自分の足で歩いて周りの景色が変わってゆくのも旅なら、汽車に乗って、自分は座っていて周りの景色が動いても旅になる。
なら、家に籠っていても世界の方が急速に変化してゆくならそれも旅なのではないか。どこにいても、今の世界は旅だ。
それでは「凉しさや」の巻の続き。
四句目。
黒がもの飛行庵の窓明て
麓は雨にならん雲きれ 定連
定連は長崎一左衛門と曾良の『俳諧書留』にある。どういう人かは知らない。
「雲きれ」は雲の切れ間、あるいは千切れ雲のこと。
ちぎれ雲はウィキペディアに「厚い雲の下を流れる断片雲のこと」とあり、
「この雲は、空の雲が高層雲から乱層雲に替わり、やがて雨や雪が降り出す過程において、実際に雨や雪を降らせる雲の塊がやってくる直前に、その塊の断片として現れる雲である。」
とある。千切れ雲は雨の前兆でもある。黒鴨も雨を察知して飛び立ったか。
五句目。
麓は雨にならん雲きれ
かばとぢの折敷作りて市を待 曾良
「折敷(おしき)」はコトバンクの「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」には、
「食器を載せる食台の一種で,四角でその周囲に低い縁をつけたもの,すなわち方盆のこと。その名は,上古に木の葉を折敷いて杯盤にしていたことが残ったものであるといわれる。高坏 (たかつき) や衝重 (ついがさね) よりは一段低い略式の食台として平人の食事に供されたもので,8寸 (約 24cm) 四方のものを「大角」または「八寸」,5寸 (約 15cm) 四方のものを「中角」,3寸 (約 9cm) 四方のものを「小角 (こかく) 」といい,角 (かど) を切らないものを「平折敷」,四隅の角を切ったものを「角 (かく) の折敷」あるいは「角」と呼び,ほかに足がつけられた「高折敷」「足付折敷」などの種類もみられた。普通の膳をおしきと呼ぶ例は中部・九州地方に残る。」
とある。盆の淵の所を曲輪で作るときはその曲げたものを山桜の皮で綴じる。これを樺綴じという。
秋田大舘の大舘曲げわっぱは有名で、秋田杉を樺綴じにした曲げ物は下級武士の内職として奨励された。
六句目。
かばとぢの折敷作りて市を待
影に任する宵の油火 任曉
内職をするときは宵から油に火を灯す。
任曉は曾良の『俳諧書留』に「かがや藤衛門」とある。
七句目。
影に任する宵の油火
不機嫌の心に重き恋衣 扇風
「恋衣」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「① (常に心から離れない恋を、常に身を離れない衣に見立てた語) 恋。
※万葉(8C後)一二・三〇八八「恋衣(こひごろも)着奈良の山に鳴く鳥の間なく時なし吾が恋ふらくは」
② 恋する人の衣服。
※風雅(1346‐49頃)恋二・一〇六五「妹待つと山のしづくに立ちぬれてそぼちにけらし我がこひ衣〈土御門院〉」
とある。
この場合は具体的な衣類の描写がないから①と考えていいだろう。次の句では②に取り成す展開もありそうだが、残念ながらここで終わっている。
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