マイナカードは最初の段階で申し込んだんだが、その時は受け取りが平日のみだったし、カードを貰いに行くためにわざわざ有休もと思って受け取りに行かなかったが、今年の春にポイントがもらえるというのであらためて作ってもらった。転居やそのための不動産取引に用いる住民票や印鑑証明書がコンビニで取れたのは有り難かったが、自治体同士の連携がまだ不十分で、スムーズとはいかなかった。
マイナカードの持ち歩きはちょっと緊張するが、落しちゃいけないのは免許証だってキャッシュカードだってクレカだって同じだから馴れだろう。健康保険証だって子供の頃学校の旅行で持って行くという時に、親からさんざん無くさないように念を押された記憶がある。
まあ、マイナカードができるはるか前から国民総背番号制に反対していたのがどういう人たちかは知っている。「ネットで大量の反対署名」というのも例のChange.orgのいつもの連中だろう。
山上の減刑嘆願署名に比べれば大量と言えるかもしれない。さすがに左翼でもあからさまな暗殺テロの肯定には躊躇する人も多い。
基本的に絶対に正しいニュースなんてものは存在しない。目の前で目撃した人ですら、その人の視点で見えたものした知らないし、時が経てばあっという間に記憶は変容する。さらには思い込みや勘違いが加わり、目撃証言すら絶対に正しいとは言えない。
ましてその目撃証言をまた聞きで報道するジャーナリストにどの程度の真実があるのか。不確かな目撃証言に、更にジャーナリスト自身のバイアスが加わり、それがニュースとなって流れる。
ファクトチェックもまた、チェックする人自身のバイアスが余計に加わるため、元のニュース以上に真実から遠ざかる可能性の方が高い。
大事なのは「無知を知る」ことだ。情報を過信しないこと。自分だけが正しい情報を持っているなんて思い上がりは危険極まりない。ヘラクレイトスも言っている。
「Ὕβριν χρὴ σβεννύναι μᾶλλον ἢ πυρκαϊήν.
≪思いあがり〔量りそこない〕は、火事よりも先に消す必要がある。≫ (『ロゴス・モイラ・アレーテイア』マルティン・ハイデッガー、宇都宮芳明訳、1983、理想社p.37)
ジャーナリストに必要なのは、いつでも自分は知らず知らずのうちにフェイクニュースを流しているかもしれないという自戒だ。それのない奴は「護美」だ。マスタベーション護美。
それでは「峰高し」の巻の続き。
名残表、七十九句目。
所望かしよまうかうぐいすの声
手本紙おそらく残ンの雪の色 雪柴
書の練習用の手本紙を書いては見たが、今日は生徒が来ない。手本紙が残雪のように取り残され、鶯だけが鳴いている。
八十句目。
手本紙おそらく残ンの雪の色
がつそうあたま春風ぞふく 在色
「がつそうあたま」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「兀僧頭」の解説」に、
「① 男の髪形で、月代(さかやき)を剃らないで、全体の髪をのばし頭上で束ねたもの。また、その髪をした者。坊主、医者、老人などが主にした。また、束ねないで全体の髪を のばして、垂れ下げた髪形もいう。総髪。がっそう。がっそうがしら。
※仮名草子・可笑記(1642)四「今其方のすがたを見るに、がっそうあたまにやつし、刀わきざしをもささず」
② 芥子(けし)を置かずに髪をのばし、まだ束ねるに至らない七、八歳ぐらいの小児の頭髪。がっそう。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕」
とある。この場合は①で、書の先生にありがちな髪型とする。
八十一句目。
がつそうあたま春風ぞふく
青柳の糸もてまはる鎌つかひ 卜尺
「鎌つかひ」は『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』の注に「鎖鎌のつかい手」とある。鎖鎌はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「鎖鎌」の解説」に、
「〘名〙 武器の一つ。鎌に長い鎖をつけ、その先に分銅(ふんどう)をつけたもの。分銅を相手に投げつけて、武器にからみつかせ、引き寄せて、鎌で斬りつけたり首を掻いたりするもの。
※俳諧・二葉集(1679)「くさり鎌もれて出たる三ケの月 雲居に落る雁の細首〈芭蕉〉」
※浄瑠璃・彦山権現誓助剣(1786)七「直に踏込み打ちかくるを、くぐるは神力くさり鎌(ガマ)、ちゃうちゃうはっしと請止めて」
とある。用例は延宝六年の「わすれ草」の巻。
兀僧頭で髪を束ねてなかったのだろう。風が吹くと青柳のようになり、鎌を振り回す釜使いのようだ。
柳に春風は、
佐保姫のうち垂れ神の玉柳
ただ春風の梳るなりけり
大江匡房(玉葉集)
などの歌に詠まれている。
八十二句目。
青柳の糸もてまはる鎌つかひ
葛城山の草をたばぬる 志計
鎌使いは葛城山の草刈をしていた。
桂木山の草は、
葛城や夏は裾野の草茂み
雨に置く露を誰かわくらむ
慈円(夫木抄)
の歌がある。
八十三句目。
葛城山の草をたばぬる
