2020年7月22日水曜日

 「有難や」の巻の続き。

 第三。

   住程人のむすぶ夏草
 川船のつなに蛍を引立て      曾良

 夏草に蛍は付け合いといってもいい。
 須賀川での「かくれ家や」の巻の脇にも、

   かくれ家や目だたぬ花を軒の栗
 まれに蛍のとまる露草       栗斎

 出羽大石田での「さみだれを」の巻の脇にも、

   さみだれをあつめてすずしもがみ川
 岸にほたるを繋ぐ舟杭       一榮

の句がある。
 四句目。

   川船のつなに蛍を引立て
 鵜の飛跡に見ゆる三ヶ月      釣雪

 川船の綱から鵜飼の連想に持ってゆくが、鵜は潜らずに飛んでいくから鵜飼ではない。夕暮れの景色に三ヶ月を添える。
 曾良の『旅日記』に「三日ノ夜、希有観修坊釣雪逢、互ニ泣第ス。」とある。曾良の旧知の僧のようだ。『俳諧書留』に「花洛」とあるところからすると京都の人のようだ。尾張の釣雪と同一人物なのか別人なのかはよくわからない。
 曾良は信州諏訪の生まれで、若い頃を伊勢長島で過ごしている。そのあと江戸に出て、芭蕉に出会うわけだから、この時はまだ京都に住んだことはなかったとすれば、伊勢長島の大智院にいたころの旧友か。ならば川船の綱に長良川の鵜飼いを連想するのは自然だったし、「鵜の飛跡」は伊勢長島から大きく羽ばたいた曾良のことを言っているのかもしれない。
 五句目。

   鵜の飛跡に見ゆる三ヶ月
 澄水に天の浮べる秋の風      珠妙

 三日月を天の川を渡る船に見立て、七夕の頃の句とする。

 天の海に雲の波立ち月の舟
     星の林に漕ぎ隠る見ゆ
              柿本人麻呂(万葉集)

の歌がある。
 『校本芭蕉全集 第四巻』(小宮豐隆監修、宮本三郎校注、一九六四、角川書店)の宮本注によれば、珠妙は『旅日記』に「南部殿御代参ノ僧浄教院・江州円人ニ会ス」とあるところの浄教院の僧だという。
 六句目。

   澄水に天の浮べる秋の風
 北も南も碪打けり         梨水

 秋風に砧は李白の「子夜呉歌」であろう。

   子夜呉歌       李白
 長安一片月 萬戸擣衣声
 秋風吹不尽 総是玉関情
 何日平胡虜 良人罷遠征
 長安のひとひらの月に、どこの家からも衣を打つ音。
 秋風は止むことなく、どれも西域の入口の玉門関の心。
 いつになったら胡人のやつらを平らげて、あの人が遠征から帰るのよ。

 萬戸擣を北も南もと言い換える。
 梨水は『校本芭蕉全集 第四巻』の宮本注には「羽黒住の俳人」とある。
 水無月四日は、ここまでで終わり、近藤左吉の宅に戻る。

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