今日は町田の忠生公園の蝋梅を見に行った。晴れた青空に蝋梅の黄色が映える。
 コロナの第一波が広まる前の一昨年にも一度来ている。それ以来だ。これもワクチンのおかげだ。
 それでは「鴨啼や」の巻の続き。
 十三句目。
   平家の陣を笑う浦人
 船かけてとまりとまりの玉祭   其角
 瀬戸内海で合戦を繰り返し、多くの死者を出しながら移動していくから、行く先々で誰かの初盆を迎える。
 十四句目。
   船かけてとまりとまりの玉祭
 畠の中にすめる月影       嵐雪
 船から上り畠の中に澄む月を見る。違え付け。
 十五句目。
   畠の中にすめる月影
 いきて世に取後れたる老相撲   其角
 月夜で相撲の句は、『阿羅野』の「初雪や」の巻五句目、
   賤を遠から見るべかりけり
 おもふさま押合月に草臥つ    野水
や、「山中三吟」第三にも、
   花野みだるる山のまがりめ
 月よしと角力に袴踏ぬぎて    芭蕉
の句がある。
 前句を「畠の中に住める」として、引退した力士とする。月を見ると若くて強かったころを思い出す。
 十六句目。
   いきて世に取後れたる老相撲
 元よし原のなさけ語らん     嵐雪
 昔も今も相撲取りというのは持てたのだろう。若い頃は明暦の大火で移転する前の旧吉原でぶいぶい言わせていた。
 十七句目。
   元よし原のなさけ語らん
 花鳥に夫婦出たつ花ざかり    其角
 新婚夫婦を送り出すときに、必ず昔の吉原通いの話をする爺さんっていたのだろう。性教育のつもりなのか。
 十八句目。
   花鳥に夫婦出たつ花ざかり
 若餅つくと家子に告こす     嵐雪
 家子は「けし」とルビがある。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「家子」の解説」には、「いへのこ」「けご」「やつべ」の読み方はあるが「けし」はない。家に仕える子弟から従者、下僕に至るまで広く指す言葉だったようだ。
 若餅は正月三が日の間に搗く餅で、正月に婚礼と目出度さが重なり、家じゅうみんなで餅を搗くという意味だろう。
 二表、十九句目。
   若餅つくと家子に告こす
 荒神に絵馬かけたる年の棚    嵐雪
 荒神は竈の神。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「荒神」の解説」に、
 「① かまどを守る神。かまどの神。民間で「三宝荒神」と混同され、火を防ぐ神として、のちには農業全般の神として、かまどの上にたなを作ってまつられる。毎月の晦日に祭事が行なわれ、一月・五月・九月はその主な祭月である。たなには松の小枝と鶏の絵馬を供え、一二月一三日に絵馬をとりかえる。荒神様。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  ※浮世草子・日本永代蔵(1688)二「又壱人、『掛鯛(かけだい)を六月迄、荒神(クハウジン)前に置けるは』と尋ぬ」
とある。正月だと荒神様の棚と年神様の棚が一緒になってしまう。
 ニ十句目。
   荒神に絵馬かけたる年の棚
 うつばりかくす関札の数     其角
 「うつばり」は屋根を支える梁で、関札はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「関札」の解説」に、
 「① 関所の通行のための札。関所手形。
  ※俳諧・大坂独吟集(1675)上「三月五日たてりとおもへば関札のかすみや春をしらすらん〈三昌〉」
  ② 江戸時代、公家・大名・役人などが宿駅に泊まったとき、その称号、宿泊の旨を記し、宿駅の出入口、宿舎の前に立てた立札。
  ※俳諧・類船集(1676)也「大名高家は道中に関札を立つ也」
とある。①は書状の形式なので②であろう。
 正月に泊まる旅人の多い宿では、梁に関札が並んで、年神様の棚が隠れている。
 二十一句目。
   うつばりかくす関札の数
 よめ娘見分る恋のいちはやき   嵐雪
 宿の人は客の連れが嫁なのか娘なのかをすぐに見分ける、ということか。
 二十二句目。
   よめ娘見分る恋のいちはやき
 小原黒木ぞ身をふすべける    其角
 小原は京都大原のことであろう。かつては「小原」と表記することもあった。黒木は炭にする前の乾燥させた木。元禄二年の「かげろふの」の巻二十七句目に、
   黒木ほすべき谷かげの小屋
 たがよめと身をやまかせむ物おもひ 芭蕉
の句がある。黒木に大原の雑魚寝を付けている。
 「ふすぶ」はくすぶることで、大原女の恋は黒木を炭にするように、身をくすぶらせている。
 大原女は炭や黒木を京の街に売り歩き、京のエネルギーを供給していた。
 二十三句目。
   小原黒木ぞ身をふすべける
 味噌さます草のさむしろ敷忍び  嵐雪
 酒の肴の焼味噌を冷ます情景とする。草の上に黒くなった薪がくすぶっている。
 二十四句目。
   味噌さます草のさむしろ敷忍び
 雪あそびてん寺の入あひ     其角
 雪の上で味噌を冷ます情景を、お寺の夕暮れの雪遊びとする。
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