2023年6月13日火曜日

 「もはや戦後ではない」なんて言われたのはずいぶん昔のことだが、民主党政権が終わって第二次安倍内閣が誕生したのは、やはり戦後思想の終わりという一つの転換点だったんだろう。
 ロシアや中国の脅威の中で戦争放棄というものを多くの人がそれで本当にいいのかと思い始めた。
 東西の冷戦時代でも日本が侵略をうける脅威というのはほとんど感じられなかった。日本は安保に守られていつまでも平和でいられると思ってたし、安保を破棄して非武装中立をというのも、東西のバランスが取れてた時にはかなりの人が支持した。
 第二の冷戦と言われた時代は元の冷戦時代に比べると明らかに中露が劣勢だった。グローバル市場の時代が確定的になりながら、それを中途半端に取り入れながら、既に社会主義の理念も何もなく、追いつきたくても追いつけない焦りが爆発してしまった形になっている。
 第二の冷戦は最初から均衡などなかった。不均衡がいつか爆発するのを待ってた状態で、ロシアが結局爆発してしまった。
 一方、日本国内でも右翼は大きく変容して、もはや侵略戦争だとかいう連中もいなくなり、明治の韓国併合が大きな失策だったことを認めるようになっていた。日本の軍拡が純粋に防衛のためのものだということを疑う人の数はかなり減っていた。
 そういう中で、左翼は戦後思想に固執し続けた。
 特に日本共産党は民族自決主義と戦争放棄が明らかに矛盾していることに気付きながら、戦後思想が大衆の支持を得るのに不可欠だと信じ続けてきた。最近の共産党内で起きてる反乱は、この矛盾を放置した結果だと思う。
 あの人たちの駄目なのは、自分たちが劣勢になっても自分たちのやり方を反省することなく、あくまで政府の弾圧のせいだと言って、党内の結束強化に向かってしまうことだ。

 それではTwitterで呟いたなりきり奥の細道の四月二十二日の興行が表六句だったので、今日はその続きを。

芭蕉「農村はみんな互いに助け合い、ゆいという組織を作って、屋根を葺くのもそうだし、念仏講をしたりもする。特に上総念仏は鉦に合わせてみんな揃って詠唱する。」

  雇にやねふく村ぞ秋なる
賤の女が上総念仏に茶を汲みて 芭蕉

乍単「賤の女はお寺に付随する葬儀関係の人かな。念仏講には同座せずに、外は筵を敷いて、最近流行りの唐茶を飲んで涼んで、これはこれで気楽かもしれない。」

  賤の女が上総念仏に茶を汲みて
世のたのしやとすずむ敷もの 乍単

曾良「ここは賤民とは切り離して、普通の人の夕涼みとして、涼しいと眠くなるものですな。蝉の声も夢うつつで聞いて、どんな夢を見てるのやら。」

  世のたのしやとすずむ敷もの
有時は蝉にも夢の入ぬらん 曾良

芭蕉「蝉が夢を見てるというふうに取り成せるかな。蝉の夢といえばやはり恋かな。小枝の向こうの雌と結ばれることを夢見て鳴いてるのかな。」

  有時は蝉にも夢の入ぬらん
樟の小枝に恋をへだてて 芭蕉

乍単「ここは蝉から人への取り成しだべ。クスノキを挟んだ家同士で惚れ合って結ばれた夫婦がいたけど、諍いがあって嫁が隣の実家に帰った。」

  樟の小枝に恋をへだてて
恨みては嫁が畑の名もにくし 乍単

曾良「ならば、姑が嫁を恨むというふうに変えてみましょう。姑は白髪頭で、山に霜が降りたみたく真っ白で、そう、嫁の畑のある場所は霜降山。」

  恨みては嫁が畑の名もにくし
霜降山や白髪おもかげ 曾良

芭蕉「白髪を老いた武将にして、関を越えて遠くへ出陣するのでお別れの宴をする。」

  霜降山や白髪おもかげ
酒盛りは軍を送る関に来て 芭蕉

乍単「関を越えて行く兵を酒盛りで送り出すなんて、もう帰ってこないという旗が立ってるようなもんだべ。春があれば秋があり、生あれば死がある。僧が諭すように歌を詠む。」

  酒盛りは軍を送る関に来て
秋をしる身とものよみし僧 乍単

曾良「粗末な庵で隠棲してる僧としましょうか。鹿の声で秋を知るのでは普通なので、こういうのはいかがですか。」

  秋をしる身とものよみし僧
更ル夜の壁突破る鹿の角 曾良

芭蕉「鹿の乱入。なかなか面白いけど、次の展開が難しいな。山奥から離れ小島にして、花前なので月も出しておこう。流刑となった後鳥羽院を慰める御伽衆とかそんな感じで。」

