2020年7月28日火曜日

 昨日の二十四句目の作者「梨水」と書いてしまったが、芭蕉の間違いで、訂正しました。
 それでは「有難や」の巻の続き。梨水の機転でローカルな展開に。

 二十五句目。

   妻恋するか山犬の声
 薄雪は橡の枯葉の上寒く      梨水

 橡(とち)は東北に多い。橡の実は食用になるし、木材は硬くて木目が美しいので家具や椀に用いられる。また樹齢千年の巨木にもなる。『炭俵』の「早苗舟」の巻八十句目に、

   大水のあげくに畑の砂のけて
 何年菩提しれぬ栃の木       孤屋

の句もある。
 山の古木にうっすらと雪が積もると冬の始まりで、やがて雪に閉ざされる季節がくる。この場合の山犬はニホンオオカミかもしれない。
 二十六句目。

   薄雪は橡の枯葉の上寒く
 湯の香に曇るあさ日淋しき     露丸

 前句に刺激されて地元愛に目覚めたか。羽黒の冬の訪れに温泉の湯気に曇る朝日を付ける。雪見の朝風呂でも朝日が曇っていると寂しいか。
 二十七句目。

   湯の香に曇るあさ日淋しき
 鼯の音を狩宿に矢を矧て      釣雪

 鼯は「むささび」と読む。ムササビは夜行性で夜鳴く。その声を聴きながら狩人(マタギの人か)は矢を作り、早朝に狩に出るが、温泉の煙で視界は良くない。
 二十八句目。

   鼯の音を狩宿に矢を矧て
 篠かけしほる夜終の法       圓入

 「篠」は「すず」と読む。「篠懸け」はweblio辞書の「学研全訳古語辞典」に、

 「修験者(しゆげんじや)が衣の上に着る麻製の法衣。「素襖(すあを)」と似た形に作る。◆深山の「篠(すず)」の露を防ぐために着ることから。」

とある。「しほる」は「しをる」で濡れること。マタギはムササビの声に矢を作り、山伏は夜すがら修行する。向かえ付け。
 二十九句目。

   篠かけしほる夜終の法
 月山の嵐の風ぞ骨にしむ      曾良

 月の定座だがここでは地名の月山を出す。真如の月にちなんだその名だが、修験者には過酷な嵐となることもある。
 三十句目。

   月山の嵐の風ぞ骨にしむ
 鍛冶が火残す稲づまのかげ     梨水

 月山といえば山頂付近に鍛冶小屋があり、芭蕉と曾良は見てきたばかりだった。前句の嵐を受けて稲妻の光る中で鍛冶屋が作業を終え、火だけが灯っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