2020年7月10日金曜日

 新宿シアターモリエールの舞台からクラスターが発生した。ようやくの再開ということで感染防止の十分な対策はしていたのだろう。ただ、舞台もライブハウス同様、閉鎖的な空間だからエアロゾルは場内に漂い、熱演する俳優や興奮した客は呼吸数も増加するためエアロゾルを吸い込みやすく、なかなか難しいものだ。
 別に誰も芸能関係者を目の敵にして自粛を要請してきたわけではない。ただ、室内での舞台芸術がクラスターを生みやすいのはどうしようもない。これからも舞台芸術は試練に立たされるのだろうな。見に行く方も覚悟がいる。
 ショーパブも似ている。天文館の「NEWおだまLee男爵」も梨泰院のショーも、きっと行けば楽しいんだろうな。
 それでは「早苗舟」の巻の続き。

 四十七句目。

   むく起にして参る観音
 燃しさる薪を尻手に指くべて   野坡

 「燃しさる」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘自ラ四〙 薪の、かまどの外にはみ出した部分にまで、炎が燃え移る。炭や薪以外のものに火が移る。また、もえさしになる。燃え残る。燃えすさる。
  ※浮世草子・日本永代蔵(1688)六「大釜の下より大束の葭もへしさりしに」

とある。
 「薪を尻手に」は「串に鯨をあぶる」と同じで今日だと「に」は「で」になる。はみ出した薪に背を向けた状態で後ろに指を伸ばし、薪の位置を戻す。
 観音堂にお籠りする時、お参りするところの後ろで寒さを防ぐために焚き火をし、その周りで休息したりしたのだろう。背中が熱いと思ったら、焚き火がはみ出していたので、後手でそっと戻す。
 四十八句目。

   燃しさる薪を尻手に指くべて
 十四五両のふりまはしする    孤屋

 「ふりまわし」はやり繰りする事。十四五両は今だと百万円くらいの価値はあるので、そこそこまとまった金だが、商売で動く金としてはそれほどではないかもしれない。商家の囲炉裏端とする。
 四十九句目。

   十四五両のふりまはしする
 月花にかきあげ城の跡ばかり   利牛

 月花の眺めの良い場所なのに、昔の土をかき上げただけの城跡の土塁があるばかり。十四五両あれば小さな草庵のひとつでも建てられるか。
 五十句目。

   月花にかきあげ城の跡ばかり
 弦打颪海雲とる桶        孤屋

 弦打(つるうち)は魔物を祓うために弓の弦をぶんぶん鳴らすことをいい、弦打颪(つるうちおろし)は風に蔓が音を立てるような山から吹き降ろす風ということか。
 城跡だから、落ち武者の亡霊でも出てきそうだ。それを祓うかのような風の音がする。
 海雲(もずく)は春の季語になる。曲亭馬琴編の『増補 俳諧歳時記栞草』には、「是をとらんとするに滑りて得がたし。鮑空貝を用てこれをとる。阿州鳴戸、泉州岸和田、及び対州の産、肥太く佳とす。薑醋(しょうがず)に和してこれを食ふ」とある。

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