「しほらしき」の巻の続き。
三十五句目。
聲さまざまのほどのせはしき
大かたは持たるかねにつかはるる 芭蕉
町は活気に溢れているが、その大半は賃金労働者だ。金を持っている奴に使われている。
宮本注は「なまじっか金を持っているばかりに、かえって人間が金のために使われて忙しい思をしている」としているが、当時の大方の人はそのなまじっかの金を持っていない。裕福な現代社会の発想だと思う。
三十六句目。
大かたは持たるかねにつかはるる
菴より見ゆる町の白壁 致益
草庵に暮らす人は金で使われているわけではない。高みの見物といったところか。庵は山の上にあって街を見下ろすところにあったりする。
二裏。
三十七句目。
菴より見ゆる町の白壁
風送る太鼓きこへて涼しやな 芭蕉
遠くの雷の音だろうか。
三十八句目。
風送る太鼓きこへて涼しやな
若衆ともいふ女ともいふ 斧卜
遊郭の太鼓女郎だろうか。コトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 江戸前期の上方遊郭で、三味線・琴・胡弓などをひいたり舞を舞ったりして、宴席の取り持ちをした女郎。位は囲(かこい)職で、揚代は九匁。
※俳諧・西鶴五百韻(1679)早何「かこゐをたつる木の丸の関〈西鶴〉 たいこ女郎名をなのるまで候はず〈西花〉」
とある。
女に限らず若衆が務めることもあったのだろう。
三十九句目。
若衆ともいふ女ともいふ
古き文筆のたてども愛らしき 夕市
昔の恋文なので書いた人が女か若衆かはわからない。
四十句目。
古き文筆のたてども愛らしき
なげの情に罰やあたらん 皷蟾
「なげ」は接尾語だが、ここでは「それっぽく装った」ということか。ハニートラップは昔からあったのだろう。でも法的には立証が難しく、せめて天罰でもあたってくれということか。
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