2019年4月24日水曜日

 随分前のことだがオートマチック車の暴走事故が相次いで、問題になったことがあった。今回事故を起こした車種もいろいろなことが言われているが、結局は全部ドライバーのせいにされて、うやむやになって終わるんだろうな。日本の基幹産業の、その主力の車だし。
 それでは「八九間」の巻の続き。

 十五句目。

   あたま打なと門の書付
 いづくへか後は沙汰なき甥坊主   見

 これも一発治定。「あたま打つな」の取り成しも面白いし、やはり身内とはいえ体罰はいけない。そりゃ家出もするわな。馬莧さん、お見事。
 前句とこの句に丸印がついているのは「合点」ということか。芭蕉の主観で付けたものではなく、当座で受けたという意味だろう。
 十六句目。

   いづくへか後は沙汰なき甥坊主
 やつと聞だす京の道づれ      沾

 これも一発治定。加点はないが、上手く展開している。
 十七句目。

   やつと聞だす京の道づれ
 有明に花のさかりのたてあひて
    をくるる花の        里

 これはしまった。『続猿蓑』のところで芭蕉さんの句と言ってしまったが、里圃さんの句だった。
 原案は有明の月と満開の花とが張り合うというもので、満月と桜の時期がなかなか一致しないことを思えば、ちょっと盛りすぎた感じになる。
 朝の景色であまり盛ってしまうと、前句の明方の宿でやっと京の道づれのことを聞きだしたエピソードが霞んでしまう。「おくるる花」くらいがちょうどいい。明るくなってようやく見えてくる花の「遅る」は「送る」にも掛かり旅人を見送る。
 十八句目。

   有明にをくるる花のたてあひて
 みごとにそろふ籾のはへ口     見

 これも添削なし。場面転換のやり句としては、これ以上はないだろう。
 二表。
 十九句目。

   みごとにそろふ籾のはへ口
 春無尽先落札が作太夫       蕉

 やはりこの経済ネタは芭蕉さんだったか。
 二十句目。

   春無尽先落札が作太夫
 伊勢のみちにてべつたりと逢
    下向に           里

 これは細かいことだが、十六句目の「道づれ」から三句しか隔ててないということだろう。
 二十一句目。

   伊勢の下向にべつたりと逢
 長持にあげに江戸へ此仲間
 長持の小揚の仲間そハそハと    沾

 「あげに江戸へ」は字足らずなので、『続猿蓑五歌仙評釈』では「こあげに江戸へ」の間違いだという。
 初案では「に」が重なって意味が取りづらい。長持ちを運んで江戸へ向う小揚と伊勢に下向する小揚の仲間がばったりと出会う、ということか。
 「江戸」を捨てることで句がすっきりして意味がわかりやすくなるし、場所が特定されないから、その分想像が広がる。なんでもたくさんの意味を詰め込めば良いというものではない。
 二十二句目。

   長持の小揚の仲間そハそハと
 雲焼はれて青空になる
 くわらりと雲の青空になる     蕉

 芭蕉さんもここでは作り直している。
 明方の天気の回復をイメージして、最初は朝焼けの雲のはれて青空になるとしたが、朝焼けを消して単に雲が晴れたとするが、やはり朝焼けのイメージが欲しかったのだろう。『続猿蓑』では「青雲」という言葉を見出

す。
 二十三句目。

   くわらりと雲の青空になる
 禅寺に一日あそぶ砂の上      見

 前句の青空を煩悩の雲の晴れるとして禅寺へ展開する。この展開には芭蕉さんも何も言うことはない。
 二十四句目。

   禅寺に一日あそぶ砂の上
 槻の角の堅き貫穴
     果ぬ           沾

 近代俳句だと、難解な句も読者の想像力不足ということで片付けられる。だから、こういう場合はひたすら想像力をたくましくして、禅寺で一日遊ぶその横では普請が行われて、大工さんが一生懸命欅の角材に貫穴をあけている情景が目に浮かぶようだ、ということになる。『続猿蓑五歌仙評釈』はそういう読み方をしている。
 ただ、それでは俳諧らしい面白みが何もないので、一種の禅問答ということにしてみた。
 時代は下るが仙厓義梵が蛙の絵を描いて「座禅して人が仏になるならば」という讃を添えている。座るだけで仏になれるなら、蛙などとっくに仏になっている、ということか。禅寺に一日遊んでも堅い欅の角材に貫穴を開けることはできない。
 『校本芭蕉全集 第五巻』の注は「遊ぶ人に対して勤労の人を対させた付」と迎え付け(相対付け)としている。
 だがここには、

    つぎ小袖薫うりの古風也
 非蔵人なるひとのきく畠   芭蕉

の「薫うり」に「非蔵人」、

    僧ややさむく寺にかへるか
 さる引の猿と世を経る秋の月   芭蕉

の「僧」と「猿引」、

   月の色氷ものこる小鮒売
 築地のどかに典薬の駕      洒堂

の「小鮎売」に「典薬」のような明確な対立する言葉がない。

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