今日もいい天気だった。暖かくなったというが部屋に籠っているとよくわからない。
去年読んだラノベの中でもう一つ、霧崎雀さんの『血潮の色に咲く花は』(二〇一四、ガガガ文庫)も良かったね。前に読んだ『快感回路』(デイヴィット・J・リンデン、ニ〇一二、河出書房新社)と何か考え方が似てる気がする。『怨獄の薔薇姫』も好きだから、続き出ないかな。
それでは「笠寺の巻」の続き。挙句まで。
二裏。
三十一句目。
名を待宵と付し白菊
おもひ草水無瀬の水に投入ん 重辰
思草はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙
① 植物「なんばんギセル(南蛮煙管)」の異名。《季・秋》
※万葉(8C後)一〇・二二七〇「道辺の尾花が下の思草(おもひぐさ)今さらになに物か思はむ」
② 植物「おみなえし(女郎花)」の異名。
※行宗集(1140頃)「女郎花おなじ野べなるおもひ草いま手枕にひき結びてむ」
③ タバコの異称。
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「煙管にくゆる火も、〈略〉吹きて乱るる薄煙、空に消えては是もまた、行方も知らぬ相おもひぐさ」
[補注]どの植物を指すのかについては古来諸説がある。和歌で「尾花が下の思草」と詠まれることが多いところから、ススキなどの根に寄生する南蛮煙管と推定されている。「思ふ」を導いたり、「思ひ種」にかけたりして用いられるが、下向きに花をつける形が思案する人の姿を連想させることによるものか。」
とある。他にもリンドウだという説やツユクサだという説もある。
『校本芭蕉全集 第三巻』の注は前句の「宵待」を宵待の小侍従として同時代の後鳥羽院の水無瀬宮で応じたとしている。これだと付け合い的な発想で物付けで付けたことになる。
水無瀬川は伏流水で表に水が見えないから水無瀬川で、そこに思い草を投げ込むというのは何かの逆説だろうか。
もう一つ後鳥羽院が白菊を好んだという縁もある。後鳥羽院が隠岐に流されたとき、息子の順徳院が詠んだ歌に、
いかにして契りおきけむ白菊を
都忘れと名づくるも憂し
順徳院
というのがある。
順徳院の立場に立って、後鳥羽院の帰りを願い宵待という別名の白菊を水無瀬川に投げ入れたい、と読む方が良いのかもしれない。
三十二句目。
おもひ草水無瀬の水に投入ん
秋くれぬとて扇引さく 自笑
「草」には「草ぐさ」というように品物のことも意味する。前句の「おもひ草」を思いを書き綴った品物として、扇に物を書きつけて引き裂いて投げ入れたとしたのだろう。
後に『奥の細道』の旅で北枝と別れる時に芭蕉は、
物書て扇引さく余波哉 芭蕉
と詠んでいる。
三十三句目。
秋くれぬとて扇引さく
初雪のかかる箙をうち払ひ 知足
箙(えびら)はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「① 矢をさし入れて腰に付ける箱形の容納具。矢をもたせる細長い背板の下に方立(ほうだて)と呼ぶ箱をつけ、箱の内側に筬(おさ)と呼ぶ簀子(すのこ)を入れ、これに鏃(やじり)をさしこむ。背板を板にせずに枠にしたものを端手(はたて)といい、中を防己(つづらふじ)でかがって中縫苧(なかぬいそ)という。端手の肩に矢を束ねて結ぶ緒をつけ、矢把(やたばね)の緒とする。葛箙、逆頬箙、竹箙、角箙、革箙、柳箙などの種類がある。
※平家(13C前)四「二十四刺したる矢を、〈略〉射る、矢庭に敵十二人射殺し、十一人に手負うせたれば、箙に一つぞ残りたる」
② 能楽用の小道具。数本の矢を紐で束ね、箙に擬したもの。
③ 連句の形式の一つ。箙にさす矢の数にかたどり、一巻二四句から成るもので、初折の表六句と裏六句、名残の表六句と裏六句、合わせて二四句を一連とした。〔俳諧・独稽古(1828)〕」
とある。また、
「[語誌](1)「箙」の字は「十巻本和名抄‐五」「色葉字類抄」などでは「やなぐひ」の訓が付けられている。「やなぐひ」は、平安時代には朝廷で儀仗用などに用いられていた。平安時代末頃から衛府の随身や武士の使用していたものを指して「えびら」と呼ぶようになったものと思われる。
(2)「今昔‐二八」の記述より矢と容器とを含めて「やなぐひ」、矢を入れる容器だけを「えびら」と区別していたものと思われる。しかし、後には混同されることもあったようで、易林本節用集では、「胡簶」「箙」ともに「えびら」と読まれている。」
とあり、やなぐひであれば矢がきれいに扇形に並ぶ。
前句の「扇引さく」をやなぐひのきれいに扇方に並んだ矢が、雪を払おうとしたために乱れて、扇を引き裂いたようになってしまったという意味かもしれない。
三十四句目。
初雪のかかる箙をうち払ひ
鳥居を覗く八重の松ばら 如風
これも「やなぐひ」であれば神事であろう。八重の松原はお目出度い感じがする。
三十五句目。
鳥居を覗く八重の松ばら
花盛尾張の国に札うちて 菐言
これは天林山笠覆寺への奉納俳諧ということで、花の盛にこのお寺にお参りしてと盛り上げる。お参りすることを「札打つ」という。
挙句。
花盛尾張の国に札うちて
暖になるすぐの明ぼの 安信
「すぐ」は真っすぐのこと。朝の暖かな陽ざしは真っすぐに差し込んでくる。
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