2020年7月17日金曜日

 今日は旧暦五月二十七日(辛酉)で五月も今日を含めて残すところ四日になった。相変わらず梅雨空が続く。
 それでは「早苗舟」の巻の続き。

 八十五句目。

   足なし碁盤よう借に来る
 里離れ順礼引のぶらつきて    利牛

 「順礼引」は中村注に「木賃宿の客引」とある。
 「ぶらつく」は清濁の表記がなかった時代には「ふらつく」との区別が難しい。同じ言葉だったのかもしれない。
 ぶらぶらと歩きまわるというよりは、手持無沙汰で暇つぶしに碁盤を借りに来るということだろう。
 八十六句目。

   里離れ順礼引のぶらつきて
 やはらかものを嫁の襟もと    孤屋

 「やわらかもの」は絹織物のことで、ウィキペディアによれば、

 「寛永5年(1628年)には、農民に対しては布・木綿に制限(ただし、名主および農民の妻に対しては紬の使用を許された)され、下級武士に対しても紬・絹までとされ贅沢な装飾は禁じられた。」

とあり、

 「農民の服装に対しては続いて寛永19年(1642年)には襟や帯に絹を用いることを禁じられ、さらに脇百姓の男女ともに布・木綿に制限され、さらに紬が許された層でもその長さが制限された。」

とある。紬ではない絹を襟に使っていれば、農工商ではなく武士だということになる。商人が見た目が木綿に似ているということでこっそりと紬を着るということは五句目のところで触れたが、問題は紬も「やわらかもの」に含まれるかどうかだ。
 この場合、順礼引が嫁にやわらかものの襟の服を買ってやったのなら、紬であろう。
 八十七句目。

   やはらかものを嫁の襟もと
 気にかかる朔日しまの精進箸   野坡

 「朔日しま」は中村注に「朔日初めから、早々の意。」とある。
 「精進箸(いもひばし)」は忌(いも)ひ、つまり精進潔斎の時に使う箸で、朔日ごろ、その箸を見て精進潔斎が始まるのを予感させる。嫁の側の忌日だろうか。
 精進潔斎が始まれば男女同衾も禁じられる。
 八十八句目。

   気にかかる朔日しまの精進箸
 うんぢ果たる八専の空      利牛

 「うんぢ果てる」は倦(う)み果てるということ。
 「八専」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、

 「陰暦で、壬子(みずのえね)の日から癸亥(みずのとい)の日までの12日間のうち、丑(うし)・辰(たつ)・午(うま)・戌(いぬ)の4日を間日(まび)と呼んで除いた残りの8日。1年に6回あり、雨の日が多いという。仏事などを忌む。」

とある。
 壬子(みずのえね)から癸亥(みずのとい)は十干十二支の甲子(きのえね)に始まり癸亥(みずのとい)で終わる最後の十二日になる。ちなみに今日は辛酉(かのえとり)で明後日の十九日は癸亥(みずのとい)、八専の終わり頃になる。
 精進潔斎も忌日だが、八専も忌日だ。忌日が重なればやれることも少なくうんぢ果てることになる。八専は雨の日が多いということで、空までが鬱陶しい。

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