2020年11月12日木曜日

  「十三夜」の巻の続き。

 二裏。
 三十一句目。

   枝もぐ菊の括りちひさき
 露霜に土こそげたる沓のうち   濁子

 沓は王朝時代の連想を誘い、それこそ、

 心あてに折らばや折らむ初霜の
     おきまどはせる白菊の花
              凡河内躬恒(古今集)

であろう。初霜の白菊を折ったら沓に泥がつくから、それをこそげ落とす。
 三十二句目。

   露霜に土こそげたる沓のうち
 くぐり細目に明る肴屋      曾良

 肴はウィキペディアによると、

 「語源は「酒菜」から。元々、副食を「な」といい、「菜」「魚」「肴」の字を当てていた。すなわち、酒のための「な(おかず)」という意味である。したがって、「さかな」という音からは魚介類が想像されるかもしれないが、酒席で食される食品であれば、すなわち、肴となる。室町時代頃までは、こうした魚肉に限らない用法が一般的だった。
 なお、魚類のことを「さかな」と呼ぶのは、肴から転じた言葉であり、酒の肴には魚介類料理が多く使用されたためである。古くは「うを」(後に「うお」)と呼んでいたが、江戸時代頃から「さかな」と呼ぶようになった。」

とのことで、酒の「さかな」の方が先で、後に魚のことを「さかな」と呼ぶようになったのだという。
 くぐり戸は門や大きな扉のある所に勝手口として補助的に設けられた小さな戸で、これは肴屋の扉ではなく、肴を届ける立派な屋敷の情景であろう。靴の泥を落としてから恐る恐る中へ入る。
 三十三句目。

   くぐり細目に明る肴屋
 初産はおもひの外に安かりて   岱水

 初産は大変だとよく言うが、思いのほかに楽で、すぐにお祝いの宴が始まる。とはいえ肴屋は気を使ってそっと中に入る。
 三十四句目。

   初産はおもひの外に安かりて
 借りし屏風を返す夕暮      杉風

 出産する場所を仕切るために借りた屏風をその日の内に返す。
 三十五句目。

   借りし屏風を返す夕暮
 華に又はなをかざりし弓空穂   凉葉

 「空穂・靫(うつぼ)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「① 矢の容器。雨湿炎乾に備えて矢全体を納める細長い筒で、下方表面に矢を出入させる窓を設け、間塞(まふたぎ)と呼ぶふたをつける。竹製、漆塗りを普通とするが、上に毛皮や鳥毛、布帛(ふはく)の類をはったものもあり、また、近世は大名行列の威儀を示すのに用いられ、張抜(はりぬき)で黒漆塗りの装飾的なものとなった。江戸時代には紙の張抜(はりぬき)の黒漆塗りに金紋を据え、飾調度(かざりちょうど)とした。うつお。」

とある。
 大名クラスに見せかけた成金商人の花見だったのではないか。どこかから借りてきた立派な屏風に、きらびやかな弓や空穂までこれでもかと並べ、「華に又はなをかざりし」は「屋上屋を重ねる」ようなものだ。
 挙句。

   華に又はなをかざりし弓空穂
 はや鎌倉の道の若草       史邦

 昔の鎌倉の繁栄であろう。鎌倉時代の武士は刀より弓矢が中心だった。

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