今日から秋。空には筋雲があり、赤とんぼが飛び、ツクツクホウシの声がする。
種名としてはツクツクボウシなのだろう。図鑑だと「ボ」になっている。ただ鳴き声は「ほーしーつくつく」としか聞こえないし、それに法師を掛けた名前だったと思う。
コトバンクではツクツクホウシでも出てくる。「世界大百科事典 第2版の解説」には、
「翅目セミ科の昆虫(イラスト)。ツクツクボウシともいう。…以下略…」
とある。
それでは「富貴艸」の巻、挙句まで。
十三句目。
二度めの婚とや婚とやとせず
醫師ながら少占方も心得て 等盛
「少占方」は「ややうらかた」と読む。
江戸時代前期から中期までは離婚率も高く、再婚も珍しくなかったようだ。
醫師も今日のような国家資格などないから、誰でも開業でき、後は腕次第というか実績を積み重ねるしかないといったところだろう。漢籍に通じているから、易経とか読んでいてもおかしくはないし、占い師も資格があるわけではないから、医者と易者と両方兼ねていてもおかしくない。
前句の「婚とや婚とやとせず」多分占いの結果なのだろうけど、よくわからない。「二度目の婚とや坤とやとせず」か。
十四句目。
醫師ながら少占方も心得て
通事居ぬ間に絹地さし出ス 等般
「通事」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、
「1 通訳。特に、江戸時代、外国貿易のために平戸・長崎に置かれた通訳兼商務官。唐通事・オランダ通詞があった。通弁。
2 民事訴訟で、言葉の通じない陳述人のために通訳を行う者。刑事訴訟では通訳人という。
3 間に立って取り次ぐこと。また、その人。
「お手が鳴らば猫までに―させよ」〈浮・男色大鑑・八〉」
とある。漢文に精通している医者なら、唐通事のいない間にこっそりと絹織物の取引をするということもあったか。
十五句目。
通事居ぬ間に絹地さし出ス
月雪の箱ねを越て一休 助叟
この場合の通事は単なる取次のこととして、無視してかまわないということか。
箱根越えも雪が降れば難儀するが、月に照らされた雪の箱根の美しさはまたひとしおであろう。絵師であればぜひとも絵に描いてほしいし、俳諧師であれば一句揮毫を願いたいものだ。マネージャーを兼ねた御伴の者がいない間に、絹地を差し出して一筆願う。
十六句目。
月雪の箱ねを越て一休
やつと提たる鴻の羽箒 桃隣
「羽箒(はぼうき)」は茶道具で、埃や煤を掃うために用いる羽で、鴻の羽が用いられることもある。
一休みで茶をたてようというところか。
十七句目。
やつと提たる鴻の羽箒
人斗ル升や有覧花の席 桃秀
花の下での宴会といえば升酒だが、それに興味を示さない人は茶人だろう。
挙句。
人斗ル升や有覧花の席
色も分ン也飯蛸の飯 等盛
升酒を配る花の席の主催者を見れば、気前のいい太っ腹な人柄も分かるし、飯蛸の釜めしが出てくれば趣味の良さも分かる。蛸は八本足で末広がり、縁起良くこの一巻は締めくくられる。
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