急に黒い雲が出てきてざーっと降ったかと思うとすぐに止んだ。そのあとの秋の夕暮れがきれいだった。
秋の夕暮れは街や車の明かりもどこか暖かい感じがする。これが冬だともっと尖った光になる。
それでは「あなむざんやな」の巻の続き。
四句目。
渡し守綱よる丘の月かげに
しばし住べき屋しき見立る 芭蕉
「見立てる」には見定めるという意味となぞらえるという意味があり、俳諧でよく使うのは後者だが、ここでは前者になる。『源氏物語』の須磨巻で、源氏の君が須磨に到着した時のことをイメージしているのだろう。
五句目。
しばし住べき屋しき見立る
酒肴片手に雪の傘さして 亨子
これは雪の傘を屋敷に見立てた風流になる。
市人よ此笠うらふ雪の傘 芭蕉
の句を思わせる。
六句目。
酒肴片手に雪の傘さして
ひそかにひらく大年の梅 皷蟾
これは普通に雪の日に傘さして、ひっそりと一輪開いた完売を肴に酒を飲む。
梅一輪いちりんほどの暖かさ 嵐雪
の句は嵐雪一周忌追善集『遠のく』に収められていたもので、もう少し後のものだろう。
初裏。
七句目。
ひそかにひらく大年の梅
遣水や二日ながるる煤のいろ 芭蕉
「遣水に二日ながるる煤のいろはひそかにひらく大年の梅や」の倒置。
遣水は庭園に流れる外から引き入れた水で、正月二日には去年の暮れに咲いた梅の花が散って塵となって流れてくる。
八句目。
遣水や二日ながるる煤のいろ
音問る油隣はづかし 亨子
「音問る」は「おとづる」。「油」は油売りのこと。
遣水に煤が流れているところから、煤の出る安物の油を使っていることがばれてしまって恥ずかしい。
九句目。
音問る油隣はづかし
初恋に文書すべもたどたどし 皷蟾
この時代にすでに「初恋」という言葉はあったようだ。手紙など書いていることを隣に来ている油売りにでも知られたら、そこら中に言いふらされそうだ。
十句目。
初恋に文書すべもたどたどし
世につかはれて僧のなまめく 芭蕉
初恋にたどたどしい手紙を書いたら、手紙を届ける役の僧の方がときめいてしまったか。
十一句目。
世につかはれて僧のなまめく
提灯を湯女にあづけるむつましさ 亨子
関西の方の風呂屋は湯女という垢かき女がいて、売春も行われていたという。僧もひそかに通っていたのだろう。戦後のある国の名前の付いた風呂屋が思い浮かぶが。
十二句目。
提灯を湯女にあづけるむつましさ
玉子貰ふて戻る山もと 皷蟾
温泉玉子だろうか。
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