今日も雨。十五夜が見えたのはやはり運がよかったか。
「一泊り」の巻の続き。
十五句目。
地獄絵をかく様のあはれさ
きぬぎぬのしり目に鐘を恨らん 木因
前句の「地獄絵をかく」を比喩ということにして、別れ際の男女の修羅場とする。鐘が鳴ったのをこれ幸いに男は逃げ去ったか。
十六句目。
きぬぎぬのしり目に鐘を恨らん
賤が垣ねになやむおもかげ 残夜
身分の低い田舎の女のところに通った時のきぬぎぬか。身分違いの恋に悩む女のことを思う。
十七句目。
賤が垣ねになやむおもかげ
豆腐ひく音さへきかぬ里の花 白之
「豆腐ひく音」は豆腐の原料となる大豆を石臼で挽く時の音。
日本豆腐協会のサイトによると、
「三代将軍・家光のときに出された「慶安御触書」には豆腐はぜいたく品として、農民に製造することをハッキリと禁じています。 その家光の朝食には、豆腐の淡汁、さわさわ豆腐、いり豆腐、昼の膳にも擬似豆腐(豆腐をいったんくずして加工したもの)などが出されていたのが、資料からもうかがえます。
この豆腐がようやく庶民の食卓に普段の日でものぼるようになったのは、江戸時代の中ごろから。それも江戸や京都、大阪などの大都市に限られていたのが実情でした。」
だという。
芭蕉の時代でも豆腐は都市部のもので、田舎に行くと豆腐を挽く音は聞こえなかったのだろう。
田舎に来て、せっかく桜が咲いたのに豆腐田楽が食えなくて悩んでいたのか。
十八句目。
豆腐ひく音さへきかぬ里の花
鳥の巣もりと住あらす庵 芭蕉
巣もり(巣守/毈)はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、
「1 孵化(ふか)しないで巣の中に残っている卵。すもりご。
「―になりはじむるかりのこ、御覧ぜよとて奉れば」〈宇津保・藤原の君〉
2 あとに取り残されること。また、その人。るすばん。
「ただ一人島の―となり果てて」〈盛衰記・一〇〉
3 夫の不在の間、妻が留守を守っていること。
「二年といふもの―にして」〈浄・天の網島〉
とある。
鳥の巣に取り残された卵のように、片田舎の庵に一人取り残されているが、そこには花が咲いている。
もろともにあはれと思へ山ざくら
花よりほかに知る人もなし
僧正行尊
の心か。
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