2020年12月18日金曜日

  おとといの朝、車に霜が降りていた。初霜だった。昨日は降りてなかったが今日はまた降りていた。
 道路はやはり渋滞し、人も多いし、自転車がやたら飛ばしてゆくのが困る。自転車に乗っている人はマスクもしてなかったりする。
 年末がずっとこの調子だと正月明けが恐ろしいことになりそうな。
 マスク会食なんていっても、食べる時にマスクを外す以上、そんなに感染防止の効果はないと思う。一番良いのはふなっしーのイリュージョンではないか。着ぐるみ会食ならまだましなのでは。
 それでは「京までは」の巻の続き。挙句まで。

 二裏。
 三十一句目。

   老かむうばがころも打音
 ふすぶりし榾の煙のしらけたる  重辰

 「ふすぶる」は「くすぶる」と同じ。「榾(ほだ)」は焚き木のこと。水分の多い生木を燃やしたりすると湯気で白い煙が上がる。
 年老いて薪割りも思うようにできず生木を燃やしたのだろう。白い煙の中の老婆は白髪とも相まって浦島太郎のようでもある。
 三十二句目。

   ふすぶりし榾の煙のしらけたる
 陳のかり屋に碁を作る程     安信

 「碁を作る」は『校本芭蕉全集 第三巻』の注に、「碁の勝負の目数をかぞえる為に、盤面を整理すること」とある。いわゆる整地のことのようだ。『源氏物語』の軒端荻のように整地でズルをする人もいる。
 勝負がついて見物してた人たちも離れて行き、陣屋で暖を取るために焚いた火の煙で白くなる「しらける」に、興が覚めるの「しらける」が重なる。
 「しらける」はweblio辞書の「学研全訳古語辞典」に、

 「①白くなる。色があせる。
  出典万葉集 一七四〇
  「黒かりし髪もしらけぬ」
  [訳] 黒かった髪も白くなってしまった。
  ②気分がそがれる。興がさめる。しらける。
  出典冥途飛脚 浄瑠・近松
  「恋に浮き世を投げ首の酒もしらけて醒(さ)めにけり」
  [訳] 恋に浮かれてこの世を捨てるほど思案に余って酒の酔いも気分がそがれてさめてしまった。
  ③間が悪くなる。気まずくなる。
  出典十訓抄 八
  「しらけて、実方(さねかた)は立ちにけり」
  [訳] 気まずくなって、実方は立ってしまった。」

とある。
 三十三句目。

   陳のかり屋に碁を作る程
 山更によこおりふせる雨の脚   如風

 「横伏(よこおりふす)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘自サ四〙 横に広がって伏す。横たわる。
  ※古今(905‐914)東歌・一〇九七「かひがねをさやにも見しかけけれなくよこほりふせるさやのなか山〈かひうた〉」

とある。
 古今集の用例は、小夜の中山越えの道が峯と峯との間の鞍部を越える道ではなく、なだらかな稜線を行く道なので「よこほりふせる」としたのだろう。「かひがね」とあるのは小夜の中山から南アルプス南部の山々が見えることから、特に甲斐駒を指すのではなく南アルプス全体を「かひがね」と呼んでいたと思われる。
 横おり伏せる山を越えてゆく行軍だったのだろう。長々と続く稜線の道に雨の脚も強く、陣の仮屋で雨の止むのを待つ間に碁の一局も終了する。
 三十四句目。

   山更によこおりふせる雨の脚
 気をたすけなんほととぎす鳴ケ  知足

 延々と続く尾根道に雨となると気が滅入るもので、元気づけるためにもホトトギスでも鳴いてくれ、と付ける。
 三十五句目。

   気をたすけなんほととぎす鳴ケ
 花盛文をあつむる窓閉て     菐言

 花盛りなのに窓を閉じて文を集めるのは気の滅入ることだ。窓を開けると風で文が飛んだりするからだろう。俳諧の選集を作る編者だろうか。せめてホトトギスでも鳴いてくれれば。
 最後の花の定座は亭主である菐言が付ける。
 挙句。

   花盛文をあつむる窓閉て
 御燈かかぐる神垣の梅      執筆

 前句の「花盛り」を初春の梅の花とし、神社の御燈を掲げる神主さんが窓を閉じて文を集めていたとする。菅原道真の面影であろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