2023年8月29日火曜日

  よくよく思い出してみると、昔は日本人も何かというと抗議の電話を掛けてたな。多分最近は威力業務妨害になるのが恐くてあまりしなくなったんじゃないかと思う。昔は何かというと抗議の電話が殺到したなんてニュースになってた。
 今の処理水放出でも、日本人がそれをやらないというのは、左翼もそれだけ冷静だし、騒いでるのは極一部、れいわが中心で多少の共産党員を巻き込んでるくらいじゃないかと思う。
 中国からの抗議の電話も、中国の人口を考えるならそんなたいした量ではないから、多分そんな組織的なものではないんじゃないかと思う。せいぜいチンケな右翼団体がネットで煽ったとかそういうもんじゃないかな。まあ、国家ぐるみで人海戦術でやったら、国際電話の回線がパンクして全然意味がなかったりして、やるならネットでサーバーをパンクさせることを考えるだろう。
 逆に考えれば、台湾有事になった時には本気で嫌がらせをしてくる可能性がある。甘く見ない方が良いとも言える。

 それでは「鼻のあなや」の巻の続き。

名残表
七十九句目

   気疎秋ののらのより合
 その犬のまたほえかかる村薄

 前句の「のらのより合」を野良犬のこととする。野良犬は群れになってることが多い。
 薄は手招きするように揺れるので、妖しい奴と思って吠え掛かる。
 長点だがコメントはない。

八十句目

   その犬のまたほえかかる村薄
 夜ふけて誰じゃ萩の下道

 夜更けに番犬が吠えるから、誰が来たのかと思う。
 村薄に萩は、

 秋萩の花野に混じる村薄
     草の袂ぞ色にいでゆく
             藤原為家(夫木抄)

の歌がある。萩に混じってた薄に吠えたとも取れる。
 点あり。

八十一句目

   夜ふけて誰じゃ萩の下道
 火打箱さがすや露の置所

 火打箱はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「火打箱・燧箱」の意味・読み・例文・類語」に、

 「① 火打道具を入れておく箱。
  ※俳諧・大坂独吟集(1675)下「夜ふけて誰じゃ萩の下道 火打箱さがすや露の置所〈由平〉」
  ② 狭く小さい家をあざけっていう語。
  ※浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)上「家まづしくて身代は、うすき紙子の火打箱」

とある。
 夜更けに尋ねてきた人がいたので、急いで火打ち箱を探して灯りを灯そうとする。前句の萩に露の置き所と付く。
 長点だがコメントはない。

八十二句目

   火打箱さがすや露の置所
 手きざみたばこ風にみだるる

 刻み煙草はキセルに用いる。「手きざみ」というのは刻んでない葉煙草を自分の手で砕いて吸うということか。煙草の葉を刻んで、さあ吸おうと思うと、火打ち箱が見つからず、探しているうちに煙草の葉が風で飛んでしまう。
 点なし。

八十三句目

   手きざみたばこ風にみだるる
 むら消る雲にしゃくりの声す也

 しゃっくりをしたら、その息でキセルの葉が吹き飛んで火が消える。火が消えて煙草の煙が止むのを、風に雲が吹き飛ばされるのに喩える。
 点あり。

八十四句目

   むら消る雲にしゃくりの声す也
 引立見ればひづむ天の戸

 引立はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「引立」の意味・読み・例文・類語」に、

 「① 横になっている物や人を引っ張って立つようにする。引き起こす。
  ※蜻蛉(974頃)上「生糸(すずし)のいとを長うむすびて、一つむすびては、ゆひゆひして、ひきたてたれば」
  ② 戸、障子などを、引き出してたてる。引いて閉じる。
  ※落窪(10C後)二「やり戸あけたりとておとどさいなむとて、ひきたてて、錠(ぢゃう)ささんとすれば」
  ③ 引いてきた車などを、とめる。車をとどめる。
  ※宇津保(970‐999頃)蔵開下「車ひきたててみる」
  ④ 馬などを、引いて連れ出す。引いて連れて行く。
  ※延喜式(927)祝詞「高天の原に耳(みみ)振立(ふりたて)て聞く物と、馬牽立(ひきたて)て」
  ⑤ いっしょに連れて行く。いっしょに行くようにせきたてる。また、無理に連れて行く。連行する。
  ※源氏(1001‐14頃)夕霧「やがてこの人をひきたてて、推し量りに入り給ふ」
  ⑥ 人や、ある方面の事柄を、重んじて特に挙げ用いる。特に目をかける。ひいきにする。
  ※古今著聞集(1254)一「重代稽古のものなりけれども、引たつる人もなかりけるに」
  ⑦ 勢いがよくなるようにする。気分・気力の勢いをよくする。気を奮い立たせる。
  ※新撰六帖(1244頃)六「杣山のあさ木の柱ふし繁みひきたつべくもなき我が身哉〈藤原家良〉」
  ⑧ 一段とみごとに見えるようにする。特に目立つようにする。きわだたせる。
  ※俳諧・七番日記‐文化七年(1810)九月「夕顔に引立らるる後架哉」
  ⑨ 注意を集中する。特に、聞き耳を立てる。
  ※うもれ木(1892)〈樋口一葉〉八「引(ヒ)き立(タ)つる耳に一と言二た言、怪しや夢か意外の事ども」

