さて、今年ももうすぐ猫の日がやってくる。今年は令和二年の二月二十二日で、にゃんが四つ重なる。去年買い足した本もあるので、そこから少し猫の句を拾ってみよう。
まず其角編の『虚栗』(天和三年刊)から。
女にかはりて
なれも恋猫に伽羅焼てうかれけり 嵐雪
「なれ」は二人称のくだけた言い方で、ここでは猫に話しかけている。「あんたも恋してんのかい?」といったところか。
伽羅は良質の沈香で、自分だけでなく猫にも伽羅を焚いてやり、恋のうきうきした気分に浸っている。
男が女に成り代わって詠むのは、演歌で言う「女唄」のようなものか。
愛あまる猫ハ傾婦の媚ヲ仮 才丸
愛想のいい猫は傾城の遊女のように媚びている。
恋守や猫こさじとは箱根山 東順
東順は其角の父。
恋守は恋の関所を守るもののことか。「猫こさじ」は、
君をおきてあだし心をわがもたば
末の松山波もこえなむ
東歌(古今集)
の歌によるもので、多賀城にある末の松山は貞観地震の大津波も越えなかったということで、ありえないことの例えとして用いる。
それを踏まえるなら猫が箱根山を越すことはない、という意味だが、「こさじとは」という語尾だと、
契りきなかたみに袖をしぼりつつ
末の松山波こさじとは
清原元輔(後拾遺集)
の方になり、ありえないことが起きてしまったことになる。
越しがたい恋の関所も時に越えてしまうことは起こりうる。
寒食や竃下に猫の目を怪しむ 其角
「寒食(かんしょく)」はコトバンクの「世界大百科事典 第2版の解説」に、
「中国において,火の使用を禁じたため,あらかじめ用意した冷たい物を食べる風習。〈かんじき〉とも読む。冬至後105日目を寒食節と呼び,前後2日もしくは3日間,寒食した。この寒食禁火の風習は古来,介子推(かいしすい)の伝説(晋の文公の功臣。その焼死をいたんで,一日,火の使用を禁じた)と結びつけられるが,起源は,(1)古代の改火儀礼(新しい火の陽火で春の陽気を招く),(2)火災防止(暴風雨の多い季節がら)などが考えられている。」
とある。「竃下」の読みは「そうか」か。使ってない竃の中は猫が暖を取るのにちょうど良い。
猫にくはれしを蛬の妻はすだくらん 其角
「蛬」はコオロギのこと。曲亭馬琴編の『増補 俳諧歳時記栞草』には、
「竃馬 いとど、こほろぎ二名一物。この部「蟋蟀」の条に註す。」
とあり、カマドウマはコオロギのことだとしている。だか一方で、
「蟋蟀(きりぎりす)[大和本草]本草四十一巻、竃馬の附録にのす。一名蟋蟀(しっしゅつ)、又蛬(きゃう)といふ。」
ともある。蛬という字を当てているところを見ると、ここではコオロギと考えた方が良さそうだ。
「すだく」は鳴くことで、夫が猫に食われてしまったからコオロギの妻は鳴いて(泣いて)いるのだろうか、という意味になる。実際に鳴いているのはオスの方だが。
なお、猫とは関係ないが、改夏のところに、
忍び音や連歌ぬす人子規 翠紅
という句があった。この前読んだ「守武独吟俳諧百韻」の五十八句目、
法楽は一むら雨をさはりにて
連歌まぎるる山ほととぎす 守武
にちょっと似ている。
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