2019年7月5日金曜日

 今年は冷夏になるという予報も出ている。梅雨明けも遅くなるのかな。
 それでは「温海山や」の巻の続き。

 十三句目。

   ちまたの神に申かねごと
 御供して当なき吾もしのぶらん 芭蕉

 これは『源氏物語』の惟光の立場にたった句か。源氏に付き合ってみすぼらしい狩衣を着させられたりしていた。巷の女に会いに行くのなら夕顔の俤か。
 十四句目。

   御供して当なき吾もしのぶらん
 此世のすゑをみよしのに入   不玉

 これは一転して西行の俤であろう。「見る」と「み吉野」を掛けている。
 十五句目。

   此世のすゑをみよしのに入
 あさ勤妻帯寺のかねの声    曾良

 コトバンクの「世界大百科事典内の妻帯の言及」には、

 「すでに平安中期のころ,清僧(せいそう)は少なく,女犯妻帯の僧が多くなった。すなわち,大寺院では組織の分化がすすみ,衆徒大衆(しゆとだいしゆう)と総称される堂衆(どうしゆう)や行人(ぎようにん)などの下級の僧侶集団が形成され,彼らは妻子を養い,武力をもち,ときには荘園の経営や物資の輸送や商行為まで営むようになり,寺院の周辺や山麓の里は彼らの集住する拠点となって繁栄した。」

とある。吉野の金峯山寺のような大きな寺院では、麓に妻帯した僧がたくさん住んでいたのであろう。鐘は世尊寺の三郎鐘だろうか。
 十六句目。

   あさ勤妻帯寺のかねの声
 けふも命と嶋の乞食      芭蕉

 これは佐渡に流された日蓮上人だろうか。だいぶ苦労なされたようだ。
 十七句目。

   けふも命と嶋の乞食
 憔たる花しちるなと茱萸折て  不玉

 「憔(かじけ)たる」の「かじける」は「悴ける・忰ける」という字も書く。コトバンクの「大辞林 第三版の解説」には、

 「①  寒さで凍えて、手足が自由に動かなくなる。かじかむ。
 「手ガ-・ケタ/ヘボン 三版」
 ②  生気を失う。しおれる。やつれる。
 「衣裳弊やれ垢つき、形色かお-・け/日本書紀 崇峻訓」

とある。この場合は②の意味で、「し」は強調の言葉。萎れた花よどうか散らないでくれ、と茱萸(グミ)を折る。この場合は苗代の季節に実るというナワシログミであろう。
 「花」は島流しの流刑人の比喩とも取れるが、花の咲くのを見ながら、

それに自分を重ね合わせて「散るな」という意味なら似せ物ではなく本物の花になる。
 十八句目。

   憔たる花しちるなと茱萸折て
 おぼろの鳩の寝所の月     曾良

 「鳩の寝所のおぼろの月」の倒置。春の朧月の句になる。鳩も心あるのか、桜ではなくグミの枝で巣を作っていたのだろう。

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