  更ル夜の壁突破る鹿の角
嶋の御伽の泣ふせる月 芭蕉

乍単「島のお通夜の御伽で、折からの花の季節。そんな所だべ。」

  嶋の御伽の泣ふせる月
色々の祈を花にこもりゐて 乍単

曾良「喪に服して花の下の塚に小屋を建てて遺骨を守る。」

  色々の祈を花にこもりゐて
かなしき骨をつなぐ糸遊 曾良

芭蕉「骨を継ぐを骨折治療に取り成せってことかな。骨折して新しい年を迎える。骨折で足を引く、足ひき‥。」

  かなしき骨をつなぐ糸遊
山鳥の尾におくとしやむかふらん 芭蕉

乍単「枕言葉は無視して年を迎えるで付ければいいんだ。だったら七草の芹の根を掘る。」

  山鳥の尾におくとしやむかふらん
芹堀ばかり清水冷たき 乍単

曾良「芹といえば冬に鴨と一緒に芹焼きですな。薪を運ぶついでに芹と鴨を乗せて。」

  芹堀ばかり清水冷たき
薪引車一筋の跡有て 曾良

芭蕉「雪が降ると日頃威勢の良い武士達の集団も、おとなしく宿に籠っていて、外を通るのは薪を乗せた車だけ。薪といえば京の大原小野の里に掛けて。」

  薪引車一筋の跡有て
をのをの武士の冬籠る宿 芭蕉

乍単「粗忽な武士は事務的な漢文は書けても恋文は書けない。冬は遊郭にも行かず家に籠ってるだけだったりする。」

  をのをの武士の冬籠る宿
筆取らぬ物ゆへ恋の世にあはず 乍単

曾良「空蝉にしましょうか。源氏の誘いを断り続けて、夫と共に地方赴任でほっとしてたが、帰ってくるなり源氏の君の列と鉢合わせしてまた口説かれる。そんなんで浮名が立っても迷惑ですな。」

  筆取らぬ物ゆへ恋の世にあはず
宮の召されてうき名はづかし 曾良

芭蕉「ここは周防内侍の、

春の夜の夢ばかりなる手枕に
   かひなくたたむ名こそおしけれ

を本歌に逃げておこう。

乍単「前句を独寝にして、七夕だというのに虚しいってしておこう。」

  手枕にほそき肱をさし入て
何やら事のたらぬ七夕 乍単

曾良「秋だからここで月を出した方が良いですね。七夕の月は半月だし、新居でまだがらんとした部屋に半月は物足りない。」

  何やら事のたらぬ七夕
住かへる宿の柱の月を見よ 曾良

芭蕉「六条御息所が葵上に生霊を飛ばした時に、祈祷で焚いた芥子の香りが取れないというのがあったな。ここでは髪が赤らんだと少し変えて、密教の御修法を受けに居場所を変える。」

  住かへる宿の柱の月を見よ
薄あからむ六条が髪 芭蕉

乍単「前句を特に六条御息所のこととせずに、年取って髪が脱色したとして、仏前に供える樒を切る人とする。」

  薄あからむ六条が髪
切樒枝うるささに撰残し 乍単

曾良「藤原顕仲の、

しぐれつつ日数ふれども愛宕山
   しきみがはらの色はかはらじ

でしたかな。切残した樒に時雨を付けてツグミの声をあしらっておきましょう。」

  切樒枝うるささに撰残し
太山つぐみの声ぞ時雨るる 曾良

芭蕉「冬の寒い時期の時雨の季節だと、さすがに温泉に来る人も少ない。」

  太山つぐみの声ぞ時雨るる
さびしさや湯守も寒くなるままに 芭蕉

乍単「温泉といえば那須湯本。殺生石の所から湧き出る温泉は最高だべ。人の少ない冬にでも行ってみたいな。」

  さびしさや湯守も寒くなるままに
殺生石の下はしる水 乍単

曾良「殺生石から芦野の遊行柳までの道はこの前歩いたばかりですよ。都の花もはるばる離れたこの地にも、西行さんのように遊行僧も温泉に惹かれて馬に乗ってやってきたんでしょうね。」

  殺生石の下はしる水
花遠き馬に遊行を導きて 曾良

芭蕉「時宗の僧は芸達者で風流が好きだから、花見の酒に飲み過ぎたりしそうだな。酔いを醒ますために馬に乗せて春風に当てる。同時に現世の迷いも醒めて悟りに至るという意味も込めて。」

  花遠き馬に遊行を導きて
酒のまよひのさむる春風 芭蕉

乍単「四十にして不惑というが、酒はいくつになっても迷うものだ。六十ともなれば耳従うで酒も断って生まれ変われるかも。」

  酒のまよひのさむる春風
六十の後こそ人の正月なれ 乍単

曾良「還暦祝いは目出度いもので、田舎の養蚕農家で取れた絹もやがて絢爛豪華な晴れ着となって積み上げられることになる。」

  六十の後こそ人の正月なれ
蚕飼する屋に小袖かさなる 曾良

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