とある。戸だから②の意味であろう。
 天照大神が天の岩戸を閉ざそうとするとするが、戸が歪んでうまく閉まり切らず、しゃっくりの声が漏れてくる。しゃっくりが出たのを知られるのが恥ずかしくて、岩戸を閉ざして引き籠ったのか。
 点あり。

八十五句目

   引立見ればひづむ天の戸
 ぬか釘も時雨もみねによこおれて

 ぬか釘はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「糠釘」の意味・読み・例文・類語」に、

 「① 非常に小さい釘。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  ② 「ぬか(糠)に釘」の略。
  ※浄瑠璃・心中刃は氷の朔日(1709)上「鉄鎚こたへぬぬか釘で、後は吹きあげ鞴ふく」

とあり、この場合は天の戸を止めている①の釘であろう。
 前句の「引立」を①の立てるの意味に取り成して、時雨の雲が嶺に横たわってるので、それを無理やり立たせて見たら天の戸の釘が外れて歪んでた、とする。
 時雨は天の戸の雲の通い路のひずみから来るという新説?
 点あり。

八十六句目

   ぬか釘も時雨もみねによこおれて
 磯部の松の針とがり行

 「ぬか釘も」を「ぬか釘の」の強調として、ぬか釘のような松の針も時雨の雲が嶺に横たわって尖って行く、とする。
 磯の松に時雨は、

 袖濡らす雄島が磯の泊りかな
     松風寒み時雨ふるなり
            藤原俊成(続古今集)

の歌がある。
 点なし。

八十七句目

   磯部の松の針とがり行
 はれもののうみすこし有須磨のうら

 海と膿を掛けて、腫物の膿を出すために磯辺の松の針を用いる。
 長点だがコメントはない。

八十八句目

   はれもののうみすこし有須磨のうら
 瘤はかたほに見ゆる舟人

 片方(片頬)と片帆を掛ける。瘤が片方だけなので、須磨の浦の腫物のあるその舟人は瘤を片帆にして航行しているみたいだ、とする。
 日本の船は帆を吊るす帆桁がマストに固定されてないため、左右同じようにして真横になるように張ると横帆になり、片側に寄せて斜めにすると縦帆になる。前者を真帆といい、後者を片帆という。
 点あり。

八十九句目

   瘤はかたほに見ゆる舟人
 柴かりのいはれぬはなし又一つ

 『新日本古典文学大系69 初期俳諧集』(森川昭、加藤定彦、乾裕幸校注、一九九一、岩波書店)の注に、

 「鬼に片頬の瘤を取られた柴刈の翁の話(宇治拾遺物語)によって前句に付く。」

とある。童話「瘤取り爺さん」の元ネタで、柴刈のそういう話があるから、下手に鬼が瘤を取ってくれるなんてことは言わない方が良い。両方くっつけられる。
 点なし。

九十句目

   柴かりのいはれぬはなし又一つ
 雪の山路もくちへ出るまま

 柴刈りの山賤に雪というと、

 ま柴かる道やたえなん山がつの
     いやしきふれる夜はの白雪
              藤原頼氏(続拾遺集)

だろうか。夜の雪の山路で迷った話を、口から出るままに大袈裟に話を盛って、延々と語ってくれたのだろう。
 点あり。

九十一句目

   雪の山路もくちへ出るまま
 照月の氷も谷へさらさらさら

 月に氷は、

 あまの原そらさへさえや渡るらん
     氷と見ゆる冬の夜の月
              恵慶法師(拾遺集)
 夜を重ね結ぶ氷の下にさへ
     こころふかくも宿る月かな
              平実重(千載集)

などの歌に詠まれている。
 前句の雪の山路に氷るような月の光が谷へとさらさらと落ちて行く美しい句だが、俳味に欠けるというのがマイナスだったか。
 点なし。

九十二句目

   照月の氷も谷へさらさらさら
 湯漬も玉をみだす春風

 湯漬けはコトバンクの「精選版 日本国語大辞典 「湯漬」の意味・読み・例文・類語」に、

 「〘名〙 飯を湯につけて食べること。また、その食事。蒸した強飯(こわめし)を熱い湯の中につけ、また、飯に湯を注いだ。食べるときに湯を捨てることもある。夏は「水漬」といって、水につけることがあった。
  ※宇津保(970‐999頃)春日詣「侍従のまかづるにぞあなる。ゆづけのまうけさせよ」
  ※夢酔独言(1843)「酔もだんだん廻るから、もはや湯づけを食うがよひとて」

とある。
 春風は、

 春風も吹きな乱りそ青柳の
     糸もて貫ける露の玉ゆら
             空静(延文百首)

などの歌にあるように柳の露の玉を乱すものだが、ここでは湯漬けの強飯の玉をみだして、さらさらにする。「お茶漬けさらさら」という時の「さらさら」と同じ。それを氷った月が溶けてゆくのに喩える。
 点なし。綺麗だがこういう句は貞門時代には有りがちで、それほど新味はなかったのかもしれない。

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