2020年7月19日日曜日

 梅雨明けがだいぶ遅れそうだ。
 日本人は一過性の災害には強いが、長期化する者には弱いというところで、何かアニメ映画の「天気の子」の意味が今頃分かったように思える。
 よく「止まない雨はない」というが、「止まない雨はない」のなら、ただじっと止むのを待っていればいい。でも「止まない雨」があるのなら、人間のほうが変わらなくてはいけない。
 コロナもウィルスが根絶されない限り終わらない。免疫は獲得しても長く持たないいから集団免疫の獲得は無理なようだし、免疫が困難ならワクチンも期待できない。どう考えても長期化するのは間違いない。
 だったら変わらなくてはならない。ラッドウィンプスの『新世界』もそんな応援歌なんだとようやくわかった。
 それでは「早苗舟」の巻の続き。挙句まで。

 名残裏。
 九十三句目。

   包で戻る鮭のやきもの
 定免を今年の風に欲ばりて    野坡

 定免はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「① 恒常的に賦課を免除されること。また、その田。
  ※大乗院寺社雑事記‐応仁元年(1467)四月二五日「定免一斗宛在所也」
  ② (「免」は、年貢の税率) 江戸時代の徴税法の一つ。過去五年から一〇年の収穫高を平均して税額を定め、一定の年限を限って、その間は豊作・不作にかかわらず、定められた税額を徴収したもの。もし、風水害などの災害が大きい時は、とくに破免検見(はめんけみ)という処置をとって税額を減じた。定免取り。
  ※集義和書(1676頃)一六「無事の時は定免よし」
  ※浮世草子・新可笑記(1688)四「世中の秋にはつよくとり、不作の年にはそれそれの毛見(けみ)の大事是なり。定免(テウメン)の取かた用捨有へし」

とある。年貢の定額制ということか。
 今年は豊作になりそうだから定免にしてもらおうと思って、付け届けに鮭を持って行ったが断られたということか。
 九十四句目。

   定免を今年の風に欲ばりて
 もはや仕事もならぬおとろへ   利牛

 定免だと働けなくなっても取られてしまうということか。
 九十五句目。

   もはや仕事もならぬおとろへ
 暑病の殊土用をうるさがり    孤屋

 「暑病(あつやみ)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 夏の暑さのために病気になること。また、その病気。暑気あたり。暑さあたり。
  ※俳諧・炭俵(1694)上「暑病(ヤミ)の殊土用をうるさがり〈孤屋〉」

とある。熱中症のことか。
 「うるさい」は煩わしい、鬱陶しいということ。今日でも「前髪がうるさい」という言い方は残っている。
 土用は夏バテの季節だった。土用の丑の日にウナギを食べるようになるのは百年くらい後のことになる。
 九十六句目。

   暑病の殊土用をうるさがり
 幾月ぶりでこゆる逢坂      野坡

 暑いときに旅はしたくないもので、涼しくなって久しぶりに逢坂山を越える。
 九十七句目。

   幾月ぶりでこゆる逢坂
 減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし 利牛

 「店(たな)さらし」はコトバンクの「大辞林 第三版の解説」に、

 「①商品が売れずに長い間店頭に置かれたままになっていること。また、その商品。 「 -の品」 「十九世紀で売れ残つて、二十世紀で-に逢ふと云ふ相だ/吾輩は猫である 漱石」
  ②解決を要する問題が、全然手をつけられずに放置されていること。 「 -になっている案件」

とある。
 近江の国には鍛冶屋が多かったのだろう。包丁、農具、武器など、そうそう売れるものではないから、何か月かたって行ってみても同じものがそのまま置いてあったりする。
 九十八句目。

   減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし
 門建直す町の相談        孤屋

 「町」は「ちょう」と読む。城下町の町人地のことであろう。職業別に分けられて、ここでは鍛治町になる。
 今の東京駅の南側に鍛冶橋という地名があり、かつて鍛冶橋御門があった。寛永六年(一六二九)の建立。京橋側に鍛冶町があった。
 ここではそんな立派な門ではなく、どこかの小さな鍛治町の木戸のようなものかもしれない。寂れているので門だけでも立て直そうということか。
 九十九句目。

   門建直す町の相談
 彼岸過一重の花の咲立て     野坡

 門を立て直し、これから町も繁栄するぞというところで桜の花もようやく咲き始めた様を付ける。
 この一巻をもって、これからこの三人で江戸蕉門を盛り上げていくぞという決意が込められているのかもしれない。
 挙句。

   彼岸過一重の花の咲立て
 三人ながらおもしろき春     執筆

 最後は執筆が締めくくる。三人だけでも面白かったですよ、と。やや上から目線な感じがするけどひょっとして芭蕉さん?

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