また台風が来るようだし、なかなか梅雨は明けない。
それでは『俳諧問答』の続き。
「されば愚集ニ、
外郎買に荷ハ先へやる
と云句せし、退て見るに、不玉が継尾集のはいかいに、
荷ハ先へやる堂の近道
と云句あり。是等類也。
随分吟味を逐るといへ共、眼届かずして後悔也。
『荷ハ先へやる』と云七字にて、下ハ如何やうニも産出さるる也。もと此一句の魂ハ、『荷ハ先へやる』と云事也。」(『俳諧問答』横澤三郎校注、一九五四、岩波文庫p.140)
「外郎(ういろう)買に」の句は李由・許六編『韻塞』の、
亡師三回忌 報恩
月雪に淋しがられし紙子哉 許六
を発句とする巻の十二句目で、
人宿の後はやがて城の塀
外郎買に荷は先へやる 許六
の句だ。
前句の「人宿(ひとやど)」はここでは単に旅籠(はたご)のことであろう。
外郎は「いと凉しき」の巻の六十五句目に、
伽羅の油に露ぞこぼるる
恋草の色は外郎気付にて 似春
の句がある。仁丹に似た薬で口臭消しや気付け薬に用いる。
外郎は小田原の名物で、前句を小田原宿としたのだろう。荷物は馬に乗せて先に箱根を越させて、自分は後から行くというのだが、参勤交代の武士の「あるある」だったか。
「荷ハ先へやる堂の近道」の句は不玉編の『継尾集(つぎおしゅう)』(元禄五年刊)の句で、この集には「あつみ山や」の巻や「忘なよ」の巻も収録されている。乙州の句。明け方の風景に付けている。
この二句は「荷ハ先へやる」が重要で、後はどうとでも作れるとして等類だという。
「舟のたよりに荷ハ先へやる
ともいひ、又
でつちをのせて荷ハ先へやる
などとも、いくばくかいひかへあらんなれバ、是等類の罪のがれがたし。」(『俳諧問答』横澤三郎校注、一九五四、岩波文庫p.141)
この二句も同様で、「荷ハ先へやる」の方を多少言い換えなければ等類だという。
現代の著作権の考え方でも、アイデアには著作権はない。音楽ならメロディーの一致、文章なら語句の一致が著作権侵害になる。だから少し変えるというのは誰でもやっている。
アイデアの場合は、たとえば一つの事件の解決を野球の試合にたとえ、未解決の状態から一気に解決された結末にもって行き、その間何があったかを後で「七回の裏」と称して種明かしする。宮藤官九郎脚本・演出のドラマ『木更津キャッツアイ』がそれだが、これをサッカーに変えて何とかイレブンにしてもアイデアを盗む分には盗作にはならない。
前半にノーカットのドラマをもってきて、後半にそのメイキングシーンを面白く描いても、設定や内容が違えば構成のアイデア自体を真似ても盗作にはならない。
昔日本の映画で新幹線に一定の速度を割ると爆発する爆弾を仕掛けるという映画があったが、それをバスに変えてもアイデアだけなら盗作ではない。
アニメの進化も大体こういうもので、たとえば隔絶された田舎で起こる大災厄を食い止めるだとか、主人公が都会の少年で地元の巫女が重要な役割を果たすというところが一致していても、あくまでもアイデアを真似ただけなので「君の名は。」は「ひぐらしのなく頃に」の盗作にはならない。
同様にネットでたまたま表示された難問を解いたらゲームに巻き込まれ、最後は超飛躍(ウルトラ・ジャンプ)というところが似ていても、「サマーウォーズ」は「消閑の挑戦者」の盗作ではない。
むしろ過去の面白いパターンを上手く取り入れ、それに別の要素も加えながら、より面白い作品を作り上げてゆく所に、アニメは進化してゆく。アイデアの利用は抑制すべきではない。
ヒットした作品ほど、過去の作品の王道を行くアイデアを踏襲している。あまり独自性を出そうとするとかえってこける場合が多い。
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