岩橋の夜のちぎりに蚊をいぶし 松意
葛城山の一言主大神はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「葛城の神」の解説」に、
「奈良県葛城山の山神。特に、一言主神(ひとことぬしのかみ)。また、昔、役行者(えんのぎょうじゃ)の命で葛城山と吉野の金峰山(きんぷせん)との間に岩橋をかけようとした一言主神が、容貌の醜いのを恥じて、夜間だけ仕事をしたため、完成しなかったという伝説から、恋愛や物事が成就しないことのたとえや、醜い顔を恥じたり、昼間や明るい所を恥じたりするたとえなどにも用いられる。
※清正集(10C中)「かづらきやくめのつぎはしつぎつぎもわたしもはてじかづらきのかみ」
※枕(10C終)一六一「あまりあかうなりしかば、『かづらきの神、いまぞずちなき』とて、逃げおはしにしを」
とある。
このことは、
大納言朝光下らふに侍りける時、
女のもとにしのひてまかりて、
あか月にかへらしといひけれは
岩橋の夜の契もたえぬべし
あくるわびしき葛木の神
春宮女蔵人左近(拾遺集)
のように、恋の意味に転じて用いられることもある。
前句の「草をたばぬる」を蚊遣火の草とする。
八十四句目。
岩橋の夜のちぎりに蚊をいぶし
枕に汗のかかる美目わる 一鉄
葛城の神は美目悪だったということだが、葛城の岩橋を恋に転じた趣向が三句に跨ってしまっているが、元の顔が醜いのではなく、蚊を燻す烟にむせて変な顔になっているとして、やや変化を加えている。
八十五句目。
枕に汗のかかる美目わる
恋風や敗毒散にさめつらん 正友
敗毒散はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「敗毒散・排毒散」の解説」に、
「〘名〙 近世、広く愛用された売薬。人参・甘草・陳皮などをもって製し、頭痛、せき、かぜなどに効があった。
※蔗軒日録‐文明一六年(1484)四月一八日「与敗毒散五色」 〔玉機微義‐滞下治法〕」
とある。
恋の病も敗毒散が効いて醒めてしまったか。
八十六句目。
恋風や敗毒散にさめつらん
なみだは袖に一ぱい半分 松臼
「一ぱい半分」は『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』の注に「敗毒散の服用量」とある。
前句の「らん」を反語として、敗毒散に覚めたのではなく、一杯半の泪を流してあきらめたとする。
八十七句目。
なみだは袖に一ぱい半分
夕まぐれ貧女がともす油皿 一朝
前句の「一ぱい半分」を油の量として、前句の泪は貧しさからの泪とする。
八十八句目。
夕まぐれ貧女がともす油皿
夜なべに籠をつくる裏店 雪柴
裏店(うらだな)はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「裏店」の解説」に、
「〘名〙 (「たな」は家屋の意) 市街地の裏通りや、商家の背後の地所に建てられた家。とくに、裏通りに面して建てられた粗末な棟割長屋をいった。うらや。裏長屋。裏借屋(うらじゃくや)。裏貸屋(うらがしや)。⇔表店。
※御触書寛保集成‐三九・寛文二寅年(1662)九月「右之輩町屋表棚に差置申間敷候。裏店に宿借候共」
とある。
前句の油皿をよなべ仕事のためのものとする。
八十九句目。
夜なべに籠をつくる裏店
雪隠のあたりにすだく蛬 在色
「すだく」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「すだく」の解説」に、
「〘自カ四〙 (古くは「すたく」) 呼吸が苦しくなる。あえぐ。〔文明本節用集(室町中)〕
※浄瑠璃・栬狩剣本地(1714)三「急げ急げといふ声も喘(スダキ)せぐりて」
とある。蛬(きりぎりす)はここではコオロギのことで、晩秋の虫の音も弱り息絶え絶えのコオロギであろう。
夜なべで籠を作る手も寒い。
九十句目。
雪隠のあたりにすだく蛬
りっぱに見ゆる萩垣の露 卜尺
すだくコオロギで物悲しいのと裏腹に、どこの屋敷の雪隠か、立派な垣根がある。
九十一句目。
りっぱに見ゆる萩垣の露
はき掃除尻からげして今朝の月 志計
「尻からげ」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「尻を絡げる」の解説」に、
「① 着物の裾(すそ)をまくりあげて、端を帯にはさみこむ。〔伊京集(室町)〕
② (転じて、その走りやすい姿から) 早々に逃げ出す。
※談義本・根無草(1763‐69)前「聖人も父母の国を尻(シリ)引からげて去り給ふは」
とある。ここでは①の意味。
垣根の辺りでは尻からげして掃除している人がいる。
九十二句目。
はき掃除尻からげして今朝の月
住持の数寄の山ほととぎす 松意
数寄は茶道の趣味によく用いられる。ここではもっと漠然とした風流好みということか。住持は朝の月にホトトギスの声を聞いて風流にひたっているが、その頃小坊主は掃除させられている。
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