コロナの方は今のところ新規感染者は減る方向で、第三波の気配はない。今のレベルの自粛で感染が収束するなら、とにかくこのまま行ってほしい。
政府の無策というよりは、日本にはそもそもこうした非常時に私権を制限する法律がなく、いろいろな国で行われたようなロックダウンはできない。そのため国民が自発的に自らの行動を制限しなくてはならない。
公助が不十分なら、自助で補わなくてはならない。
アメリカの銃社会もきっとそういうものなのだろう。凶悪犯罪の検挙率が低く、警察だけでは自分を守ることができないという不安が、銃を手放せない理由なのかもしれない。
警察が信用できないから自衛のために銃を持ち、その銃を持っていることで警察に撃たれる。ますます警察は信用できないという悪循環になる。
アメリカの映画だと黒人のかっこいい警官が活躍してたりするが、現実は違うんだろうな。
日本には穢多非人と呼ばれる人がいて、江戸時代後期には通婚を禁じるなど人種隔離政策が取られていた。ただ、彼らは警官から不当な暴力を受けることはなかった。なぜなら彼らが警官だったからだ。
いっそのことアメリカの警官を全部黒人にすれば治安は良くなるのではないか。
それでは「ぬれて行や」の巻の続き。
初裏。
九句目。
下戸にもたせておもき酒樽
むらさめの古き錣もちぎれたり 李邑
錣(しころ)はコトバンクの「大辞林 第三版の解説」に、
「①兜かぶと・頭巾ずきんの左右・後方に下げて首筋をおおう部分。 → 兜
② 「錏庇しころびさし」に同じ。」
とある。今だと消防士のヘルメットの横についているものを想像すればいいだろう。
雨を防ぐ役割もあるので、村雨が降っているというのに錣が古くなって千切れて役に立たない、という意味だろう。
落ち武者か、それとも熊坂のような盗賊か、特に誰ということもないので俤とは言えないだろう。落ちぶれても酒樽は手放さないが、それを持たされる人はたまったものではない。
十句目。
むらさめの古き錣もちぎれたり
道の地蔵に枕からばや 視三
落ちぶれた雰囲気から、道端の小さな地蔵堂で夜を明かす。「しほらしき」の巻の十句目、
鳥居立松よりおくに火は遠く
乞食おこして物くはせける 曾良
を思い出す。
十一句目。
道の地蔵に枕からばや
入相の鴉の声も啼まじり 夕市
夕市は「しほらしき」の巻にも参加している。
枕を借りる頃というので、夕暮れの入相の鐘とねぐらに帰るカラスの声を付ける。
十二句目。
入相の鴉の声も啼まじり
歌をすすむる牢輿の船 芭蕉
「牢輿(ろうごし)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 囚人を護送するために用いる輿。
※金刀比羅本保元(1220頃か)下「さしもきびしく打付たる籠輿(ロウゴシ)の」
とある。牢輿の船は護送船だろう。処刑の時も近く、辞世を勧める。
船ではないが、『懐風藻』の大津皇子に仮託された、
金烏臨西舎 鼓声催短命
泉路無賓主 此夕誰家向
黄金烏が棲むという太陽も西にある住まいへ沈もうとし、
日没を告げる太鼓の声が短い命をせきたてる。
黄泉の国への旅路は主人もいなければお客さんもいない。
この夕暮れは一体誰が家に向かっているのだろう。
の詩も思い浮かぶ。(この詩については以前『野ざらし紀行─異界への旅』の「十四、僧朝顔」でも触れているのでよろしく。)
十三句目。
歌をすすむる牢輿の船
肌の衣女のかほりとまりける 志格
「牢輿の船」を売られてゆく遊女の舟としたか。遊女も歌をたしなむ。
十四句目。
肌の衣女のかほりとまりける
ふみ盗まれて我うつつなき コ蟾
脱いだ服から女の匂いがするというので、女房が気付いて何か浮気の証拠がないかと探したのだろう。手紙が見つかってしまっては万事休す。生きた心地もしない。
十五句目。
ふみ盗まれて我うつつなき
より懸る木よりふり出す蝉の声 北枝
「うつつなき」から「空蝉」の連想であろう。
呆然として木に寄りかかれば蝉の声が雨のように降り出し、それにつられて蝉の脱げからのような我もまた泣く。
ちなみに蝉時雨という言葉があるが、2018年7月8日の俳話で触れたことだが、越人撰の『庭竈集』(享保十三年刊)の、
川音・松風の時雨は涼しきに
冬の名の時雨に似ぬか蝉の声 簔笠
時雨といへば雨の字あれども
蝉の声時雨るる松に露もなし 飛泉
時雨だけいよいよ暑し蝉の声 嘉吟
あたりが最初か。
十六句目。
より懸る木よりふり出す蝉の声
雷あがる塔のふすぼり 曾良
「ふすぼる」はweblio古語辞典の「学研全訳古語辞典」に、
「①くすぶる。けぶる。
出典反魂香 浄瑠・近松
「お寝間(ねま)の内は抹香でふすぼりますと言ひければ」
[訳] ご寝室の中はお香でくすぶりますと言ったところ。
②すすける。黒ずむ。
出典平家物語 三・頼豪
「もってのほかにふすぼったる持仏堂にたてごもって」
[訳] (護摩をたく煙で)予想外にすすけている持仏堂にたてこもって。◇「ふすぼっ」は促音便。」
とある。雷が落ちたのだろうか。
夕立の後、再びセミが鳴きだす。
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