今日も雨。明日は台風が来るのか。
「安々と」の巻の続き。
脇。
安々と出でていさよふ月の雲
舟をならべて置わたす露 成秀
発句が月の出てきた時の様子をそのまま述べただけの句で、特に寓意もないので、脇の方もここにみんな舟で来て集まってきた様を「舟をならべて」とし、月に輝く露を添える。
竹内茂兵衛成秀についてはよくわからない。ただ成秀亭の庭には松の木があって、芭蕉がそれを賛美した『成秀庭上を誉むること葉』という文章が残っている。
「松あり、高さ九尺ばかり、下枝さし出るもの一丈余、枝上段を重、其葉森々とこまやかなり。風琴をあやどり、雨をよび波をおこす、箏に似、笛に似、鼓ににて、波天籟をとく。当時牡丹を愛する人、奇出を集めて他にほこり、菊を作れる人は、小輪を笑て人にあらそふ。柿木・柑類は其実をみて枝葉のかたちをいはず。唯松独霜後に秀、四時常盤にしてしかもそのけしきをわかつ。楽天曰『松能旧気を吐、故に千歳を経』と。主人目をよろこばしめ心を慰するのみにあらず、長生保養の気を知て、齢をまつに契るなるべし。
元禄四年舟をならべて仲秋日 ばせを」
高さ九尺(約2.7メートル)で下枝が一丈(約3メートル)だから、それほど高い木ではなく、枝が横に長く張った、いわゆる笠松ではないかと思う。松風の音は琴や笛や鼓のように天然の音楽を奏でる。『和漢朗詠集』に、
露滴蘭叢寒玉白 風銜松葉雅琴清
つゆはらんそうにしたたりてかんぎよくしろし、
かぜしようえふをふくみてがきんすめり、
とある。
牡丹の愛好家は奇抜な花を咲かせては他人に誇り、菊の育種家は大輪の花を競って小輪を笑う。柿や蜜柑を植える人は実が大事で枝葉をとやかく言うことはない。松だけが幾年もの霜に耐えて、一年中青々としている。
芭蕉は松を好む成秀に、人と競うこともなく、ただ一人悠々と生きる人柄を感じたのだろう。
第三。
舟をならべて置わたす露
ひらめきて咲もそろはぬ萩のはに 路通
風にひらひらとして咲いてもじっとしていない萩の葉には露も散ってしまうが、並べた船は動かないから露が降りている。
四句目。
ひらめきて咲もそろはぬ萩のはに
鍋こそげたる音のせはしき 丈草
「鍋こそげたる」は鍋に付着した焦げや錆びをこすって落とすことで、宮城野の萩に仙台藩の鋳物の縁で付けたか。咲きそろわぬ萩に焦げた鍋は響き付けであろう。
露に萩というベタな路通の付け筋に、猿蓑調の最新の付け筋を披露するのだが、ややわかりにくい。
五句目。
鍋こそげたる音のせはしき
とろとろと睡れば直る駕籠の酔 惟然
駕籠も揺れるから乗り物酔いになったのだろう。駕籠を降りてうとうとしていると酔いも収まり、どこかの宿なのだろう、鍋を洗う音がせわしく聞こえる。
六句目。
とろとろと睡れば直る駕籠の酔
城とりまはす夕立の影 狢睡
「とりまはす」はコトバンクの「大辞林 第三版の解説」に、
「①仕事・人などをほどよく取り扱う。うまく処理する。 「店の仕事を一人で-・す」
②一部を取って次へ回す。 「料理を盛った大皿を-・す」
③ぐるりと囲む。とりまく。 「東一方をば敵未だ-・し候はねば/太平記 9」
とある。この場合は③の意味か。
駕籠で酔ったのはお城の身分の高い武士だったのだろう。目を覚ませば城の周りは敵の軍勢ではないが、夕立をもたらす黒い雲に取り囲まれている。
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