朝の散歩で太平洋クラブ相模コースの裏を歩いてたら、二頭の鹿に遭遇した。さすがに大きいし近寄るのは怖い。自発的に山に入ってゆくのを待った。
それでは「夜も明ば」の巻の続き。
初裏、九句目。
仮名実名山ほととぎす
お尋を草の庵の帳に見て 雪柴
草庵にも宿帳のようなものがあって、来訪者の名を記していたのか。僧は実名を記す。
十句目。
お尋を草の庵の帳に見て
奉加の金は大儀千万 執筆
庵の帳を奉加帳とする。お金のことはやはりきちっと管理しなくてはならない。
十一句目。
奉加の金は大儀千万
わる狂ひさとれば同じ此世界 松臼
遊郭に金をつぎ込むのも宗教に金をつぎ込むのも似たようなもの。なのに世間の扱いは全然違う。
十二句目。
わる狂ひさとれば同じ此世界
女房どもをとをくさる事 正友
遊女も女房も、女なんてみんな逃げてくだけさ。
十三句目。
女房どもをとをくさる事
手負かと立より見るに股をつき 松意
「股をつき」は『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』に、「男色の誓約に股を刃物で傷つけること」とある。
それがバレてともに女房は去って行く。
十四句目。
手負かと立より見るに股をつき
恋の重荷の青駄也けり 一朝
青駄はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「箯輿」の解説」に、
「〘名〙 (編板(あみいた)の変化した語)
① 長方形の板の回りに竹で編んだ縁をつけた手輿(たごし)。罪人、戦死者、負傷者などを運ぶのに用いた。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
② 左右に畳表を垂れた、粗末な駕籠(かご)。町駕籠として用いた。
※禁令考‐前集・第五・巻四九・寛文五年(1665)二月「町中にて籠あんたに乗候者有之由に候」
とある。この場合は①であろう。股を突いて負傷者として青駄で運ばれてゆく。
十五句目。
恋の重荷の青駄也けり
旅衣思ひの山をそろりそろり 卜尺
前句の青駄を②の意味に転じる。感傷旅行に出ると失恋の傷が重荷になって、町駕籠もゆっくりになる。
十六句目。
旅衣思ひの山をそろりそろり
一首の趣向うき雲の空 一鉄
前句の「思ひ」を歌を案じているとし、何か浮んで来たのか、それに夢中になってうわの空になる。
十七句目。
一首の趣向うき雲の空
初雁は余情かぎりに羽をたたき 志計
「羽をたたき」というのは、
白雲に羽うちかはし飛ぶ雁の
数さへ見ゆる秋のよの月
よみ人しらず(古今集)
であろう。月呼出しになる。
十八句目。
初雁は余情かぎりに羽をたたき
大まな板にのする月影 在色
ここで普通に月に行ってしまうと、本歌を三句に跨らせることになる。雁に月の付け合いは残して、俎板に乗せられた雁が暴れている姿とする。
十九句目。
大まな板にのする月影
水桶に秋こそかよへ御本陣 正友
大まな板から大量の料理を作る大名行列などの宿泊する御本陣とし、月影の中を水桶もそこに通う、とする。
二十句目。
水桶に秋こそかよへ御本陣
いかに面々火用心火用心 雪柴
御本陣でボヤ騒ぎがあったか、水桶で何とか消し止め、みんなを集めて火の用心を戒める。
二十一句目。
いかに面々火用心火用心
此所けしからずふく花に風 一鉄
風が強いと早く類焼するので火の用心を訴える。
二十二句目。
此所けしからずふく花に風
そりやこそ見たか蛇柳の陰 松臼
蛇柳はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「蛇柳」の解説」に、
「[一] 高野山の奥の院へ通じる道の渓流のほとりにあったという柳の木。弘法大師の法力でヘビが化身したものという。
※俳諧・談林十百韻(1675)下「此所けしからずふく花に風〈一鉄〉 そりゃこそ見たか蛇柳の陰〈松臼〉」
とある。
風が吹けば柳の枝が暴れて蛇のようになる。
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