2022年11月5日土曜日

 それでは「革足袋の」の巻の続き。
 七十六句目。

   影てらす三月切にや虫の声
 一夏はすでに秋いたる也     在色

 前句の三月切を夏は四月五月六月の三月きりと読んで、一夏は終わり秋になるとする。
 七十七句目。

   一夏はすでに秋いたる也
 法の花火江湖の波の夕景色    正友

 花火はお盆の迎え火・送り火から派生したもので、死者を供養するためのものだった。
 この時代はまだ花火大会のようなものはなく、各自が勝手に隅田川の河原で打ち上げてた。そのため初秋のものとなる。
 江湖はこの場合江戸の墨田川を指す。
 七十八句目。

   法の花火江湖の波の夕景色
 ゆく舟屋かた終は彼岸      志計

 「終は彼岸」は「つひはかのきし」と読む。
 隅田川を行く屋形船は花火に送られて彼岸へと行くが、そこは多分吉原だろう。
 名残表、七十九句目。

   ゆく舟屋かた終は彼岸
 かやうとはおもはざりしをながし者 雪柴

 「ながし者」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「流者」の解説」に、

 「〘名〙 島流しに処された者。流人。
  ※俳諧・類船集(1676)留「切ても捨られぬ科人はながしものとなる」

とある。
 まさか流罪になるとはおもわなかった、世の中を甘く見ていた罪人はいつの世にもいるものだ。
 八十句目。

   かやうとはおもはざりしをながし者
 七月半の喰あはせうき      一鉄

 前句の「ながし者」を下痢便とする。
 月には「つき」とルビがある。「ふみつきなかば」か。食中毒の多い時期だ。
 八十一句目。

   七月半の喰あはせうき
 申さぬが脈にすすんであだ心   松意

 ここで七月半(ななつきはん)に取り成す。何も言わないから脈ありと見てやっちゃったが、それが失敗で、今は妊娠七ヶ月半。
 八十二句目。

   申さぬが脈にすすんであだ心
 朝ゐの床をはづる小娘      卜尺

 前句を病気かと脈を取ってみたが、どうも片思いの恋で娘は恥ずかしがる。
 八十三句目。

   朝ゐの床をはづる小娘
 しやなしやなとしししにいけば乱髪 松臼

 「しゃなしゃな」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「しゃなしゃな」の解説」に、

 「① =しゃなりしゃなり
  ※俳諧・談林十百韻(1675)下「朝ゐの床をはつる小娘〈卜尺〉 しゃなしゃなとしししに行けば乱髪〈松臼〉」
  ② 細く弱々しいさまを表わす語。
  ※歌舞伎・鳴神(日本古典全書所収)(1742か)「造り物、本舞台一面に嶮岨なる岩山。〈略〉岩壺よりしゃなしゃな水を吹き上げ」

とある。
 「ししし」はおしっこで、前句の小娘を幼女とする。
 八十四句目。

   しやなしやなとしししにいけば乱髪
 乗物出しあとの追風       一朝

 追風はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「追風」の解説」に、

 「① うしろから吹いてくる風。⇔向かい風。
  ※後撰(951‐953頃)恋三・七七八「今はとて行かへりぬるこゑならばおひ風にてもきこえましやは〈兼覧王〉」
  ② 船の進む方向に吹く風。おいて。順風。⇔向かい風。
  ※書紀(720)神功摂政前(北野本訓)「則ち、大きなる風、順(オヒカセ)に吹き、帆舶(ほつむ)波の随(まにま)に、楫(かいかぢ)を労(ねぎら)はず」
  ③ 物の香りを吹き送ってくる風。
  ※伊勢集(11C後)「おひかぜのわがやどにだに吹き来ずはゐながら空の花を見ましや」
  ④ 特に、着物にたきしめた香や、たいている香の薫りなどをただよわせてくる風。→追い風用意。
  ※源氏(1001‐14頃)若紫「君の御をひかせ、いと殊(こと)なれば」
  ⑤ すぐれた馬。逸馬(いつば)。〔元和本下学集(1617)〕」

とある。
 ⑤の意味を比喩として用いての駕籠かきの立小便か。

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