2023年8月26日土曜日

  芥川賞作家でも紙本を批判するとそんなにバッシングを受けるもんなのかな。まあ、俺なら何でも言える立場だし、紙の本を出してないし、どうせそんな話来るわけないからね。
 ここ何年紙の新刊本はほとんど買ってないし、ラノベはkindleで読んでるし、俳諧関係の電子化されてないものは大体古書を買っている。
 第一に紙の無駄。熱帯雨林が泣いている。大量に紙を消費する社会は、今どき時代遅れ。紙と鉄は使えば使うほど文明人なんて60年代くらいには言われてたけど、その頃若者だった爺さんが未だに大きな顔してるんだろうな。
 第二に紙の本は火や水などに弱い。図書館が火事になったり水害になったりしたら貴重な書籍が失われる。電子化しておけば安心。
 第三に紙の本は場所を取る。図書館だって本が溜まりすぎて困っていて困ってるんじゃないかな。時折あまり価値のない本を整理したりしては、得体の知れないプロ市民が騒いでるけど、電子化しておけば保管に場所を取らなくて済む。
 部屋に置いとくんだって紙の本は場所を食う。それに地震が来たら本棚から落ちてきて危ない。そんなに異世界転生したいのかい。
 そして第四に、かの芥川賞作家も指摘した通り、障害者に優しくない。読書のバリアフリーのためにも、特に分厚い学術書など、電子化を義務付けるべきだ。漫画やラノベは今でもスマホでも読めるからいいとして、専門書は例外なく電子化すべきだ。
 あと、匂いがいいとか言ってるきしょい連中は病院で治療した方が良いね。本馬鹿、本フェチは何とか障害とか病名を与えた方が良い。あっ、だと障害者になっちゃうから、バリアフリーの意味でそういう人たちに少量の紙の本を残さなくてはいけないね。
 アヘン中毒を直すに少量のアヘンを与え、徐々に減らしていくというの、日本もかつて台湾や満州なんかでやってたからね。

 それでは「鼻のあなや」の巻の続き。

二裏
三十七句目

   はづいて来たぞ千代の古道
 ふところへつつと押込松のかぜ

 「外す」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「外」の意味・読み・例文・類語」に、

 ① 取りつけたり、掛けたりしてあるものを取り去る。はまっている所から抜き出す。取り除く。また、比喩的に、ある人をその位置から追いやる。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
  ※宇治拾遺(1221頃)一「箭をはづして火とりて見るに」
  ② つかまえそこなう。とりそこなう。機会などをのがす。また、あやまつ。
  ※宇津保(970‐999頃)国譲上「忍びて御許につかうまつらん。それをさへはづさせ給ふな」
  ※日葡辞書(1603‐04)「モウシ fazzusu(ハヅス)」
  ③ ねらいをそらす。矢などを射て、的(まと)と違う方向にそらす。
  ※宇治拾遺(1221頃)七「三人ながら召されぬ。試みあるに、大かた一度もはづさず」
  ④ 衣服などを身から離す。脱ぐ。「えり巻きをはずす」
  ※虎寛本狂言・茶壺(室町末‐近世初)「一方の肩をはづいてふせって居ましたれば」
  ⑤ その場から離れる。席を去る。避ける。よける。また、相手の攻撃、思惑などをかわす。「席をはずす」
  ※玉塵抄(1563)一五「坊主の曾子が弟子をひきつれてその難をはついたぞ」
  ⑥ 品物などをかすめとる。ちょろまかす。
  ※浮世草子・日本永代蔵(1688)二「豊嶋筵(てしまむしろ)をはづし、はじめて盗心になって行に」
  ⑦ 思わず屁(へ)や尿(にょう)をもらす。失禁する。
  ※咄本・軽口腹太鼓(1752)二「椽先で屁をひとつはづした折ふし」
  ⑧ 遊女が、商売気を離れて心から客と情事にふける。とっぱずす。
  ⑨ 琵琶の左手の使い方の一つ。左手のある指で柱を押え、右手の撥(ばち)で弦をかき鳴らしてから、左手の指を柱から離す。
  ⑩ 能・狂言などのうたい方の一つ。曲の拍子や調子を変えたり、わざと型にはまらない節でうたう。また、本来の調子からずれて音を出す。〔わらんべ草(1660)〕
  ⑪ 将棋で、ハンデを付けるために、上位者が駒の一部を取り除く。
  ※咄本・軽口あられ酒(1705)五「将棋は何と。そうけいに片香車はづし候」

