もともと多様なものを無理に団結させようとするから「分断」が生じるんじゃないかな。
それに民主主義の勝利だなんて、まるで今までが民主主義じゃなかったようなことを言うが、それこそ挑発しているとしか思えない。
中国やイランならいざ知らず、政権交代の起こる国では、国家権力対民衆だとか体制対反体制だとかいうものはいつでも入れ替わる。だから国家の暴力は許されないが民衆の暴力は許されるだとか、国家のフェイクニュースは許されないが民衆のフェイクニュースは方便だだとかいう論理は通用しない。
アメリカのリベラルはこれから体制側になり国家権力の側になる。それをしっかり自覚しないといつまでたっても分断は埋まらない。
さて『笈の小文』の俳諧興行も芭蕉が十二月中旬に伊賀へと向かうと、しばらく伊勢や奈良への旅が続き激減することになる。
また、「稲葉山」の巻でせっかく岐阜に招かれたにもかかわらず、実際に岐阜に入ったのは『笈の小文』の旅を終え、京から再び名古屋へと向かう途中で五月のことだった。
そういうわけで、『笈の小文』の旅での冬の興行は、次の「たび寐よし」の巻で最後になる。今栄蔵『芭蕉年譜大成』(一九四四、角川書店)によると、このあとも十二月上中旬に
露凍てて筆に汲み干す清水かな 芭蕉
を発句とする十吟二十四句があったというが、『校本芭蕉全集』には載っていない。
それではその「たび寐よし」の巻の発句。
十二月九日一井亭興行
たび寐よし宿は師走の夕月夜 芭蕉
興行は夕方から始まったのであろう。九日の月はほぼ半月。一井についてはよくわからないが名古屋の人のようだ。「たび寐よし」と一井の家に今日は泊めてもらうということで、当座の興に即した挨拶句になっている。
脇。
たび寐よし宿は師走の夕月夜
庭さへせばくつもるうす雪 一井
一井の句も当座の興で、狭い庭に薄雪が積もっていると応じる。狭いところですがとへりくだった挨拶になる。「せまく→せばく」とmとbが交替している。
三句目。
庭さへせばくつもるうす雪
どやどやと筧をあぶる藁焼て 越人
「どやどや」は普通は人が大勢押し寄せることを言うが、weblio辞書の「隠語大辞典」には、
「火災。〔第一類 天文事変〕
火災。火事場の騒ぎの形容より。」
とある。「隠語大辞典」は、「隠語大辞典は、明治以降の隠語解説文献や辞典、関係記事などをオリジナルのまま収録している」とあるので、江戸時代のものではない。火事で大騒ぎになる場面で「どやどや」が頻繁に使われたのは確かだろう。
薄雪が積もって寒いからついつい焼火(たきび)をしたくなる気持ちはわかるが、狭い庭だと筧に燃え移って大騒ぎになる。
四句目。
どやどやと筧をあぶる藁焼て
紙漉を見に御幸あるころ 昌碧
『校本芭蕉全集 第三巻』の注には「京都中川の紙屋院に行幸のある頃」とある。
紙屋院はコトバンクの「日本大百科全書(ニッポニカ)の解説」に、
「奈良時代に設けられた官立製紙所。「しおくいん」「かんやいん」ともいう。平安時代の大同(だいどう)年間(806~810)に、京都の紙屋川のほとりに拡充移設されて以来、紙屋紙(かんやがみ)の名声をもつ優秀な紙を漉(す)いた。製紙技術の指導的役割も果たし、和紙の流し漉(ず)き法もおそらくここで開発されたと思われる。平安末期に権力が貴族から武家の手に移り、また優れた地方産紙も出回るようになったためその地位は低下し、もっぱら漉き返しを行うようになった。[町田誠之]」
とある。紙屋川は天神川の北野天満宮より上をいう。
このあたりには金閣寺があり、足利義満の時代に御小松天皇の北山殿行幸が行われた。コトバンクの「北山殿」の「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」に、
「室町時代,3代将軍足利義満が京都北山に営んだ別荘をいい,これにちなんで義満自身をもいう。ここには,元仁1(1224)年に西園寺公経が建てた別荘があったが,義満は西園寺実永からこれを譲り受け,工費百余貫を投じて応永4(1397)年に完成させた。同 15年には後小松天皇が行幸した。鹿苑寺金閣はその遺構。当時は,舎利殿,天鏡閣,護摩堂,懺法堂があり,広大な庭とともに異彩を放っていた。」
とある。
この後小松天皇の北山殿行幸は応永十五年三月八日から二十八日まで行われたという。この地はまた西園寺家の北山殿を足利義満が受け継いだ地でもあり、それ以前から朝廷と縁の深い土地だった。行幸はそれ以前にも春秋に行われていたのだろう。
句の方は前句を野焼きのこととし、北山で春の行幸が行われる頃、田んぼでは古い藁を燃やして野焼きを行っているという違え付けではないかと思う。
五句目。
紙漉を見に御幸あるころ
琴持の筵の上をつたひ行 荷兮
御幸だから琴を持った従者が筵の上を行く。
六句目。
琴持の筵の上をつたひ行
障子明ればきゆる燈火 楚竹
『校本芭蕉全集 第三巻』の注に、
「夜の宴に、琴を運び込もうとして障子を明けると、吹き込む風に燈火が消える。」
とある。
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