「あれあれて」の巻の続き。
二十五句目。
たらゐの底に霰かたよる
燈に革屋細工の夜はふけて 土芳
「燈」は「ともしび」。革屋細工は穢多だろうか。火を灯して夜通し作業をしていると、霰が降ったのか盥の底に霰が風で一方の方に吹き寄せられている。
二十六句目。
燈に革屋細工の夜はふけて
鼬の声の棚本の先 配刀
「棚本(たなもと)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 台所。勝手元。流し元。また、そこでする仕事をいう。
※咄本・醒睡笑(1628)八「朝食をいそぎ用意し、〈略〉棚(タナ)もとその外掃除をきれいにして置きたり」
とある。
鼬(イタチ)の毛皮は高級品で、特にイタチの仲間であるテン(セーブル)は珍重された。『源氏物語』では末摘花がふるき(黒貂、ロシアンセーブル)の毛皮を着ていた。
皮革業者の台所の向こうでその高級毛皮の元が鳴いている。
二十七句目。
鼬の声の棚本の先
箒木は蒔ぬにはへて茂る也 芭蕉
箒木(ほうきぎ)はこの場合伝説のははきぎのことではなく、箒の材料となる草のこと。コトバンクの「大辞林 第三版の解説」には、
「アカザ科の一年草。高さ約1メートル。多数枝分かれし、狭披針形の葉を密に互生。夏、葉腋に淡緑色の小花を穂状につける。果実は小球形で、「とんぶり」と呼ばれ食用。茎は干して庭箒を作る。箒草。ハハキギ。」
とある。最近ではコキアといって、紅葉を観賞する。
外来の植物だが零れ種から自生することもある。
イタチの毛皮も役に立つし、自生のホウキギも役に立つ。役に立つつながりの響きで付けている。
二十八句目。
箒木は蒔ぬにはへて茂る也
干帷子のしめる三日月 猿雖
帷子(かたびら)は夏に着る単衣の着物。
帷子を干していると夕立が来て濡れてしまい、それが去ると夕暮れの空に三日月が浮かぶ。箒木の茂る頃の情景とした。
二十九句目。
干帷子のしめる三日月
神主は御供を持て上らるる 望翠
「御供(ごくう)」はお供え物のこと。朝夕に行われる。
三十句目。
神主は御供を持て上らるる
暫く岸に休む筏士 卓袋
「筏士(いかだし)」は筏師とも書く。ウィキペディアには、
「筏師(いかだし)とは、山で切り出した材木で筏を組み、河川で筏下しをすることによって運搬に従事することを業としていた者。筏夫(いかだふ)・筏乗(いかだのり)・筏士(いかだし)とも。」
とある。
大井川いはなみたかし筏士よ
岸の紅葉にあから目なせそ
源経信(金葉集)
筏士よ待て言問はむ水上は
いかばかり吹く山の嵐ぞ
藤原資宗朝臣(新古今集)
など、歌にも詠まれている。
神主が朝夕のお供えを運ぶころには、筏士は休憩の時間になる。向え付け。
0 件のコメント:
コメントを投稿