とある、先ほどは⑤の意味だったが、ここでは⑥の意味になる。いまだと「パクってきたぞ」といったところか。昔は懐に金などを入れていた。「千代の古道」に「松のかぜ」が付く。
 点あり。

三十八句目

   ふところへつつと押込松のかぜ
 かたみのあふぎこなたはわすれず

 懐から盗むのではなく懐へ形見の扇を差し入れるとする。
 形見の扇というと謡曲『班女』だろうか。

 「それにつき過ぎにし春吉田の何某殿、東へ御下りの時、わらはが方へお宿を召され、かの花子 にお酌を取らせ候が、何と申したる御事やらん、何某殿の扇と、花子が扇と取り替へて御下り候が、それより花子うつつなくなり、その扇にばかり眺め入り、扇さばくりのみをいたすに依り、皆人 花子がことを、班女と御呼び候。」(野上豊一郎. 解註謡曲全集 全六巻合冊(補訂版) (p.1791). Yamatouta e books. Kindle 版. )

のこの「扇さばくり」のことであろう。
 前句の「松のかぜ」を受けるなら謡曲『松風』になるが、松風が形見に貰ったのは、

 「この程の形見とて御立烏帽子狩衣を、残し置き給へども、これを見る度に、いや増しの思ひぐさ・葉末に結ぶ露の間も、忘らればこそあぢきなや。」(野上豊一郎. 解註謡曲全集 全六巻合冊(補訂版) (p.1563). Yamatouta e books. Kindle 版.)

とあるように烏帽子と狩衣だった。
 『松風』を意識しながら懐に入るものということで班女の扇を思い浮かべたのだろう。
 長点で「行平のゑみがほ思やられ候」とある。

三十九句目

   かたみのあふぎこなたはわすれず
 君すまば朝鮮国のはてまでも

 唐突に朝鮮国が出てきた感じがするが、豊臣秀吉の『三国地図扇』のことだろうか。
 点なし。

四十句目

   君すまば朝鮮国のはてまでも
 その鬼しやぐはんゆるせかよひぢ

 鬼しやぐはんは『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』(森川昭、加藤定彦、乾裕幸校注、一九九一、岩波書店)によると、鬼舎官で加藤清正のことだという。
 舎官はよくわからないが、鬼の棲む家の官僚ということか。本来は旅館という意味。
 補給を考えずに突進しすぎたもんだから、退路を断たれて大変だったようだ。
 点あり。

四十一句目

   その鬼しやぐはんゆるせかよひぢ
 約束でゆけば極楽はるか也

 極楽へ行きたいけど鬼舎官が邪魔する。清正のことではなく、地獄の鬼の意味で用いる。
 鬼舎官は『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』(森川昭、加藤定彦、乾裕幸校注、一九九一、岩波書店)の注に「狂言鬼物の常套句」とあるが、具体的な用例は示していない。
 長点だがコメントはない。

四十二句目

   約束でゆけば極楽はるか也
 釈迦はやりてと夕暮の空

 お釈迦さまは遊郭のやり手婆みたいなもんで、極楽へ行けると言いながら、いつになったら連れてってくれるやら。
 点なし

四十三句目

   釈迦はやりてと夕暮の空
 西方は十万貫目一いきに

 西方浄土は十万億の仏土を隔てた所にあるというが、それを十万貫目と金の単位にする。一文銭千枚が一貫だから、一両を四貫とすると、十万貫は二万五千両になる。これだけの大金を払えば西方浄土に行けるのか。お釈迦さまは王子でやり手だからそれくらいの金は持ってたのではないか、ということか。
 長点で「廿あまりに成かへり、此分限にて一いき有度候」とある。

