今日は箱根登山鉄道の紫陽花を見に行った。
強羅まで行ったので箱根強羅公園へ行った。裏には早雲山が見え、正面には明星ヶ岳の大文字が見えた。薔薇がまだ咲いてた。
紫陽花は大平台のスイッチバックの辺りが特に奇麗だった。
それでは「松にばかり」の巻の続き、挙句まで。
名残裏
九十三句目
むかしにかへる妻をよぶ秋
身入ていろはにほへと書くどき
身入は「しんいれ」とルビがあり、「書」は「かき」とルビがある。「掻き口説く」を「いろはにほへと書き」と掛けている。
『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』(森川昭、加藤定彦、乾裕幸校注、一九九一、岩波書店)の注は、前句を還暦で一切に戻って「いろはにほへと」からやり直すとしている。
昔別れた妻ともとれるし、若い頃に戻って改めて口説くとも取れる。
点なし。
九十四句目
身入ていろはにほへと書くどき
恋の重荷のしるしや有らん
恋の重荷は謡曲のタイトルで『恋重荷』。山科の荘司という卑しい男が女御に惚れて、
「いやいや早や色に出でてあるぞとよ。さる間の事を忝くも女御聞こしめし及ばれ、急ぎこの荷を持ちて御庭を百度千度廻るならば、その間に御姿を拝ませ給ふべきとの御事なり。」(野上豊一郎. 解註謡曲全集 全六巻合冊(補訂版) (p.2754). Yamatouta e books. Kindle 版.)
と、会いたかったらこの荷物を背負えと言われる。恋の奴(やつこ)になる覚悟と言えば、恋の奴隷ということか。「亡き世なりとも憂からじ」と言ってるうちに本当に死んでしまった。
最初は化けで出るがすぐに悟って、
「これまでぞ姫小松の、葉守の神となりて千代の影を・護らんや千代の影をも護らん。」(野上豊一郎. 解註謡曲全集 全六巻合冊(補訂版) (p.2760). Yamatouta e books. Kindle 版.)
ということで目出度く終わる。振った相手に復讐をするのではなく、本当に好きなら死んでもなお愛しい人を守る、という今でもありがちな話だ。
前句の「いろはにほへと」と掻き口説くのを恋の重荷を背負うようなものとする。
点なし。
九十五句目
恋の重荷のしるしや有らん
さらぬのみか尻にしかるる百貫目
女に尻に敷かれるというのは今でも使われるよくある表現だが、その重さが百貫目(約375kg)で、なるほどこれが恋の重荷か、とする。ただ、この時代に「百貫でぶ」という言葉があったかどうかは知らない。
点あり。
九十六句目
さらぬのみか尻にしかるる百貫目
欲には人のよくまよふ也
「欲にはよくまよふ」というのは駄洒落だが、性欲が止められずに後で責任取らされて、その女房にも尻に敷かれっぱなしと、よくあることだ。
点なし。
九十七句目
欲には人のよくまよふ也
六道の辻切をする夕まぐれ
「六道の辻」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「六道の辻」の意味・読み・例文・類語」に、
「[一] 六道へ通じる道の分かれる所。六道のちまた。
※虎明本狂言・朝比奈(室町末‐近世初)「六道の辻へ罷出、ぎんみして、よきざい人を、ぢごくへおとさばやと存候」
[二] 京都市東山区の六道珍皇寺の門前あたりをいう。ここから冥途に道が通じているといわれた。
※光悦本謡曲・熊野(1505頃)「愛宕の寺も打過ぎぬ、六道の辻とかや、実おそろしや此道は、冥途に通ふなる物を」
とある。
京の六道の辻でよく辻斬りがあったのか、斬られた方はともかく、下手人は間違いなく地獄道へ落ちそうだが。
点なし。
九十八句目
六道の辻切をする夕まぐれ
なふかなしやとてなく鳥辺山
六道の辻の傍に葬送の地だった鳥辺野があった。六道で斬られたらそのまま鳥辺野行きか。悲しいもんだ。
長点で「付心やすくて有感か」とある。「六道の辻」に「鳥辺野」はありきたりな発想の付けだが、「夕まぐれ」に「なふかなしや」と情が良く乗っている。
九十九句目
なふかなしやとてなく鳥辺山
咲花を引むしるてふずぼろ坊
「ずぼろ坊」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「ずぼろ坊」の意味・読み・例文・類語」に、
「① 丸坊主に剃った頭。また、そのような頭の人。ずぼろぼ。ずぼろぼん。ずぼろぼうず。ずんぼろぼうず。ずんべらぼん。
※俳諧・毛吹草(1638)一「児(ちご)桜花とみしもやすぼろばう」
② 大入道。大男。
※松翁道話(1814‐46)二「過去よりも未来へ通るづぼろぼう雨ふらば降れ風吹かば吹け」
とある。無縁仏にどこの坊主か知らないが花をむしって供えてくれる。場所柄、今でいう被差別民かもしれない。
長点で「かなしみの心かはりてめづらしく候」とある。
死に対する直接の悲しみではなく、死者も悲しければ坊主も悲しく、全体にじわっとくる感じで、今で言えば「エモい」というところか。
挙句
咲花を引むしるてふずぼろ坊
気ままにそだつ少年の春
前句の坊主を小坊主として、花を引きむしったりしながら自由奔放に育って行く、というところで一巻は目出度く終わる。
点あり。
点のあったのは五十九句で、そのうち長点が二十八句。第一百韻にも勝るとも劣らぬ点数と言えよう。
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