2021年2月5日金曜日

 ミャンマーのことでみんな気づいてはいると思うけど、バイデンさんが就任した直後だということと、クーデターの理由が選挙に不正があったからと、明らかにトランプさんに重なるようなことを言っていることで、かなりあからさまな挑発なのではないかということだ。やれるもんならやってみろ、俺には中国がついているんだと言いたいのか。とにかくバイデンさんを舐めているといってもいい。
 まあ、頭の良いバイデンさんなら、あくまで常識的な正攻法でしか来ないと見ているのだろう。新月の夜にドローンが飛んでくることを心配する必要はない。

 それでは「わすれ草」の巻の続き。

 初裏。
 七句目。

   紙燭けしては鶉啼く也
 ああ誰じや下女が枕の初尾花   桃青

 「初尾花」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 秋になって初めて穂の出た薄(すすき)。《季・秋》
  ※万葉(8C後)二〇・四三〇八「波都乎婆奈(ハツヲバナ)花に見むとし天の河隔りにけらし年の緒長く」

とある。

 さ牡鹿の入野の薄初尾花
     いつしか妹が手枕にせむ
              柿本人麻呂(新古今集)

の歌にも詠まれている。通う男をさ牡鹿、相手を初尾花に喩えた、要するに夜這いの歌。俳諧だと下女に見つかり「ああ誰じゃ」と問い詰められたので、男は紙燭を消して鶉の鳴き真似をする。
 八句目。

   ああ誰じや下女が枕の初尾花
 百にぎらせてたはぶれの秋    千春

 目当ての女に仕えている下女に百文握らせて手引きしてもらい、初尾花をいただく。
 九句目。

   百にぎらせてたはぶれの秋
 仇し世をかるたの釈迦の説れしは 信徳

 「かるたの釈迦」はうんすんかるたのソータ(十の札:トランプのジャックに相当する)で、コトバンクの「ソータ」の「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 (sota) ウンスンカルタの札の一つ。本来はトランプのジャックに当たる札。天正年間(一五七三‐九二)日本に渡来したとき女性の姿に変わり一〇番目の札になった。のち、僧侶とまちがえられ、頭を剃った坊主姿の札となった。坊主とか釈迦とか呼ばれ一〇番目の札であるところから釈迦十(しゃかじゅう)ともいう。
  ※俳諧・鷹筑波(1638)一「あざやかな月にそふたを刈田哉〈一次〉」

とある。
 「仇し世」は無常の世でかるたの釈迦が説くには、百文払ってうんすんかるたで遊びなさい、とのこと。
 十句目。

   仇し世をかるたの釈迦の説れしは
 あるひはでつち十六羅漢     桃青

 『校本芭蕉全集 第三巻』の注によると、十六と双六の重六とを掛けているという。重六はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 二個の賽(さい)に共に六の目が出ること。ちょうろく。
  ※金刀比羅本平治(1220頃か)上「双六のさいのめに〈略〉二が二つおりたるを重二といふ、重五(でっく)重(ヂウ)六といふも謂たり」

とある。今日でいう六ゾロのことのようだ。
 釈迦がカルタならその弟子の十六羅漢は双六のサイコロの重六で、双六で賭け事をする十六になる丁稚、ということになる。
 十一句目。

   あるひはでつち十六羅漢
 又男が姿かたちはかはらねど   千春

 「又男」は『校本芭蕉全集 第三巻』の注に、

 「大阪の物真似の名人。『物種集』序に『川原もの又男がつけ髪松千代が柿頭巾もかづき物ぞかし』。」

とある。ネット上にある石井公成『物真似芸の系譜─仏教芸能との関係を中心にして─(上)』に、

 「そうした一人であって元禄歌舞伎で活躍した又男三郎兵衛は、仁王や十六羅漢や観音の三十三身を演じることで有名だった。」

とあるが、同じ人か。当時歌舞伎役者は非人の身分だから「川原もの」とも呼ばれていただろう。
 十六羅漢の物真似をレパートリーにしてたようだが、丁稚の真似はどうだったか。
 十二句目。

   又男が姿かたちはかはらねど
 古い羽折に老ぞしらるる     信徳

 「羽折」は羽織のこと。物真似師の演ずるキャラは昔も今も変わらないが、長年やっているので羽織が古くなっている。
 十三句目。

   古い羽折に老ぞしらるる
 つくづくと記念のややを寝させ置 桃青

 「やや」は赤ん坊のこと。亡き夫の形見の子どもを寝かしつけてはいるが、古びた羽織に老いが知られる。
 十四句目。

   つくづくと記念のややを寝させ置
 結びもとめぬざんぎりの露    千春

 「ざんぎり」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、

 「1 ちょんまげを切り落として、刈り込んだ髪形。明治初期に流行し、文明開化の象徴とされた。散切り頭。斬髪(ざんぱつ)。
  2 髪を切り乱して結ばずにそのままにしておくこと。また、その髪形。散らし髪。」

とある。この場合はもちろん2で、女手一つで子を育てる忙しさに髪を結う余裕もない。
 十五句目。

   結びもとめぬざんぎりの露
 鎖がまもれて出たる三日の月   信徳

 前句の「ざんぎり」を斬・切りと鎖鎌で斬りつけることとしたか。結び留めてない鎖鎌が吹っ飛んできて、それが三日月のように光る。
 十六句目。

   鎖がまもれて出たる三日の月
 雲井に落る鳫の細首       桃青

 鎖鎌が斬ったのは鳫の首だった。
 十七句目。

   雲井に落る鳫の細首
 料理人御前を立て花の浪      千春

 前句の雲井を御所のこととして、料理人が花見の宴のために呼ばれる。鳫がその場で捌かれる。
 雲井と浪は、

 わたの原漕ぎ出でて見れば久かたの
     雲ゐにまがふ沖つ白波
           藤原忠通(詞花集)

の縁。
 十八句目。

   料理人御前を立て花の浪
 木具屋の扇沖の春風       信徳

 「木具(きぐ)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「① 檜の白木で作った器物。
  ※仮名草子・尤双紙(1632)上「きれいなる物の品々〈略〉木具(キグ) かはらけ」
  ② 特に足付きの折敷。足打折敷(あしうちおしき)。木具膳。
  ※親元日記‐寛正六年(1465)三月四日「御一献両所其木具土器御箸已下散二金銀一被レ書レ絵之御例云々」
  ※随筆・貞丈雑記(1784頃)七「木具(きぐ)と云はすべて檜の木の白木にて作りたる也〈略〉然るに今は足付の事斗を木具と云」

とある。
 前句の「御前」を木具膳として、木具屋の扇を花の浪の向こうの那須与一の的に見立てる。

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