四十四句目

   西方は十万貫目一いきに
 入くる入くるおらんだ船が

 前句の西方をオランダとして、オランダ貿易の船は十万貫もの大取引のためにやって来るとする。
 点あり。

四十五句目

   入くる入くるおらんだ船が
 早飛脚武州をさして時津風

 時津風はタイミングよく吹く追風で、オランダ船が思ってより早く来たので、その知らせを持って早飛脚が江戸城を目指して走る。
 もっとも一人で走るのではなく、リレー形式ではあるが。
 点あり。

四十六句目

   早飛脚武州をさして時津風
 御譜代家とてひかる月の夜

 早飛脚はリレー形式で、交替で夜も走る。東海道を三日で走ったと言われている。約五百キロの道のりを七十二時間で走ったとしたら、時速七キロだから、それほど全力疾走してたわけでもないのだろう。昔の人は歩くのは得意だったけど、そんなに日頃走るという習慣がなかったから、走るのは一般に苦手だったとも言われている。
 今の駅伝ランナーは時速二十キロで走るから、理論的には二十五時間で走れることになる。
 前句の早飛脚を御譜代家からの飛脚とする。
 点なし。

四十七句目

   御譜代家とてひかる月の夜
 鬢つきも出頭はげに秋のいろ

 出頭はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「出頭」の意味・読み・例文・類語」に、

 「[一] ある場所へ本人が自分で出ること。役所や集まりなどに出向くこと。
  ※実隆公記‐文明七年(1475)正月五日「今日不出頭無事」
  ※浮世草子・国姓爺明朝太平記(1717)一「偽りかざる事を天性と得たるえせものなれば、〈略〉上にも下にも出頭(シュットウ)して、傍輩にもよく押親(おししたしみ)」
  [二] 他よりまさっている状態をいう。出頭一。出頭第一。
  ① 頭を出すこと。他にぬきんでていること。抜群。
  ※狂雲集(15C後)行脚「一箇出二頭天外一看、須彌百億草鞋埃」 〔魏志‐呂布伝・注〕
  ② 立身出世すること。また、その人。
  ※塩山和泥合水集(1386)「尊貴を帯せず出頭を存せずして或は辞し去って跡を深山にかくし」
  ※仮名草子・浮世物語(1665頃)一「主君の気に入りて、知行を取り、しゅっとうしける程に」
  ③ 要路にあって政務に当たること。主君の傍にあって、政務やさまざまな要務にあずかる役職。また、その人。
  ※甲陽軍鑑(17C初)品一一「叔父や従弟などの出頭を笠にきて」
  ④ 主君から特別の寵愛を受けていること。また、その人。
  ※浮世草子・武家義理物語(1688)四「御寐間ちかふめされ出頭(シュットウ)時を得て。人もうらやむ仕合(しあはせ)なるに」

とある。前句の御譜代家から③や④の人物とするが、鬢付が禿げていることで月夜に頭を手からしていて、これが本当の月代。
 点あり。

四十八句目

   鬢つきも出頭はげに秋のいろ
 露のしのはらたてふとふせうと

 前句の「出頭」を篠原の笹の上に頭が出て、ということにしたか。立てば月が出たみたいに見え、伏せれば篠原の露に濡れて秋の色になる。
 点あり。

四十九句目

   露のしのはらたてふとふせうと
 鑓持は花の安宅の関越て

 謡曲『安宅』では義経や弁慶の一団が山伏に扮して安宅の関を越えようとするが、ここではそれと関係なく、武装した一団が安宅関を通過したのであろう。
 先頭を行く槍持ちは文字通りの意味での「露払い」で、篠原の露を打ち払って後から来る主人が濡れないようにする。
 背の高い篠原の笹は立っては上の方を払い、かがんでは下の方の露を払う。
 長点だがコメントはない。

五十句目

   鑓持は花の安宅の関越て
 きのふも三人出がはる小もの

 謡曲『安宅』では義経弁慶の一団が来る前に、

 「太刀持 用のかはなおしやつそ。昨日も山伏を三人斬つてかけて候。」(野上豊一郎. 解註謡曲全集 全六巻合冊(補訂版) (p.3104). Yamatouta e books. Kindle 版. )

とある。
 ここでは出替りの物を三人、とする。
 第四百韻の「十いひて」の巻十八句目にも、

   客僧は北陸道に拾二人
 きのふも三度発るもののけ

と安宅関ネタがあった。
 長点だがコメントはない。

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