2021年1月22日金曜日

  コロナの方はどうやらピークアウトが見えてきて、欧米のようにはならなかった。毎年のことだが年末に人出がピークに達し、正月過ぎるとかたっと人も仕事も少なくなる。二月いっぱいはこのペースで行けるだろう。三月になると年度末で人の移動が多くなる。その時までにどれだけ抑えられるかが勝負になる。
 トランプの敗着は今思うとケネディ大統領暗殺に関する機密文書の公開を一時延期したことだったのではないか。あの文書を公開していて白なら白でいいし、黒ならCIA改革への世論を盛り上げることができただろう。ケネディ暗殺を灰色なままにしたことが、結局様々な陰謀説に信憑性を与えてしまっている。今回の選挙でも過激な陰謀論者を制御することができなくなった。
 また、あの時日本でも「チキン」という言葉がネット上に躍っていた。まあ、この秋のバイデンさんに期待したい。

 それでは「たび寐よし」の巻の続き。挙句まで。

 初裏。
 七句目。

   障子明ればきゆる燈火
 起もせできき知る匂ひおそろしき  東睡

 物の怪だろうか。
 八句目。

   起もせできき知る匂ひおそろしき
 乱れし鬢の汗ぬぐひ居る      芭蕉

 『源氏物語』葵巻の六条御息所であろう。

 「あやしう、われにもあらぬ御心ちをおぼしつづくるに、御ぞなども、ただけしのかにしみかへりたり。
 あやしさに、御ゆするまゐり、御ぞきかへなどし給ひて、こころみ給へど、なほおなじやうにのみあれば、我が身ながらだにうとましうおぼさるるに、まして、人のいひ思はむことなど、人にのたまふべきことならねば、心ひとつにおぼしなげくに、いとど御こころがはりもまさり行く。
 (妙な自分が自分でなくなるような感覚は続いていて、御衣などもただ、祈祷の際に焚いた護摩の芥子の香が染み付くばかりです。
 気持ち悪いので髪を洗ったり御衣を着替えたりしても、これといって変化もないので自分のことながら嫌になり、まして人がどう思っているかなど人に聞くわけにもいかず、一人で悶々とするだけでますます精神に変調をきたして行くばかりです。)

の場面。
 九句目。

   乱れし鬢の汗ぬぐひ居る
 なげられて又とりつけるをかしさよ 一井

 『校本芭蕉全集 第三巻』の注に、「前句を角力の後のこととした」とある。
 十句目。

   なげられて又とりつけるをかしさよ
 乳を飲子の我に似るらし      越人

 「なげられて」は引き離されて、「とりつける」はすがりつくで、乳児のおっぱいを飲む様子とする。「にるらし」と推量なので、「全く父さんにそっくりね」と言われたということか。
 十一句目。

   乳を飲子の我に似るらし
 麻布を煤びる程に織兼て      昌碧

 「煤(すす)びる」は煤で汚れるという意味。乳児は手がかかるし、二十四時間休んでくれないので、機織りをする暇はほとんどない。
 十二句目。

   麻布を煤びる程に織兼て
 藺を取こめばねこだ世話しき    荷兮

 「ねこだ」は『校本芭蕉全集 第三巻』の注に「藁筵。寝茣蓙」とある。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」にも、

 「〘名〙 わらやなわで編んだ大形のむしろ。また、背負袋。ねこ。
  ※俳諧・玉海集(1656)四「ねこたといふ物をとり出てしかせ侍し程に」

とあるので、「猫だ」ではないようだ。藺草を刈り取ったらすぐに「ねこだ」を作らなくならないので忙しくて機織りは後回しになる。
 十三句目。

   藺を取こめばねこだ世話しき
 夕立の先に聞ゆる雷の声      楚竹

 藺草を刈る頃は夕立の季節になる。
 十四句目。

   夕立の先に聞ゆる雷の声
 馬もありかぬ山際の霧       東睡

 雨が降らずに稲妻と雷の音だけになると秋になる。山の麓に霧がかかり馬は雷が去るのを待っている。
 十五句目。

   馬もありかぬ山際の霧
 小男鹿のそれ矢を袖にいつけさせ  芭蕉

 「いつけさせ」は「射付けさせ」で袖を射抜いてということ。
 街道から外れた山道、霧の中を歩いているとさお鹿を狙った矢が袖を射抜いてゆく。危ないから知らない山に勝手に入ってはいけない。抜け道などせずに街道を歩こう。
 十六句目。

   小男鹿のそれ矢を袖にいつけさせ
 飛あがるほどあはれなる月     越人

 初裏にまだ月が出てないし、次は花の定座なので、ここで月を出したい所。いきなり矢が飛んできて危うく命を落とすところに月ということで、かなり強引に展開しなくてはいけない所だ。
 前句を比喩としていきなり矢に射られたような飛び上がってびっくりするほど月がきれいだ、と何とか収める。
 十七句目。

   飛あがるほどあはれなる月
 凩にかぢけて花のふたつ三ツ    荷兮

 冬の帰り花に木枯しの澄んだ月が登り、なかなか見れるものではないということで、「飛あがるほどあはれなる月」になる。
 挙句。

   凩にかぢけて花のふたつ三ツ
 畠につづく野は遙なり       昌碧

 冬の畑に行くまでの野は草も枯れて、遥か彼方まで見渡せる。何となくこれから芭蕉さんの行く旅路を暗示させて、発句に呼応する形で一巻を終わる。

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