それでは「革足袋の」の巻の続き。
七十六句目。
影てらす三月切にや虫の声
一夏はすでに秋いたる也 在色
前句の三月切を夏は四月五月六月の三月きりと読んで、一夏は終わり秋になるとする。
七十七句目。
一夏はすでに秋いたる也
法の花火江湖の波の夕景色 正友
花火はお盆の迎え火・送り火から派生したもので、死者を供養するためのものだった。
この時代はまだ花火大会のようなものはなく、各自が勝手に隅田川の河原で打ち上げてた。そのため初秋のものとなる。
江湖はこの場合江戸の墨田川を指す。
七十八句目。
法の花火江湖の波の夕景色
ゆく舟屋かた終は彼岸 志計
「終は彼岸」は「つひはかのきし」と読む。
隅田川を行く屋形船は花火に送られて彼岸へと行くが、そこは多分吉原だろう。
名残表、七十九句目。
ゆく舟屋かた終は彼岸
かやうとはおもはざりしをながし者 雪柴
「ながし者」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「流者」の解説」に、
「〘名〙 島流しに処された者。流人。
※俳諧・類船集(1676)留「切ても捨られぬ科人はながしものとなる」
とある。
まさか流罪になるとはおもわなかった、世の中を甘く見ていた罪人はいつの世にもいるものだ。
八十句目。
かやうとはおもはざりしをながし者
七月半の喰あはせうき 一鉄
前句の「ながし者」を下痢便とする。
月には「つき」とルビがある。「ふみつきなかば」か。食中毒の多い時期だ。
八十一句目。
七月半の喰あはせうき
申さぬが脈にすすんであだ心 松意
ここで七月半(ななつきはん)に取り成す。何も言わないから脈ありと見てやっちゃったが、それが失敗で、今は妊娠七ヶ月半。
八十二句目。
申さぬが脈にすすんであだ心
朝ゐの床をはづる小娘 卜尺
前句を病気かと脈を取ってみたが、どうも片思いの恋で娘は恥ずかしがる。
八十三句目。
朝ゐの床をはづる小娘
しやなしやなとしししにいけば乱髪 松臼
「しゃなしゃな」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「しゃなしゃな」の解説」に、
「① =しゃなりしゃなり
※俳諧・談林十百韻(1675)下「朝ゐの床をはつる小娘〈卜尺〉 しゃなしゃなとしししに行けば乱髪〈松臼〉」
② 細く弱々しいさまを表わす語。
※歌舞伎・鳴神(日本古典全書所収)(1742か)「造り物、本舞台一面に嶮岨なる岩山。〈略〉岩壺よりしゃなしゃな水を吹き上げ」
とある。
「ししし」はおしっこで、前句の小娘を幼女とする。
八十四句目。
しやなしやなとしししにいけば乱髪
乗物出しあとの追風 一朝
追風はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「追風」の解説」に、
「① うしろから吹いてくる風。⇔向かい風。
※後撰(951‐953頃)恋三・七七八「今はとて行かへりぬるこゑならばおひ風にてもきこえましやは〈兼覧王〉」
② 船の進む方向に吹く風。おいて。順風。⇔向かい風。
※書紀(720)神功摂政前(北野本訓)「則ち、大きなる風、順(オヒカセ)に吹き、帆舶(ほつむ)波の随(まにま)に、楫(かいかぢ)を労(ねぎら)はず」
③ 物の香りを吹き送ってくる風。
※伊勢集(11C後)「おひかぜのわがやどにだに吹き来ずはゐながら空の花を見ましや」
④ 特に、着物にたきしめた香や、たいている香の薫りなどをただよわせてくる風。→追い風用意。
※源氏(1001‐14頃)若紫「君の御をひかせ、いと殊(こと)なれば」
⑤ すぐれた馬。逸馬(いつば)。〔元和本下学集(1617)〕」
とある。
⑤の意味を比喩として用いての駕籠かきの立小便か。
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