2019年6月21日金曜日

 明日は夏至。関西では蛸を食べるらしい。蛸からすれば儚き夢を夏の月というところか。
 それでは「いと凉しき」の巻の続き。

 二表。
 二十三句目。

   参台過て既に在江戸
 時を得たり法印法橋其外も    信章

 「法印」はコトバンクの「百科事典マイペディアの解説」に、

 「僧綱(そうごう)の最上位。法印大和尚位とも。法眼(ほうげん)・法橋(ほっきょう)の上。864年定められ,空海,最澄,真雅の3人に授けられたのが最初。創設当初は官位では従2位に相当。中世以降仏師,社僧,医師,連歌師などにも与えられる称号となった。」

とあり、「法橋(ほっきょう)」は、

 「日本の僧位の一つ。僧綱(そうごう)の最下位である律師に与えられる。法橋上人位とも。官位でははじめ正4位に相当。法印と同様,中世・近世では僧以外にも与えられた。」

とある。
 法印の位に付いた連歌師というと中世では心敬がいる。季吟もこの頃はまだだが後に法印になる。紹巴は法眼だった。絵のほうでは狩野探幽が法印になっている。尾形光琳も後に法橋になる。
 法印法橋といった僧位を得て江戸に移住すれば、それこそ出世コースの頂点と言えよう。宗因は大阪天満宮の連歌宗匠にはなったが、特に法位はなかったようだ。
 二十四句目。

   時を得たり法印法橋其外も
 新筆なれどあたひいくばく    桃青

 法印法橋ともなれば揮毫するだけで高い値がつく。突飛な方の芭蕉ではなくリアルな方の芭蕉が見えている。
 二十五句目。

   新筆なれどあたひいくばく
 歌のこと世上に眼高ふして    似春

 新筆で高い値を付けている者を歌人とした。「世上に眼高ふして」は世間で高く評価されているという意味。
 二十六句目。

   歌のこと世上に眼高ふして
 明石の浦は蟹もしる覧      宗因

 世間で有名な和歌といえば、

  ほのぼのと明石の浦の朝霧に
     島隠れ行く舟をしぞ思ふ
            柿本人麻呂?

 この歌なら人はおろか明石の浦の蟹すらも知っているに違いない。蟹は目が飛び出しているので「眼高ふして」いる。
 二十七句目。

   明石の浦は蟹もしる覧
 蛸にも其入道の名は有ぞかし   磫畫

 明石はここでは『源氏物語』の明石入道で、このことは蟹ですら知っているにちがいない。蛸ですら蛸入道と呼ばれているくらいだから。
 二十八句目。

   蛸にも其入道の名は有ぞかし
 八日八日は見えし堂守      木也

 ここでは蛸入道は蛸薬師のことになる。京都の永福寺、目黒の成就院などで蛸薬師は本尊とされている。八日が縁日になる。蛸だけに。
 二十九句目。

   八日八日は見えし堂守
 今のかも例をたがへぬ仏生会   吟市

 八日を四月八日の仏生会とする。灌仏会とも花祭ともいう。
 三十句目。

   今のかも例をたがへぬ仏生会
 夏花やつつじ咲匂ふらん     似春

 ツツジは春の季語だが春から初夏に掛けて咲くため、ここでは「夏花(かばな)」を添えて夏の句にしている。「つつじ夏花や」の倒置。花祭に花を添える。

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