2019年9月20日金曜日

 朝鮮通信使(朝鮮来聘使)に関しては、ウィキペディアに、

 「一方で、通信使一行の中には、屋内の壁に鼻水や唾を吐いたり小便を階段でする、酒を飲みすぎたり門や柱を掘り出す、席や屏風を割る、馬を走らせて死に至らしめる[注釈 16]、供された食事に難癖をつける、夜具や食器を盗む、日本人下女を孕ませる[48] 魚なら大きいものを、野菜ならば季節外れのものを要求したり、予定外の行動を希望して、拒絶した随行の対馬藩の者に唾を吐きかけたり[49]といった乱暴狼藉を働くものもあった。」

とある。
 ここで注意しなくてはならないのは、この情報の出典で、

 「屋内の壁に鼻水や唾を吐いたり小便を階段でする、酒を飲みすぎたり門や柱を掘り出す、席や屏風を割る、馬を走らせて死に至らしめる」

に関しては、[注釈 16]、つまり「以上洪禹載『東槎録』(1682)にみられる対馬側から要望された禁止事項の一部」が根拠となっている。禁止されたと言うからにはやっていた、という推測によるものだ。
 ただ、対馬藩は朝鮮(チョソン)との貿易の窓口だったから、来聘使ではなく貿易のためにやってきた商人や船乗りの下っ端がそういうことをやっていたから、念のために来聘使にもということだったのかもしれない。

 「供された食事に難癖をつける、夜具や食器を盗む、日本人下女を孕ませる」

の根拠として引用されているのは、[48]の「通信使のおとし子」(2007.7.18 民団新聞)という新聞記事で、そこには、

 「第11回通信使が往復に11カ月も費やした最大の理由は、復路の大阪で一行の一人が対馬藩の役人に殺されるという「殺人事件」があったからだが、ここではその大阪で、通訳官の一人が一行の世話をしていた日本人下女をはらませたという「別の事件」に注目したい。

 なぜかといえば、その下女が産んだ子供は、何と『東海道中膝栗毛』の作者・十返舎一九という説があるからだ。それは李寧煕氏の『もう一人の写楽』という著書に記されている。謎の浮世絵師・東洲斎写楽とは韓国人絵師・金弘道であるというのが書の主題だが、この主題は十返舎一九が通信使のおとし子でないと成り立たない。

 主題への賛否は留保するが、一行の滞日中、善隣友好という大義名分の他にも様々なレベルの交流があったことをここでは指摘したい。当然ながら、本当の友好関係とは草の根交流がその基礎になっているからだ。」

とある。まあ、どうみてもトンデモ本の法螺話で信憑性はない。

 「魚なら大きいものを、野菜ならば季節外れのものを要求したり、予定外の行動を希望して、拒絶した随行の対馬藩の者に唾を吐きかけたり」

の根拠としている[49]の山本博文『江戸時代を「探検」する』(新潮社)も大衆向けの本で、この記述がどのような資料を基にしているのかは書かれてない。
 ウィキペディアに書いてあるとはいえ、このあたりは噂話の類で、諸説ありとしておくべきだろう。まあ昔の人のことだし、日本の参勤交代の行列でも色々トラブルが起きているから、ありそうなことではあるが、それ以上の意味はないと思う。
 まあ、前振りが長くなったけど、「名月や」の巻の続きにいってみよう。

 初裏、七句目。

   曲れば坂の下にみる瀧
 猟人の矢先迯よと手をふりて   芭蕉

 「猟人」は「かりうど」、「迯よ」は「のけよ」と読む。
 これは何に向って手を振っているのだろうか。おそらく前句に記されてない何かに向ってであろう。つまり、かかれてないけど前句から匂うもの、おそらくは李白観瀑図や観瀑僧図のような絵によく描かれる、滝を見る風流の徒であろう。
 滝は同時に鹿が水を飲みに来る場所でもある。風流の徒も狩人からすれば迷惑な存在だったりして。
 八句目。

   猟人の矢先迯よと手をふりて
 青き空より雪のちらめく     千川

 これは、

   罪も報いもさもあらばあれ
 月残る狩場の雪の朝ぼらけ    救済

の心だろうか。青空は青雲のように明け方の空を思わせる。
 空が晴れているのに雪がちらちらと降ってくるのを見て、ふと殺生の罪のことが気に掛かり、狙ってた鹿に逃げよと手を振る。
 九句目。

   青き空より雪のちらめく
 入口の鎌預れと頼むなり     此筋

 『校本芭蕉全集』第五巻の注には、「鍵(かぎ)の誤りか。」とある。
 雪の明け方に鍵というと、『源氏物語』末摘花の鍵の爺さんか。
 元禄三年の「市中や」の巻の十二句目、

   魚の骨しはぶる迄の老を見て
 待人入し小御門の鎰       去来

は「待ち人」がいて、鍵は「小御門」の鍵でという具体的な情景が記されているが、それをさらに出典から離れて軽くするとこういう感じになる。
 猿蓑調と炭俵調の違いであろう。
 十句目。

   入口の鎌預れと頼むなり
 きりかい鷹の鈴板をとく     濁子

 「きりかい」はよくわからない。「鈴板」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「〘名〙 鷹の尾につける鈴を支える板。〔運歩色葉(1548)〕
  ※俳諧・糸屑(重安編)(1675)三「鈴板は小鷹の印のむすひ哉〈芳際〉」

とある。鈴板を解くために鷹小屋の入口の鍵を預れということか。

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