2020年7月14日火曜日

 旅といっても時代によっていろいろなものがある。
 和歌や連歌の羇旅は配流などによるものか、天皇の御幸で、西行の旅は勧進だったと言われている。
 中世の連歌師になると、全国に散らばる連歌の愛好者のために興行をして回る、今でいうとコンサートツアーに近い旅の形態が生まれた。談林の祖の宗因まではそのような旅もあった。
 芭蕉の旅の場合は興行もおこなうが経済的な理由というよりは、むしろ歌枕や物語の舞台などを訪ねる、今でいう聖地巡礼に近いものとなった。
 江戸時代の庶民の旅は信仰に結びついたもので、お伊勢参りや富士講、三峯講といったものだった。
 近代になり鉄道が整備されると初詣が流行し、また欧米の影響から風光明媚な地を巡る物見遊山の旅も増えてきた。
 戦後になると大量生産大量消費時代を反映し、団体でも個人でも盛んに観光旅行をするようになった。
 今回のコロナの蔓延は、こうした流れを変えるような新しい旅の形態を生むのだろうか。まだコロナ後の世界は見えてこない。
 それでは「早苗舟」の巻の続き。

 六十九句目。

   入来る人に味噌豆を出す
 すぢかひに木綿袷の龍田川    野坡

 「袷」はコトバンクの「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」に、

 「裏をつけて仕立てたきもののこと。表と裏との布地の間に空気層をつくって保温効果を高めた。着用時期は単 (ひとえ) と綿入れの中間期。昭和初頭以来一般に綿入れを着用しなくなったが,江戸時代はきものには着る時節の定めがあり,袷は4月1日のころもがえから5月5日の端午の節供前日まで,それ以後は単となり,9月1日から9日の重陽の節供前日まで再び袷を着た。」

とある。合服に近いかもしれないが期間は合服より短い。夏の季語になる。
 龍田川はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「[1]
  [一] 奈良県北西部、生駒山地の東側を南流し、斑鳩(いかるが)町で大和川に合流する川。上流を生駒川、中流を平群(へぐり)川ともいう。紅葉の名所。
  ※古今(905‐914)秋下・二八三「龍田河紅葉乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ〈よみ人しらず〉」
  [二] 奈良県北西部、大和川の龍田川との合流点から下流、大和国(奈良県)と河内国(大阪府)との境にかけての古称。歌枕。
  [2]
  ① ((一)(一)挙例の「古今‐秋下」の歌から) 模様の名。流水に紅葉(もみじ)の葉を散らしたもの。
  ※浮世草子・好色一代男(1682)一「西の方の中程、ちいさき釣隔子(つりがうし)、唐紙の竜田川(タツタカハ)も、紅葉ちりぢりにやぶれて」
  ② (「古今‐秋下」の「ちはやぶる神世もきかずたつたがはから紅に水くくるとは〈在原業平〉」から) 紅い血が川のように流れること。
  ※雑俳・あづまからげ(1755)「咎あれば畳の上も龍田川」

とあり、この場合は[2]①であろう。 龍田川模様の木綿袷は初夏に着るものというよりは重陽の前に着る秋の袷のようだが、季語の扱いとしてはどうなのだろうか。前句の味噌豆も秋に採れる。実質秋だが、形式的には夏ということか。
 七十句目。

   すぢかひに木綿袷の龍田川
 御茶屋のみゆる宿の取つき    利牛

 「宿の取つき」は宿場の始まるあたりということか。前句の「すぢかひに」は「御茶屋」に掛かる。
 「御茶屋」は宿場の本陣のこと。大名や旗本、幕府役人、勅使、宮、門跡などの宿泊所あるいは休息所。
 七十一句目。

   御茶屋のみゆる宿の取つき
 ほやほやとどんどほこらす雲ちぎれ 孤屋

 「どんどほこらす」は中村注に爆竹を盛んに燃やすこととある。「ほやほや」は炎や湯気の立ち上るさまを言い、それが雲のようにちぎれてゆく。
 爆竹はウィキペディアに、

 「日本でも古くから小正月や節分の催事として「爆竹」と呼ばれるものがあったようで、鎌倉時代の1251年(建長3年)1月16日、後嵯峨上皇が爆竹を見たという記事がみえている(『辨内侍日記』)。ただしこれは青竹を燃やし音を立てるもので、火薬を用いたものではない。この催事は現在でもドンド焼きや左義長と呼ばれて各地に伝承されている。」

 この場合もどんど焼きの風景であろう。春になる。
 七十二句目。

   ほやほやとどんどほこらす雲ちぎれ
 水菜に鯨まじる惣汁       野坡

 「惣汁(そうじる)」はweblio辞書の「季語・季題辞典」に、

 「昔、京の町々にあった、町屋または町会所と呼ぶ会所で町人の常会が毎月一回開かれたこと
  季節 新年」

とある。そこでは京野菜の水菜に混じって鯨も並んでいる。

 煤掃之礼用於鯨之脯     其角
 (すすはきのれいにくじらのほじしをもちふ)

という『次韻』の句があるように、これは去年の年末の干し鯨が混ざっているという意味だろう。

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