2022年11月4日金曜日

 今日は平塚の湘南説法会に行った。歌手でバンドゥーラ奏者のナターシャ・グジーさんが来るとネットのニュースで見たからだが。
 説法会の方は戦没者慰霊のための平和記念法要で、公の戦没者慰霊イベントが無宗教化するなかで、仏教でやりたいというところから始まったものだという。
 特に説法はなく、お経をあげるだけのシンプルなもので二十分で終わった。一番偉いお坊さんだろうか、赤と金の袈裟で隠元禅師の肖像画を思い出した。
 二部がグジーさんの一時間半のコンサートで、ウクライナの曲、オリジナル曲、日本の有名な曲を織り交ぜての内容だった。
 ウクライナの曲やオリジナル曲はバンドゥーラの奏法の多彩さを感じさせる。ベースのややミューとした乾いた音が良いし、中音から高音にかけての奇麗な倍音の響きは、最初にBeer BearのЗа незримой чертойを聞いた時以来好きになって、ついに生で聞くことができた。
 ただ、見に行く人は左側から見た方がいいね。正面だとバンドゥーラは横顔になる。
 ジブリの曲はローゼマインが異世界でフェシュピールで弾いたのもこんな感じなのかなと思わせる。
 さだまさしの「防人の歌」は今のウクライナに重なって、こんな刺さる曲だったのか。「大切な故郷もみんな逝って」しまわないように、ウクライナの防人を世界中で支援していかなくてはいけない。
 チェルノブイリの話もしていた。何も持たずに移動させられて、そのまま帰れなくなったというのは日本も一緒だったが、そのまま土に埋めたというのはやはりロシア人だな。戦争の初期にはその上をまた戦車で掘り返したりして。
 戦争のことには直接言及しなかったけど、メッセージは十分伝わったと思う。アンコールで日本の唱歌の「ふるさと」を歌った。大切な故郷を取り返そう。

 それでは「革足袋の」の巻の続き。
 三裏、六十五句目。

   すすみ出たるはつ鴈の声
 秋風の吹につけても食つきて   在色

 雁は草食で地面の草や落穂などをつついている。
 『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』の注は、

 秋風の吹くにつけてもとはぬかな
     荻の葉ならばおとはしてまし
              中務(後撰集)

の歌を引いている。
 六十六句目。

   秋風の吹につけても食つきて
 旅なれたりし萩の下露      卜尺

 秋風が吹こうが萩の下露に濡れようが、野宿に慣れた人間はひたすら食う。
 六十七句目。

   旅なれたりし萩の下露
 行暮て飛脚は野辺の仮枕     志計

 飛脚も旅慣れている。
 六十八句目。

   行暮て飛脚は野辺の仮枕
 何十何里夢のかよひ路      一朝

 行き倒れか。夢の中でも配達し続ける。
 六十九句目。

   何十何里夢のかよひ路
 あら海の岸による波泪じやもの  正友

 何十何里夢のかよひ路と思うと、岸に寄せる波くらい涙が出る。
 「夢のかよひ路」に「岸による波」は、

 住の江の岸による浪よるさへや
     ゆめのかよひぢ人めよくらむ
              藤原敏行(古今集)

の歌による。
 七十句目。

   あら海の岸による波泪じやもの
 誰が邪間入て中の破舟      雪柴

 二人の仲を船に喩えて、誰かに邪魔されて船が壊れて岸に流れ着き涙する。
 七十一句目。

   誰が邪間入て中の破舟
 うき思ひ問屋次第にともかくも  一鉄

 破舟に「浮き」が縁語になり、「憂き思ひ」に掛けて用いる。
 問屋は取り次ぐ人ということで、仲を取り次いでもらうと、その中に立つ人次第で破談にもなる。
 七十二句目。

   うき思ひ問屋次第にともかくも
 今此さとのりんきいさかひ    松意

 問屋の倅が浮気者で悋気諍いがこの里の噂になっている。
 七十三句目。

   今此さとのりんきいさかひ
 ながむれば烟絶にしかせ所帯   卜尺

 かせ所帯はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「悴所帯」の解説」に、

 「〘名〙 貧乏所帯。貧乏暮らし。貧しい生活。かせせたい。
  ※俳諧・談林十百韻(1675)上「童子が好む秋なすの皮〈在色〉 花娵(はなよめ)を中につかんでかせ所帯〈雪柴〉」
  ※浄瑠璃・双生隅田川(1720)三「あるかなきかのかせ所帯(ショタイ)、妻は手づまの賃仕事(しごと)」

とある。例文は第一百韻「されば爰に」の巻四十九句目。
 「ながむれば烟絶にし」は古歌だと藻塩焼く蜑の苫屋の烟も絶えてだが、ここでは貧乏で飯も炊けないということになる。
 悋気諍い絶えなければ仕事もままならず困窮することになる。
 七十四句目。

   ながむれば烟絶にしかせ所帯
 をきわたしたる質草の露     松臼

 蜑の苫屋の煙絶えてに沖へ渡すの連想から、それに掛けて質屋に置き渡した質草の露とする。
 七十五句目。

   をきわたしたる質草の露
 影てらす三月切にや虫の声    一朝

 三月切はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「月切」の解説」に、

 「① 一か月ごとに区切りをつけること。また、何か月かに月を限って定めること。
  ※梅津政景日記‐慶長一七年(1612)四月四日「約束いたし、月切之事候間」
  ② =つきがこい(月囲)
  ※俳諧・物種集(1678)「世盛を問ふせんし茶の水 いかなるか是は月切の竹柄𣏐〈任口〉」

とある。ここでは三か月経つと質草が流れることを言い、それを三日月に掛ける。

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