新型コロナウイルスによる肺炎の治療に抗HIV薬だとわかったのは朗報だ。新型コロナウイルスにHIVのタンパク質が挿入されているというインド工科大学の科学者たちが発見はやはり本当だったのか。ワクチンができなくても治療法があれば取り合えず命は助かる。
それでは「守武独吟俳諧百韻」の続き。
三表。
五十一句目。
牛若どのの春のくれがた
あまのはら天狗いづちにかすむらん 守武
牛若丸が天狗に兵法を教わったという伝説がいつ頃生じたのかは定かでないが、謡曲『鞍馬天狗』になって室町後期には広く世に知られていた。
花盛りの鞍馬山での大天狗と牛若丸との交流は、今で言えばBLに近いものがある。そして最後には、
お暇申して立ち帰れば牛若袂にすがり給えばげに名残あり。
西海四海乃合戦といふとも影身を離れず弓矢の力をそへ守るべし。
めやたのめと夕影暗き。頼めやたのめと夕影暗き鞍馬の梢にかけって失せにけり。
と天狗は夕暮れの春の空へと消えて行く。
五十二句目。
あまのはら天狗いづちにかすむらん
しらば鳶にもものをとはばや 守武
天狗はどこに飛んでってしまったか、トンビにでも聞いてみようか。これは遣り句であろう。
五十三句目。
しらば鳶にもものをとはばや
音に聞くくろやきぐすりなにならで 守武
黒焼きは漢方薬とされているが、本来はどうも違ったようだ。コトバンクの「世界大百科事典 第2版の解説」には、
「民間薬の一種。爬虫類,昆虫類など,おもに動物を蒸焼きにして炭化させたもので,薬研(やげん)などで粉末にして用いる。中国の本草学に起源をもつとする説もあるが,《神農本草》などにはカワウソの肝やウナギの頭の焼灰を使うことは見えているものの,黒焼きは見当たらない。おそらく南方熊楠(みなかたくまぐす)の未発表稿〈守宮もて女の貞を試む〉のいうごとく,〈日本に限った俗信〉の所産かと思われる。《日葡辞書》にCuroyaqi,Vno curoyaqiが見られることから室町末期には一般化していたと思われ,後者の〈鵜の黒焼〉はのどにささった魚の骨などをとるのに用いると説明されている。」
とある。「室町末期には一般化」とあるから、守武の時代あたりから急速に広まったのではないかと思われる。まだ噂には聞くことがあっても実物を見た人は少なかったのかもしれない。
同じコトバンクの「百科事典マイペディアの解説」には、
「動植物を土器の壺で原形をとどめたまま蒸焼にして黒く焼いたもの。中国大陸から伝来した民間薬で元禄・享保ごろには江戸・大坂で黒焼屋が繁盛した。マムシは強壮,アオダイショウは性病,イモリは夫婦和合の妙薬といわれたが,薬効はあいまいなものが多い。《竹斎》に古畳や古紙子の黒焼で瘧(おこり)をなおしたという笑話がある。」
とある。
『連歌俳諧集』の注には、室町末期の『金瘡秘伝』の注に鳶の丸焼き、鳶の羽の黒焼きがあるという。
五十四句目。
音に聞くくろやきぐすりなにならで
浪に目のまふ松がうらしま 守武
「松が浦島」は松島の別名。
音に聞く松が浦島今日ぞみる
むべも心ある海人は住みけり
素性法師(後撰集)
による「歌てには」の一種といえよう。
五十五句目。
浪に目のまふ松がうらしま
玉手箱明くればばちやあたるらん 守武
これは浦島を浦島太郎のこととしたというのがすぐわかる。ただ浦島ネタは二十九句目と被る。ただ、二十九句目のほうは時の経過だけではっきりと浦島とは言っていないから別の物語でもおかしくはない。
五十六句目。
玉手箱明くればばちやあたるらん
見えて翁の面と太鼓と 守武
謡曲『翁』は「能にして能にあらず」といわれ、これといった物語はなく、最初に箱を持った面箱が登場し、次にシテが現れ、箱から翁の面を取り出すところから始まる、それとともに鼓が舞台に登場し、翁舞いになる。
守武に時代には太鼓が入ることもあったのか、前句の「ばち」は太鼓のばちに取り成されている。
五十七句目。
見えて翁の面と太鼓と
法楽は一むら雨をさはりにて 守武
法楽は神仏を楽しませる楽や舞いで、能(当時は猿楽)の『翁』も法楽として舞われることが多かったのだろう。
「さはる」は妨げられることで、weblio辞書の「学研全訳古語辞典」に、今昔物語集 二五・一二の「雨にもさはらず、夕方行きたりけるに」が用例として挙げられている。
法楽はにわか雨に妨げられたけど雨が止めば翁の面と太鼓が登場する。
五十八句目。
法楽は一むら雨をさはりにて
連歌まぎるる山ほととぎす 守武
連歌も法楽として盛んに行われた。
村雨とほととぎすは、
声はして雲路にむせぶ時鳥
涙やそそぐ宵の村雨
式子内親王(新古今集)
が本歌か。
法楽連歌は神社に奉納するということで、屋外で公開で行われたりしたのだろう。村雨に中断するとホトトギスの声が聞こえてくる。
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