『俳諧問答』の続き。
「来書曰、慥ニ眼を破て見るに、近年諸集のうちめだつ句あれば、大方晋子也。
三、去来曰、阿兄の言感信せず。いづれの書にか角が好句多しとするや。予近年俳書ニうとし。たまたま見る処の書、角が句十にして、賞すべき物一・二、笑べき物一・二、その余は世間平々の句也。浪化集に角が撰集たる句を並べ書す。そのうち、阿兄の句のほか、独角が句のみすぐれり。其余ハ我いまだ此を見ず。」(『俳諧問答』横澤三郎校注、一九五四、岩波文庫 p.42)
この「たまたま見る処の書」が何なのかはわからない。あるいは許六・李由撰の『韻塞』(元禄九年刊)か。この撰集で「賞すべき物一・二、笑べき物一・二、その余は世間平々の句也」だとしたら、それは選者許六の責任だというあてつけになる。
賞すべき物というと、やはり、
饅頭で人を尋ねよ山ざくら 其角
月影やここ住吉の佃島 同
あたりか。
『浪化集』は『有磯海』と『となみ山』の二冊からなり、『有磯海』は発句中心で、『となみ山』は連句が中心となる。この集は芭蕉の存命中から企画されていたもので、元禄七年五月十四日の芭蕉宛去来書簡に、「此度浪化集に拝領仕度候」とある。『浪化集』はその翌年元禄八年に刊行された。
浪化編ではあるが、去来も編纂に関わっているため、ここには其角のすぐれた句しかないと言いたいのだろう。
その『浪化集』には、
奈良の旅二句 木辻より返りて
門立のたもとくはゆる小鹿かな 其角 「有磯海」
なが月の末大井川をわたりて
いつしかに稲を干瀬や大井川 其角「有磯海」
河豚洗ふ水のにごりや下川原 其角「有磯海」
東叡山
八ツ過の山のさくらや一しつみ 其角「有磯海」
八雲立つ此嶮漠を雲の峰 其角「有磯海」
千鳥なく鴨川こえて鉢たゝき 其角「となみ山」
こがらしや沖よりさむき山のきれ 其角「となみ山」
といった句が収められている。「こがらしや」の句は『炭俵』に既に発表されているが、それを発句とした表六句が収められている。
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