明日は夏至。関西では蛸を食べるらしい。蛸からすれば儚き夢を夏の月というところか。
それでは「いと凉しき」の巻の続き。
二表。
二十三句目。
参台過て既に在江戸
時を得たり法印法橋其外も 信章
「法印」はコトバンクの「百科事典マイペディアの解説」に、
「僧綱(そうごう)の最上位。法印大和尚位とも。法眼(ほうげん)・法橋(ほっきょう)の上。864年定められ,空海,最澄,真雅の3人に授けられたのが最初。創設当初は官位では従2位に相当。中世以降仏師,社僧,医師,連歌師などにも与えられる称号となった。」
とあり、「法橋(ほっきょう)」は、
「日本の僧位の一つ。僧綱(そうごう)の最下位である律師に与えられる。法橋上人位とも。官位でははじめ正4位に相当。法印と同様,中世・近世では僧以外にも与えられた。」
とある。
法印の位に付いた連歌師というと中世では心敬がいる。季吟もこの頃はまだだが後に法印になる。紹巴は法眼だった。絵のほうでは狩野探幽が法印になっている。尾形光琳も後に法橋になる。
法印法橋といった僧位を得て江戸に移住すれば、それこそ出世コースの頂点と言えよう。宗因は大阪天満宮の連歌宗匠にはなったが、特に法位はなかったようだ。
二十四句目。
時を得たり法印法橋其外も
新筆なれどあたひいくばく 桃青
法印法橋ともなれば揮毫するだけで高い値がつく。突飛な方の芭蕉ではなくリアルな方の芭蕉が見えている。
二十五句目。
新筆なれどあたひいくばく
歌のこと世上に眼高ふして 似春
新筆で高い値を付けている者を歌人とした。「世上に眼高ふして」は世間で高く評価されているという意味。
二十六句目。
歌のこと世上に眼高ふして
明石の浦は蟹もしる覧 宗因
世間で有名な和歌といえば、
ほのぼのと明石の浦の朝霧に
島隠れ行く舟をしぞ思ふ
柿本人麻呂?
この歌なら人はおろか明石の浦の蟹すらも知っているに違いない。蟹は目が飛び出しているので「眼高ふして」いる。
二十七句目。
明石の浦は蟹もしる覧
蛸にも其入道の名は有ぞかし 磫畫
明石はここでは『源氏物語』の明石入道で、このことは蟹ですら知っているにちがいない。蛸ですら蛸入道と呼ばれているくらいだから。
二十八句目。
蛸にも其入道の名は有ぞかし
八日八日は見えし堂守 木也
ここでは蛸入道は蛸薬師のことになる。京都の永福寺、目黒の成就院などで蛸薬師は本尊とされている。八日が縁日になる。蛸だけに。
二十九句目。
八日八日は見えし堂守
今のかも例をたがへぬ仏生会 吟市
八日を四月八日の仏生会とする。灌仏会とも花祭ともいう。
三十句目。
今のかも例をたがへぬ仏生会
夏花やつつじ咲匂ふらん 似春
ツツジは春の季語だが春から初夏に掛けて咲くため、ここでは「夏花(かばな)」を添えて夏の句にしている。「つつじ夏花や」の倒置。花祭に花を添える。
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