『曽我物語』を読み終わった。最後まで読むなら、この物語は遊女のお虎さんが語り伝えたもの、ということで、女芸人によって伝播されたと言われているのもわかる。まあ、諸説ありだが。
まあ、それだけでなく、物語を楽しむというのはいつの世でも女性が多い、ということもあっただろう。最初の方に相撲大会があって、裸の男たちがぶつかり合う所を想像して、きゃーだったんだろうな。
『さんせう太夫』にも「女に氏はないぞやれ」とあったように、女性にとって仇討は男が勝手にやるもので、正直迷惑なものだったのだろう。それを十郎と五郎の今でいうBLめいたものにして楽しんでいたのか。
もちろん現実には迷惑でも、物語の世界の仇討なら、その快楽を共有しないという法もあるまい。十郎五郎の無双も当然ながら一番の見せ場だ。
そんな巷に伝わる物語を、後に箱根権現か時宗の僧が漢文で『真名本』に書き残し、その翻訳で『仮名本』として今日に伝わる、といったところか。
こんな古い大衆向けの物語がきちんと保存されているというのも、日本の文化の底力なのではないかと思う。ハイカルチャーよりも大衆文学の方が凄いのが日本だ。それは今でも変わらない。
それでは「俳諧秘」の続き。
「第十九」の末尾に、
「是マデハ第十九ノ口義ナリ。ココニ第二十二出ル。此間闕文歟。不知筆者云々。」(俳諧秘)
とあり、欠落があって第二十二に飛ぶ。
巻頭の目次を見ると、「第二十 句数之事并去嫌」「第二十一 糸遊霞長閑の事」が欠落している。
「第二十二 春秋両字添季持句之事
たとへば、春の夕暮、秋の中空、云付たる云に不及。春の築山、秋の泉水は、春山秋水と云へる文字もあれば、不苦。
又、春の臺、つまりたるやうなれ共、春臺と云字あれば、不苦。
詩之題に春女之恨と云へるありといへ共、春の女一向にいはるまじ。詩之題の心は、女は陰気をつかさどるゆへ、春の陽気に感じて、恋暮の心も起るといふ心也。おもひ切つつ世をそむく秋、かやうの句も秋といふ字。」(俳諧秘)
春夏秋冬の文字は、談林の頃から放り込みで、無季になるような付けに季節の句にするののに用いられてきたが、これはそのことへの苦言というべきものであろう。
基本的には古典に典拠のない言葉は認めないということだ。
秋の夕暮れは有名な三夕の歌にもある。
寂しさはその色としもなかりけり
槙立つ山の秋の夕暮れ
寂蓮法師
心なき身にもあはれは知られけり
鴫立つ沢の秋の夕暮れ
西行法師
見渡せば花も紅葉もなかりけり
浦の苫屋の秋の夕暮れ
藤原定家
夕暮れというと『百人一首』の、
むらさめの露もまだひぬまきの葉に
霧たちのぼる秋の夕暮れ
寂蓮法師
の歌もよく知られている。
春の夕暮れというと、それほど有名な歌もないが、
かげたえて下行く水もかすみけり
浜名のはしの春の夕暮れ
藤原定家(拾遺愚草)
いたづらに花や散るらむたかまどの
をのへの宮の春の夕暮れ
世尊寺行能(続後撰集)
など、和歌に詠まれている。
「秋の中空」も、
わたつうみの沖つしほあひに宿る月の
よるかたもなき秋の中空
宗良親王(李花集)
の歌がある。
「春の築山、秋の泉水」は、漢詩にしばしば見られる「春山」や、『荘子』「秋水編」など成語になっている。
「春臺」も、
苑中遇雪應制 宋之問
紫禁仙輿詰旦來 青旂遙倚望春臺
不知庭霰今朝落 疑是林花昨夜開
に用例がある。
「春女之恨」という詩題は、漢詩の題詠の時にしばしば用いられていたか。春という言葉は、今でも春情、売春など、性的な意味を持つ。
春に恋して秋に別れ、なんてのも近代の歌謡曲のお約束になっている。
その意味では「春の陽気に感じて、恋暮の心も起るといふ心也。おもひ切つつ世をそむく秋」も春秋の本意にかなうものとしてOKということになる。
この後目次には「第二十三 つつ留り之事」「第二十四 に留り并にて留り」「第二十五 てにをは之事」「第二十六 故事取用様」「第二十七 親句疎句之事」「第二十八 篇序題曲流之事并用付後付」「第二十九 前句もたれ前句をかる句」「第三十 霊形通体并四手付」「第三十一 六義之事」「追加 書物題号之事」とあるが、これも欠落している。
この後は「或人之説 連俳十三ケ条」になる。
「或人之説 連俳十三ケ条」は十三条に分けて書かれているわけではない。「一 賦物の事」「一 発句は陽也」の二つが一応条になっているが、それ以降は一度バラバラになってテキストを寄せ集めたものか。途中「以下白紙」とあって「百人一首」に続き、ふたたび「以下白紙」で終わっている。
そのあとに「相伝一大事被切紙弐拾五ケ条」があり、五ケ条があるが、そのあと二つ目の「第五」があり、「第二十五」まで続く。
そのあとに、「外に口伝之儀、書加へ侍る。七ケ条如件」の七ケ条がある。
そのあとに、別の十七条があり、十八以下が省略されて終わっている。
全体に口伝の断片を寄せ集めたものといえよう。
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