今日は夕立で、バケツをひっくり返したような雨が降った。
それでは「秋ちかき」の巻の続き。
五句目。
起ると沢に下るしらさぎ
降まじる丸雪みぞれ一しきり 木節
「しらさぎ」は無季なので冬に転じる。明け方の時雨が寒さで丸雪(あられ)やみぞれ交じりになったか、ばらばらと音を立てて、目が覚めれば沢に白鷺の姿がある。霰で薄っすら白くなった中に白鷺の姿が映え、絵画のような趣向だ。雪舟の「花鳥図屏風」の左隻には雪の白鷺が描かれているが、それに近い。
六句目。
降まじる丸雪みぞれ一しきり
手のひらふいて糊ざいくする 芭蕉
「糊ざいく」は紙に糊をつけて固めてゆく張子細工のことだろうか。冬の農閑期の副業と思われる。
初裏
七句目。
手のひらふいて糊ざいくする
夕食をくはで隣の膳を待 支考
前句の「糊ざいく」を衣類に糊を利かせることとしたか。隣の家で法要ががあり、そこの膳をあてにして夕食を抜き、失礼のないように着物はきちんと糊を利かしておく。
八句目。
夕食をくはで隣の膳を待
なにの箱ともしれぬ大きさ 惟然
棺おけのことか。それとは言わずあくまで匂わす。
九句目。
なにの箱ともしれぬ大きさ
宿々で咄のかはる喧嘩沙汰 芭蕉
ちょっとした喧嘩でも噂で伝わってゆくうちに次第に話が盛られてゆき、本当は小さな箱が発端だったのに、いつの間にかとてつもなく大きな箱になっている。旅体にする。
十句目。
宿々で咄のかはる喧嘩沙汰
うぢうぢ蚤のせせるひとりね 木節
喧嘩沙汰は単に宿で聞いた話しとして、旅のあるあるにもってゆく。
「せせる」は今日でも「せせら笑う」に痕跡を残している。元の意味は狭いところをほじくることで、虫が刺すことも言う。人の弱点をちくちくほじくるところから、「牛流す」の巻に、
蓬生におもしろげつく伏見脇
かげんをせせる浅づけの桶 惟然
という用例がある。
夏の旅に蚤虱は付き物で、『奥の細道』の、
蚤虱馬の尿(ばり)する枕もと 芭蕉
の句は有名だ。
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