2021年1月13日水曜日

  旧暦だと今日から師走。快晴。
 日本で陰謀論が過激化しにくいのは学研の「ムー」という雑誌のおかげではないかと思ってる。子供のころにあったあの雑誌がいまだに続いているというのも驚きだが、あの雑誌はUFOや心霊現象、オカルトだけでなく世界の様々な陰謀説も紹介してくれる。一つの陰謀説を聞かされると人はわりかし信じやすいが、たくさんの陰謀説を見せられると相対化されてしまい、信じなくなるものだ。
 陰謀説は信じるものではなく、あくまで談笑のネタとして楽しむものだ。
 話は変わるが去年の秋、ちょうど心臓の検査で病院に行ってた頃読んだラノベに「猫の地球儀」(秋山瑞人著、2〇〇〇、電撃文庫)というのがあった。
 人類が滅んだのか、地球を回る宇宙コロニーに長く取り残されて知能を進化させた猫たちがいて、その中の一匹がロボットとともに地球へ行こうとする話だが、最近よくテレビで推しているあのアニメ映画とちょうど逆だなと思って。

 それでは「笠寺や」の巻の続き。

 二表。
 十九句目。

   火を消す顔の憎き唇
 盞をあらそひ負てかり枕     菐言

 「かり枕」は仮寝と同じ。旅寝の意味と仮眠の意味がある。
 この場合は飲み比べに負けて寝てしまったところに、勝者がどや顔で火を吹き消す。
 二十句目。

   盞をあらそひ負てかり枕
 一二の船を汐にまかする     自笑

 前句の「かり枕」を旅寝にする。汐まかせの船の上で寝る。
 二十一句目。

   一二の船を汐にまかする
 乗捨し真砂の馬の哀なり     重辰

 いくさでの敗走であろう。馬を捨ててたまたま置いてあった舟で漕ぎ出す。どこへ行くとも決めてなく、あとは汐まかせ。
 二十二句目。

   乗捨し真砂の馬の哀なり
 刀をぬきてたぶさおし切     如風

 「たぶさ」は髻(もとどり)のこと。出家するつもりか、ただ僧に成りすますだけか。
 二十三句目。

   刀をぬきてたぶさおし切
 大年の夜のともし火影薄く    知足

 武家だが借金のかたに家屋敷も取られ、もはや火の消えるように出家するしかない。
 二十四句目。

   大年の夜のともし火影薄く
 居眠りながらくける綿入     安信

 「くける」は「絎ける」で「国語辞典オンライン」には「布の端を縫い目が目立たないように縫うこと。また、そのような縫い方。」とある。
 大晦日の夜に破れた綿入れ半纏をつくろっている。正月はやはりきちんとした格好をしなくては、というところだが、忙しかったのか泥縄になってしまった。
 二十五句目。

   居眠りながらくける綿入
 藁の戸に乳を呑ほどの子を守て  自笑

 綿入れをねんねこ半纏のこととする。
 二十六句目。

   藁の戸に乳を呑ほどの子を守て
 もぎつくしたる午時の花     菐言

 「午時(ひるどき)の花」は午時花(ゴジカ)という植物もあるが、ここではヒルガオのことか。花は可憐だが畑の雑草で、葉は食用になるから、片っ端から捥ぐ。
 二十七句目。

   もぎつくしたる午時の花
 山路来て何やら床し郭公     如風

 言わずと知れた『野ざらし紀行』の時の、

 山路来て何やらゆかしすみれ草  芭蕉

の句の下五を変えただけの句だ。貞享二年三月二十七日の芭蕉・叩端・桐葉の三吟興行の時の発句は、

 何とはなしに何やら床し菫草   芭蕉

だったが、貞享二年五月十二日付の千那宛書簡に「山路来て」と改められた句形が見られる。
 雑草をむしりとる山の百姓はスミレに魅了されることはなくても、さすがにホトトギスの声ならわかる。
 二十八句目。

   山路来て何やら床し郭公
 笈おもげなる宮の休らひ     重辰

 山路を行くのを旅人とする。神社で一休みしているのだろう。
 「笈」はコトバンクの「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」には、

 「行脚僧や修験者などが仏像,仏具,経巻,衣類などを入れて背負う道具。箱笈と板笈の2種がある。箱笈は内部が上下2段に仕切られ,上段に五仏を安置し,下段に念珠,香合,法具を納めている。扉には鍍金した金具を打ったり,木彫で花や鳥を表わし,彩漆 (いろうるし) で彩色した鎌倉彫の装飾を施したものもある。」

とある。
 『鬼滅の刃』の竈門炭治郎が背負っているのも、見た目は箱笈で、昔なら違和感なかったと思う。
 二十九句目。

   笈おもげなる宮の休らひ
 姉妹窓の細めに月を見て     安信

 前句の「宮」を熱田の宮宿として、遊郭の姉妹を付ける。笈を背負った旅人もここで安らう。
 三十句目。

   姉妹窓の細めに月を見て
 名を待宵と付し白菊       知足

 白菊のように清楚な美しさを持つ遊女の別名は「宵待」。
 ちなみに宵待ち草(待宵草、月見草)は幕末に観賞用に輸入されたものが雑草化したもので、この時代にはまだない。

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