細くなっている。銀、銅、黄銅、錫(すず)などの金属でつくられているが、一般には錫製が多い。容量は0.18リットル(一合)内外入るものが普通である。酒をちろりに入れて、湯で燗をする。ちろりの語源は不明だが、中国に、ちろりに似た酒器があるところから、中国から渡来したと考えられている。江戸時代によく使用されたが、現在も小料理屋などで用いているところもある。[河野友美]」
とある。
滑歌(なめりうた)は「ぬめりうた」ともいい、コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「滑歌」の解説」に、
「① 江戸時代、明暦・万治(一六五五‐六一)のころ、遊里を中心に流行した小歌。「ぬめり」とは、当時、のらりくらりと遊蕩する意の流行語で、遊客などに口ずさまれたもの。ぬめりぶし。ぬめりこうた。
※狂歌・吾吟我集(1649)序「今ぬめり哥天下にはやること、四つ時・九つの真昼になん有ける」
② 歌舞伎の下座音楽の一つ。主に傾城の出端に三味線、太鼓、すりがねなどを用いて歌いはやすもの。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)口明「ぬめり哥にて、大橋、傾城にて出る」
とある。
裙幄の裙は裳裾で幄はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「幄」の解説」に、
「〘名〙 四方に柱をたて、棟(むね)、檐(のき)を渡して作った屋形にかぶせ、四方を囲う幕。また、その小屋。神事、または、朝廷の儀式などのおりに、参列の人を入れるため、臨時に庭に設ける仮屋。あげばり。幄の屋。幄舎。幄屋。」
とあり、今日でいうイベント用のテントのようなものだが、ここでは裙幄(くんあく)で幄(あく)の意味か。
猩緋は猩々緋(しゃうじゃうひ)でコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「猩猩緋」の解説」に、
「〘名〙 あざやかな深紅色。また、その色に染めた舶来の毛織物。陣羽織などに用いられた。
※羅葡日辞書(1595)「Coccinus〈略〉アカキ xǒjǒfino(シャウジャウヒノ) イロニ ソメタル モノ」
※豊薩軍記(1749)一「並に綾羅・錦繍・伽羅・猩々皮の二十間つづき以下、種々の珍宝を相渡す」
とある。
江戸の春は上野寛永寺にあり、押し合いへし合いの雑踏だけでなく、スリを始め、浮世士、錫の徳利を叩いて滑歌を歌う一群もいれば、名主の妻なのかテントを立てて深紅の毛織物を敷いている人たちもいる。
この花見の人達に捧ぐ、ということで、この発句になる。
酒の衛士花木隠レや女守
名主の妻の花見は、仕える男の従者が桜の木の陰で酒を飲みながら、女を守っている。本当に何かあっても、へべれけで役に立ちそうにないが、それも平和ということか。花見のあるあるだったのだろう。
脇。
酒の衛士花木隠レや女守
柳にほれて硯うる兒
前句を衛士の恋の情として、花ではなく柳に惚れる稚児を付ける。衛士は花に惚れ、稚児は柳に惚れる。相対付けの脇になる。脇五法の一つで、紹巴の『連歌教訓』には、
「脇に於て五つの様あり、一には相対付、二には打添付、三には違付、四には心付、五には比留り也」
とある。
第三。
柳にほれて硯うる兒
肱笠の袖に初音や盗むらん
肱笠(ひぢがさ)はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「肘笠」の解説」に、
「① 頭の上にかざして雨をしのぐ肘や袖。ひじかけがさ。袖笠。
※謡曲・蘆刈(1430頃)「難波女の被く袖笠肘笠の」
② 笠の一種か。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)三「田の中には早乙女どもおりたち、田蓑・ひぢがさきて、思ふことなげに田歌をうたひ」
③ 「ひじかさあめ(肘笠雨)」の略。」
とある。
柳を雨に見立てて、柳の枝を肱で払う仕草を「肱笠」とする。稚児の初音を盗もうとしているのか。
四句目。
肱笠の袖に初音や盗むらん
小夜小夜嵐寐忘レの宿
「小夜嵐」は「小夜時雨」に準じた造語か。小夜を二つ並べて調子を整える。夜のちょっとした嵐で眠るのも忘れる。前句の「初音や盗むらん」を嵐に喩えたもので、恋の句が続く。
五句目。
小夜小夜嵐寐忘レの宿
頭巾ふかく月のあやなき闇ヲ着ル
「あやなし」はつまらないということで、嵐の雲に隠れて月もなく、行灯も消せば真っ暗闇。寝るに寝れなくて頭巾を深くかぶって、月を待つ。
月がないので通ってくる人もいないと取れば、ここまで恋が続くことになる。恋は最大五句までOK。
六句目。
頭巾ふかく月のあやなき闇ヲ着ル
松-烟ひとり茶粥すすつて
松烟は松明の煙。松明のくすぶる中で茶をすすりながら、頭巾を深くかぶって闇の中で月を待つ。
初裏、七句目。
松烟ひとり茶粥すすつて
乾-鮭に足生ありく雨夕
「生」には「はえ」とルビがある。鮭の干物に足が生えて歩く、ということだが、食物の腐りやすいことを「足が速い」というから、それと掛けているのだろう。
八句目。
乾-鮭に足生ありく雨夕
天-井既雷-鼠轟く
天井裏を駆け回る鼠の足音が雷のように轟くのだが、それを雷-鼠と呼ぶと、何か妖怪っぽい。乾鮭に足があったり、雷-鼠が現れたり、すべては妖怪のせい。
九句目。
天-井既雷-鼠轟く
店護左リ大黒右夷
雷-鼠は大黒様の眷属で、よくセットにして並べられる恵比須様とともに店を守っている。
十句目。
店護左リ大黒右夷
常盤の夫婦有けらしける
大黒と恵比須は実は夫婦?高砂の爺様と婆様ならわかるが。
十一句目。
常盤の夫婦有けらしける
世ヲ世トセズ琴によく琵琶にたくみ也
「世を世とせず」は世の常識を打ち破るような前代未聞の破天荒なということか。永遠の命があれば、琴も琵琶もその域に達するだろう。
十二句目。
世ヲ世トセズ琴によく琵琶にたくみ也
風詠一首鹿の角にゆふ
和歌などは花の枝に添えたりするが、鹿の角に結び付けて手紙にするとは「世を世とせず」の風流か。
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