2020年9月4日金曜日

 「しほらしき」の巻の続き。

 三十五句目。

   聲さまざまのほどのせはしき
 大かたは持たるかねにつかはるる 芭蕉

 町は活気に溢れているが、その大半は賃金労働者だ。金を持っている奴に使われている。
 宮本注は「なまじっか金を持っているばかりに、かえって人間が金のために使われて忙しい思をしている」としているが、当時の大方の人はそのなまじっかの金を持っていない。裕福な現代社会の発想だと思う。
 三十六句目。

   大かたは持たるかねにつかはるる
 菴より見ゆる町の白壁     致益

 草庵に暮らす人は金で使われているわけではない。高みの見物といったところか。庵は山の上にあって街を見下ろすところにあったりする。
 二裏。
 三十七句目。

   菴より見ゆる町の白壁
 風送る太鼓きこへて涼しやな  芭蕉

 遠くの雷の音だろうか。
 三十八句目。

   風送る太鼓きこへて涼しやな
 若衆ともいふ女ともいふ    斧卜

 遊郭の太鼓女郎だろうか。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 江戸前期の上方遊郭で、三味線・琴・胡弓などをひいたり舞を舞ったりして、宴席の取り持ちをした女郎。位は囲(かこい)職で、揚代は九匁。
  ※俳諧・西鶴五百韻(1679)早何「かこゐをたつる木の丸の関〈西鶴〉 たいこ女郎名をなのるまで候はず〈西花〉」

とある。
 女に限らず若衆が務めることもあったのだろう。
 三十九句目。

   若衆ともいふ女ともいふ
 古き文筆のたてども愛らしき  夕市

 昔の恋文なので書いた人が女か若衆かはわからない。
 四十句目。

   古き文筆のたてども愛らしき
 なげの情に罰やあたらん    皷蟾

 「なげ」は接尾語だが、ここでは「それっぽく装った」ということか。ハニートラップは昔からあったのだろう。でも法的には立証が難しく、せめて天罰でもあたってくれということか。

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